8 / 65
六
しおりを挟む
「お嬢様!」
今朝もまた、ナターシャとの戦いが始まった。
「いやぁ、オフトゥンから出たくない!」
「ミタリアお嬢様……お嬢様はリチャード王子殿下の婚約者となったのです。お相手の殿下に呼ばれております、決して断ることは許されません」
「そんなことわかってる。王族に楯突いてはならない。楯突けば狼に狩られてしまう、私たちは滅ぼされる。王族の言葉は絶対だ! でしょう?」
「そうです」
だからって、お父様とお母様はいつの間にか大量のドレスを発注していた。それもコルセットの締め付けを嫌う私のために付けなくてもいい、似合わない可愛いデザインのドレスばかり。
ナターシャはその中から薄ピンク色を選んだ。着付けて、黒髪にピンクの花が付いた髪飾りをつけてくれた。
姿見に写る私……ピンク色って全然、似合わない……や。
+
登城したけど王子は執務で忙しいらしい。だったら迷惑になると帰ろうとしたが、私を迎えにきた側近に捕まった。
「リチャード様は、ここで待ようにとのことです」
「本当にここで待つのすか? 書庫、庭園ではなく」
ここは王子の寝室じゃない!
入っていいところではないって……既にへそ天の日に入っていた。
「あと、リチャード様から『ミタリア嬢、好きに寛いで寝て待っていてくれ』と伝える様に言われておりました。オフトゥンは干したて、シーツは洗い立てなので気にせずに寝てください。あと飲み物とケーキスタンドをご用意いたしました、遠慮なく召し上がりください」
「ありがとうございます」
「では、失礼いたします」
一人になり、王子の部屋を見回した。
(うぐっ、ふわふわオフトゥンの誘惑)
取り敢えず、ケーキスタンドが置かれたテーブルに座った。
チラッ
(ふかふか、見て分かる生地のよいオフトゥンだ……このまえ眠ったとき気持ちよかった、あーダメ、ダメ)
チラッ
(触るくらい、いいかな?)
チラッ
(王子は好きにしていいって言ったよね)
ふわふわオフトゥンーー王子、失礼しますと飛び乗った。私の体を包み込むふかふか具合、干したての香りがするオフトゥン。
「こ、これは堪らん」
もみもみ、すりすり、今日は寝ちゃっても獣化しないからね。
+
王子の第一声で目が覚めた。
「ミタリア嬢……! おい、また獣化してへそ天かよ」
「……ほえっ?」
怪訝な表情を浮かべて、ベッドのヘリに王子は座って、私を見下ろしていた。
「リチャード殿下!」
「おはよう、ぐっすり寝ていたようだね」
(うっ、うう、王子の笑顔が怖い)
「ミタリア、気を抜くのはいいが。俺じゃない誰が部屋に来て、獣化を見られたらどうするんだ!」
「うっ……ごめんなさい」
それに関して、反論できない。
「お前だって、獣化研究所になんて行きたくないだろう?」
「ひぃっ、獣化研究所! 殿下もその場所に行ったことがあるの? ……私も小さい頃に両親と行ったことがあります」
獣化した者は1度、獣化研究所に連れていかれる。私も獣化したとき両親に連れて行かれた。そこで獣化ーー裸の体を触られたり隅々まで検査された。
(いま思い出しても、ぞ、ぞ、ぞと恐怖しかしない)
「そうか、お前もあの嫌な検査を受けたんだな……だったら尚更、注意しろよ」
「ごもっともです」
王子が怒るのも分かる。周りの獣化しない獣人たちに、獣化すると知られては他ならない。獣化は原種の血が濃い特別種。誘拐されて、人間の国に連れていかれて高値で売られる。
売られたら最後……。国には帰れず一生、獣化が解けない魔法付きの首輪を向けられて、獣化のまま観賞用として飼われるか、変態に取り外しができる首輪を付けられて、半獣にしていけないことをする輩もいると聞いた。
両親が王子との婚約を喜んだ裏には、王子の婚約者の間は王族に守ってもらえるという、意味もあるかもしれない。
魔石のペンダントだってそうーー他の人が見てもわからない加工で銀製で肉球の形をしている。でも、ひっくり返して裏を見れば獣化を抑制する、魔石が埋め込まれているんだ。殿下のも一見お洒落な銀製のブレスレットにしか見えないけど、内側に魔石が埋め込まれていると言っていた。
「お前は俺が目を離すと、すぐに変な奴に誘拐されそうだ……やはり、俺がミタリアを守らないと」
「リチャード殿下?」
「いや、なんでもない。本当に気を付けてくれよ、俺の婚約者さん」
へそ天のお腹の上にブレスレットを外して獣化した王子が、またもや不機嫌な顔でもふんと顔を乗せのだった。
今朝もまた、ナターシャとの戦いが始まった。
「いやぁ、オフトゥンから出たくない!」
「ミタリアお嬢様……お嬢様はリチャード王子殿下の婚約者となったのです。お相手の殿下に呼ばれております、決して断ることは許されません」
「そんなことわかってる。王族に楯突いてはならない。楯突けば狼に狩られてしまう、私たちは滅ぼされる。王族の言葉は絶対だ! でしょう?」
「そうです」
だからって、お父様とお母様はいつの間にか大量のドレスを発注していた。それもコルセットの締め付けを嫌う私のために付けなくてもいい、似合わない可愛いデザインのドレスばかり。
ナターシャはその中から薄ピンク色を選んだ。着付けて、黒髪にピンクの花が付いた髪飾りをつけてくれた。
姿見に写る私……ピンク色って全然、似合わない……や。
+
登城したけど王子は執務で忙しいらしい。だったら迷惑になると帰ろうとしたが、私を迎えにきた側近に捕まった。
「リチャード様は、ここで待ようにとのことです」
「本当にここで待つのすか? 書庫、庭園ではなく」
ここは王子の寝室じゃない!
入っていいところではないって……既にへそ天の日に入っていた。
「あと、リチャード様から『ミタリア嬢、好きに寛いで寝て待っていてくれ』と伝える様に言われておりました。オフトゥンは干したて、シーツは洗い立てなので気にせずに寝てください。あと飲み物とケーキスタンドをご用意いたしました、遠慮なく召し上がりください」
「ありがとうございます」
「では、失礼いたします」
一人になり、王子の部屋を見回した。
(うぐっ、ふわふわオフトゥンの誘惑)
取り敢えず、ケーキスタンドが置かれたテーブルに座った。
チラッ
(ふかふか、見て分かる生地のよいオフトゥンだ……このまえ眠ったとき気持ちよかった、あーダメ、ダメ)
チラッ
(触るくらい、いいかな?)
チラッ
(王子は好きにしていいって言ったよね)
ふわふわオフトゥンーー王子、失礼しますと飛び乗った。私の体を包み込むふかふか具合、干したての香りがするオフトゥン。
「こ、これは堪らん」
もみもみ、すりすり、今日は寝ちゃっても獣化しないからね。
+
王子の第一声で目が覚めた。
「ミタリア嬢……! おい、また獣化してへそ天かよ」
「……ほえっ?」
怪訝な表情を浮かべて、ベッドのヘリに王子は座って、私を見下ろしていた。
「リチャード殿下!」
「おはよう、ぐっすり寝ていたようだね」
(うっ、うう、王子の笑顔が怖い)
「ミタリア、気を抜くのはいいが。俺じゃない誰が部屋に来て、獣化を見られたらどうするんだ!」
「うっ……ごめんなさい」
それに関して、反論できない。
「お前だって、獣化研究所になんて行きたくないだろう?」
「ひぃっ、獣化研究所! 殿下もその場所に行ったことがあるの? ……私も小さい頃に両親と行ったことがあります」
獣化した者は1度、獣化研究所に連れていかれる。私も獣化したとき両親に連れて行かれた。そこで獣化ーー裸の体を触られたり隅々まで検査された。
(いま思い出しても、ぞ、ぞ、ぞと恐怖しかしない)
「そうか、お前もあの嫌な検査を受けたんだな……だったら尚更、注意しろよ」
「ごもっともです」
王子が怒るのも分かる。周りの獣化しない獣人たちに、獣化すると知られては他ならない。獣化は原種の血が濃い特別種。誘拐されて、人間の国に連れていかれて高値で売られる。
売られたら最後……。国には帰れず一生、獣化が解けない魔法付きの首輪を向けられて、獣化のまま観賞用として飼われるか、変態に取り外しができる首輪を付けられて、半獣にしていけないことをする輩もいると聞いた。
両親が王子との婚約を喜んだ裏には、王子の婚約者の間は王族に守ってもらえるという、意味もあるかもしれない。
魔石のペンダントだってそうーー他の人が見てもわからない加工で銀製で肉球の形をしている。でも、ひっくり返して裏を見れば獣化を抑制する、魔石が埋め込まれているんだ。殿下のも一見お洒落な銀製のブレスレットにしか見えないけど、内側に魔石が埋め込まれていると言っていた。
「お前は俺が目を離すと、すぐに変な奴に誘拐されそうだ……やはり、俺がミタリアを守らないと」
「リチャード殿下?」
「いや、なんでもない。本当に気を付けてくれよ、俺の婚約者さん」
へそ天のお腹の上にブレスレットを外して獣化した王子が、またもや不機嫌な顔でもふんと顔を乗せのだった。
10
あなたにおすすめの小説
モブ令嬢、当て馬の恋を応援する
みるくコーヒー
恋愛
侯爵令嬢であるレアルチアは、7歳のある日母に連れられたお茶会で前世の記憶を取り戻し、この世界が概要だけ見た少女マンガの世界であることに気づく。元々、当て馬キャラが大好きな彼女の野望はその瞬間から始まった。必ずや私が当て馬な彼の恋を応援し成就させてみせます!!!と、彼女が暴走する裏側で当て馬キャラのジゼルはレアルチアを囲っていく。ただしアプローチには微塵も気づかれない。噛み合わない2人のすれ違いな恋物語。
【完結】嫌われ公女が継母になった結果
三矢さくら
恋愛
王国で権勢を誇る大公家の次女アデールは、母である女大公から嫌われて育った。いつか温かい家族を持つことを夢見るアデールに母が命じたのは、悪名高い辺地の子爵家への政略結婚。
わずかな希望を胸に、華やかな王都を後に北の辺境へと向かうアデールを待っていたのは、戦乱と過去の愛憎に囚われ、すれ違いを重ねる冷徹な夫と心を閉ざした継子だった。
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
22時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
断罪予定の悪役令嬢ですが、王都でカフェを開いたら婚約者の王太子が常連になりました
由香
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生していることに気付く。
このままでは一年後の夜会で婚約破棄され、断罪された上で国外追放されてしまう運命だ。
「――だったら、その前に稼げばいいわ!」
前世の記憶を頼りに、王都の裏通りで小さなカフェを開くことにしたエリザベート。
コーヒーやケーキは評判となり、店は少しずつ人気店へと成長していく。
そんなある日、店に一人の青年が現れる。
落ち着いた雰囲気のその客は、毎日のように通う常連になった。
しかし彼の正体は――なんと婚約者である王太子レオンハルトだった!?
破滅回避のために始めたカフェ経営が、やがて運命を変えていく。
これは、悪役令嬢が小さなカフェから幸せを掴む
ほのぼのカフェ経営×溺愛ロマンスストーリー。
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
何やってんのヒロイン
ネコフク
恋愛
前世の記憶を持っている侯爵令嬢のマユリカは第二王子であるサリエルの婚約者。
自分が知ってる乙女ゲームの世界に転生しているときづいたのは幼少期。悪役令嬢だなーでもまあいっか、とのんきに過ごしつつヒロインを監視。
始めは何事もなかったのに学園に入る半年前から怪しくなってきて・・・
それに婚約者の王子がおかんにジョブチェンジ。めっちゃ甲斐甲斐しくお世話されてるんですけど。どうしてこうなった。
そんな中とうとうヒロインが入学する年に。
・・・え、ヒロイン何してくれてんの?
※本編・番外編完結。小話待ち。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる