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二十

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 恥ずかしくて、照れるけどーー王妃殿下と王子は楽しそうに笑ってくれた。この笑顔と王子の弟と妹をなくしたくない。

 いま思い出した記憶はしっかり戻ったら、忘れないうちにノートに書かなくては。

「ミタリア、グルーミング約束な」

「や、約束ですか? リチャード様は本気で言っています?」

「本気だけど、本当に僕が3ペロで終わるか確かめないと、すりすり、甘噛みはしたから」

 ――そうだ。王子にすりすりと甘噛みは、すでにされてしまっている。

「リチャード様、3ペロなんて言葉の綾です。別に、た、試さなくても大丈夫ですよ」

 狼姿の王子をブラッシングするならいいけど、ペロは難易度が上がる。もう少し王子と親密な関係になったのなら、出来るかもしれないけど。

 ――いまは無理。

 それに……この話を始めてからお腹のむずむずは大きくなっている。それは王子も同じなのか、同じ所を時々気にして撫でているようにみえた。

 それに気付いた――王妃殿下は王子と私を交互に見て頷き。

「ミタリアちゃん、少しリチャードに話があるから2人キリにしてもらえる? 応接間で休むか、書庫、庭園のテラスで待っていて欲しいわ」

「はい、分かりました。庭園のテラスに出てもいいですか?」

 えぇっと、王妃殿下はベッドの脇に置かれた、鈴を鳴らしてご自分の専属メイドを部屋に呼んだ。

 コンコンと扉を鳴らしてメイドがやって来る。

「お呼びですか、王妃殿下」

「リチャードに少し話があるから、ミタリアちゃんを庭園のテラス席に案内してあげて」

「かしこまりました、ミタリア様。庭園のテラスにご案内いたします」

「はい、王妃殿下、リチャード様失礼いたします」

 王妃殿下と王子を部屋に残して、私は庭園のテラスに案内された。







 王妃殿下の部屋に残った王子。

「母上、僕に話とはなんですか?」

「リチャード、貴方――お腹のこの辺に紋様が浮かんでいない? そうね、お腹の右下あたりかしら?」

 ――何故、紋様のこと母上はわかった?

「はい――花のような形の紋様が腹の右下あたりに、浮かびました」

 俺は服をめくり、母上にお腹に浮かび上がった紋様を見せた。その紋様は薄いピンク色をしている。

 母上はその紋様をじっくり見て。

「それだと、まだ出来立ての紋様のようね――この色だと、2人はまだ軽い甘噛みくらいで、キスはしていないのね」

 ――キス? この紋様でそこまで分かってしまうのか。

「はい。ま、まだですが。その、キスが――この紋様とは関係あるのですか?」

「えぇあるわ。婚約者のミタリアちゃんにもあなたと同じ位置に、同じ形の紋様が浮かんているはず。私も経験あるからわかるわ、時々むずむずするのよね」

 俺はそうだと母上に頷いた。

「母上の言う通り、時々ーーそれもミタリアといるときに、むずむずしたり熱くなったり、ずきっと痛むときもあります」

「そう、まだ痛みもあるのね。リチャードにはっきり伝えるわ。この紋様は――どちらかに好きな人が出来れば、すぐに消えてしまう紋様ね――例えるなら儚い恋」

 儚い恋。

「そんな……僕かミタリアに好きな人ができると、この紋様は消えてしまうのですか?」

 ――嫌だ。俺はミタリアと繋がる番の証――この紋様は消したくない。

「その様子だと、リチャードはミタリアちゃんが好きなのね。でも、相手のミタリアちゃんはあなたを好きかな? と、恋の一歩手前で止まって悩んでいるのかしら」

 恋の一歩手前? そうか――ミタリアは僕を好きかどうか悩んでいるのか。

「母上、僕はミタリアが欲しい――僕だけを好きになってもらいたい」

 リチャードと名前を呼び、母上は座ったまま俺に向けて手を広げた。俺はテーブルを立ち母上に近付き体を寄せると、優しく俺を抱きしめてくれた。

 こうされるのは15年ぶりなのだろう――とうに忘れてしまっている、母上の柔らかな香りと体温を感じた。それは懐かしい。この温かさはミタリアが言わなければ、けして感じられなかった母上の温かさだ。

「だったら、リチャードも陛下の様に強く優しく、時にはしっかり言葉を伝えられる、立派な狼になりなさい」

 立派な狼……僕はまだ何人前。強く、優しくなり、ミタリアを守れる狼になりたい。

「……分かりました。なれるよう努力いたします、母上」


 ーー絶対に俺を好きにさせる。
 
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