悪役の烙印を押された令嬢は、危険な騎士に囚われて…

甘寧

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愛憎とヤンデレ

「お恥ずかしい姿をお見せして申し訳ありません」

 しばらくして目を覚ましたアイリーンは、汐らしく頭を下げた。

 私など眼中に入っていないようだが、二人だけの空気を作らせる訳にはいかない。

「あらぁ、目を覚ましたならとっとと話をしてくださる?」
「あんたまだいたの?」

 二人の間を割って入ると、あからさまな煙た顔。逆に、私がいないと思ったのか?見返りだけ渡すほど馬鹿じゃない。

「まったく…仕方ないわね。分かった分かった。何が聞きたいのよ」

 ドサッとソファーに腰掛けると、面倒臭そうに聞いてきた。まあ、このまま押し問答していても仕方ないと思ったのか、早くルーファスと二人きりになりたいと思ったのか…

(十中八九後者だな)

 理由はどうあれ、これでようやく落ち着いて話が出来る。

「この世界の事とラウル騎士団長についてなんだけど…」
「ラウル?」
「そう。彼の事を教えて欲しいの」

 前のめりになりながら聞き返した。

 アイリーンは何やら考える素振りをしていたが、ポンッと手を叩いて「あぁ」と呟いた。

「あんた、がタイプなの?」
「──なッ!違っ!」

 こう言う時、図星を付かれたと赤面しなが否定する所なのだろが、私の場合は顔面蒼白で怯えながら首を振った。

「ふ~ん。本意はどうだか知らないけど、彼はね…ヤバいわよ」

 指を立てながら自慢気に言われたが、そんな事は知ってる…

「このゲームは元々純愛が売りで、胸がときめく甘い設定が多いの。愛の足らない女子はそれはもう心酔したものよ。かく言う私もその一人なんだけどさ」

 懐かしむように語り出したアイリーン。その言葉に黙って耳を傾ける。

「そんな純愛メインの物語で、登場人物もそれに合わせた性格をしているんだけど、どんなゲームにもバグって発生するでしょ?」

 ゴクッと喉が鳴る。

「そのバグが、ラウルの性格に出たのよ」
「は?」

 公式の人物紹介では、穏やかな性格で優しく包み込むような愛を育むと書かれていたらしいが、蓋を開けてみれば執拗までの執着と依存が混じりあった歪んだ愛情の持ち主だった。

「ヤンデレと言えば分かりやすいかしら?ちなみに、ラウルルートのエンディングにはハッピーエンドは存在しない。全てがバッドエンド。監禁、薬漬け、闇堕ち、最悪の場合、嫉妬に狂ったラウルの手により死亡。ね?ヤバいでしょ?」

 ヤバイなんてものじゃない…

 そもそも、それを良しとして世に出した制作陣に問いたい。君らのパートナーがもし、それだったらどう思うのかを…

 セレーナは話を聞いてくうちに、全身の血が抜け落ちたように青白くなっている。

「だから私は極力ラウルには近付かないようにしてたの。ルーファス様に会う前に死ぬなんて冗談じゃないもの」

 この時点で、アイリーンの話はあまり耳に入ってこない。

「それで?なんでこんな話を聞きに来たの?」

 セレーナは、黙って俯いたまま首元に巻き付けていたスカーフを取った。

「貴女、それ!」

 アイリーンが驚愕するのも仕方ない。スカーフの下には昨晩付けられた無数の痕がくっきりと残っているんだから。

「お察しの通り、あの人の仕業ですが?どうしてくれんのよ…私は悪役令嬢よ?ヒロインじゃないっての!」

 頭を抱えながら、今までの不満を吐き出した。

 ヒロインが逃げ出す攻略者ってどういう事?アイリーンはどうあれ、ラウルは多少なりとも好意はあったんじゃないの?

 言い出したらキリがないが、現実を突きつけられれば言いたくもなる。

「ふっ」とアイリーンが息を吐いた。かと思えば「あはははは!」高々に笑いだした。

「なぁに?あいつに目をつけられたの?あはっ!ご愁傷様」

 追い打ちをかけるように、嘲笑ってくる。

「貴女だって、ただ死ぬより愛されて死ぬほうが本望でしょう?」

「私の代わり、宜しくね」と耳うちされた。

 もう言い返す気力もないセレーナは、茫然としながら席を立った。

「あれ?もういいん?」

 部屋の外で待つルーファスに声をかけられたが、黙ったまま横をすり抜けて行く。

「ちょ、どうしたん!?酷い顔しとるよ!」

 腕を掴まれ引き止められたが「大丈夫」その言葉を発するのが精一杯。

「ルーファス様はこっち。彼女なら大丈夫ですよ。すぐにが来ると思いますから」

 含みのある笑みを浮かべながら、ルーファスの腕に自分の腕を絡ませ、部屋へと招き入れた。

 ふらつく足取りで部屋を出たセレーナだったが、思いのほか誰にも気付かれずに中庭までやって来れた。

 ベンチに座り、ボーとしながら目の前に咲く花を眺めている。凛としていて鮮やかに咲く花。こんな風に堂々と出来れば、どれほどよかった事か…

「はぁ…」と小さく息を吐いた。

「セレーナ?」
「!?」

 一番会いたくない人間と目が合った瞬間だった。
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