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十一

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 ーーもみもみ、王子の側は安心する?
 ーーもみもみ、王子にもっと甘えたい?


「おい、やめろミタリア!」

「にゃ? リチャード殿下」

「なんて顔してんだよ。これじゃ、襲っちまうぞ」

(顔?)

「そこでキョトンとするな、俺だけかぁ!……くそっ」

「えっ、まっ、リチャード殿下?」

 くるんと、ひっくり返されて強めに王子の顔が乗っかった。そんなにもみもみダメだったの。

「ご、ごめんなさいにゃ」

「あーー謝るな、ただ恥ずかしかったけだ。それと、ミタリア。リチャード、俺をリチャードと呼べってと言ったろ!」 
 
 不機嫌な表情だ、これは呼ばないといけない。一回だけならいいかな。

「リ、リチャード……さま」

 ーーとくん。

(えっ、な、なに?)

 とくん、とくんと脈が速くなる……婚約破棄後に死ぬのは嫌だからと。前世の記憶を思い出した時に、心に芽生えた小さな花を手折った。

(それなのに、王子の名を呼んだだけでキューっとお腹が熱い)

 ゴクッと小さくなった喉の音も、王子には聞こえているはず。王子の頬にすりすりしたくて仕方がない。王子も息が荒い……王子も同じ気持ちなの。

 むくっ、とお腹から顔を離して覗き込むように、王子の瞳が私を見た。

「ミタリア……?」

「にゃっ? リチャード……でっ、あ、……様?」

 お互いにどうして、いま、こんな気持ちーー頬にすりすりしたくなるのか、分からない。

(ここで、王子に触れてしまったらどうなる? いや、ダメ、ダメ! 王子はヒロインのものだ……悪役令嬢のものにはならない。ものってなんだが嫌な表現だけど。ダメ、ダメ。きっと、悲しい気持ちになる……から)

 慌ててるうちに、王子が至近距離にいた。

(うわぁ、近い、近い!)

 そんな真剣な瞳で見ないで。

「ミタリアーーお前のもふもふなお腹に触っておいてなんだが。頬にすりすりしてもいい?」

「いや、にゃ」

 しゅっ、避けた。

「いいだろう?」

「無理にゃ!」

 しゅっ、また避けた。

 ーー避けても、避けても、王子がぐいぐい責めて来る。

「にゃあ! にゃ、だめにゃ、いまは触っちゃ嫌にゃ! リチャード様の婚約者にしてにゃ」

「何言ってんだ? ミタリアが俺の婚約者だろう?」

「あっ、そうだったにゃ」

「ははっ、なんだよそれ、可愛い」

 王子の笑った顔に気を取られて、すりすりを許してしまった。







 すりすりの後、少し考えてニヤッと王子は笑った。もう一回しでもいいと聞いた王子との攻防戦。それを止めたのは側近リルだった。

 追っかけあいこ中、コンコンと部屋の扉が鳴った。

「リチャード様、夕飯のお時間ですがどうされますか?」

 で、私たちは一斉に時計を見た。

(7時⁉︎ 家まで時間がかるから直ぐに城を出ないと)

「遅い時刻だな。俺がミタリアの家に連絡するから、今日は客室に泊まっていけば?」

 無理だと首を振る。

「お疲れの、リチャード様の読書の時間をこれ以上は潰したくないなゃ」

「ふっ、ミタリアは優しいのだな。泊まりは来年に入学する学園の長期夏季休暇にでも、すればいいな。リル、直ぐに食堂に向かうと父上に伝えてくれ」

「かしこまりました」

 王子が見ないように背を向けたので、テーブルの上の腕輪を着けて元に戻り着替えた。私が着替えた終えたのを見て、王子も腕輪に手を伸ばしたので目を瞑った。

 よし行くか、と王子に馬車まで送って貰っている途中。王子が私の手を握った。その手は大きな、男の人の手だった。

「小さな手だな」

「リチャード様の手が、大きいだけです」

「くくっ、そうだな」

 ーーなんだか嬉しそう?

「ミタリア、今日は遅くまで悪かったな。明日、明後日と俺は忙しくなるから城に来なくていい。3日後の早朝に迎えに行くから」

「3日後の早朝にですか?」

「なんだ、忘れたのかよ。母上の所に着いてきてくれるって、約束したよな」

「……あ、約束しました」

「じゃ、3日後に会おう。気をつけて帰れよ」



 ゆっくり走る帰りの馬車の中で、私は馬車用オフトゥンに丸まっていた。

(ヒロインとのイベントなのに……私が行くことになっちゃった)と。
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