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二十三

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「ミタリア、10月の舞踏会では俺の側を離れるな。人族がもし不用意に近付いたら距離を置け」

「はい、分かりました」

 私も、カーエン王子とは出来ればお会いしたくない。でも、カーエン王子は笑うと糸目になるんだ、キャラ的には好きな見かけだったけど、性格がやばそうだった。

 ――恐ろしいというか、笑っていても、目が少しも笑っていなかった。でも、ヒロインと知り合い笑顔を取り戻すんだ。


 王子と私を乗せてのんびり進む馬車と、ふわふわオフトゥン――ふわぁっと出そうなあくびを噛み締めた。それを見た王子は笑い、本を取り寝そべった。

「俺はいまから本を読むから、公爵家に着くまで寝てていいぞ」

 眠そうな、私に気遣ってくれたみたい。

「リチャード様、ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきますね」

 ヒールを脱ぎ、オフトゥンの上にコロンと寝転び目を瞑った。やはり高級オフトゥンはふかふかで触り心地も良い……

「おやすー、すー」

「ミタリア? もう寝たのか? くくっ、ゆっくり寝ろよ」
 






 ――?

 ――あ、あ?

 蒸し暑い! 寝返りを打ちたいのだけど、何かに阻まられて体を動かせない。

 どうして、こんなに暑いのになぜ動けない? で目覚めた。

 目が覚めたら覚めたでで自分の状態に驚くしかなかった。獣化して猫になった私を王子が胸の上に抱えて、寝そべり読書していたのだ。

 それもオフトゥンの上で?
 何をどうしたら、こうなったの?


 近い、王子と近過ぎる。


「あ、あの、リチャード様」

「ん? もう、目覚めたのかミタリア。まだ着かないから寝てていいぞ」


 いや、いや、待て待て、この状況の説明をして。


「リチャード様、どうして? 私はリチャード様の上で獣化しているにゃ?」

「それはな、俺がミタリアとオフトゥンで寝ようとしたけど、狭いから、ミタリアのブレスレットを外して猫にしたら、ミタリアが自分で俺の胸の上に乗ってきた」


 ――自分で、ここに乗ったぁ!


「私が自分で乗ったにゃ?」

「そう、俺の胸の上でうねうねして、スピーっと眠りだした」

「うねうね……そんな行動をしたにゃ? にゃ、止めて起こしてくださいにゃ!」

「可愛いかったから、起こせなかった」


 王子は読んでいた本をパタンと閉じて。

「さてと、俺も狼になるかな? 一緒にお昼寝して帰ろうな」

 この状態で? 待って! と止める前に王子はカチッとブレスレットを外して狼姿になった。乗っていた私はバランスを崩して転がり、もふもふオフトゥンの上に落ちた。

「にゃぁ、リチャード様! 側近リルとか従者、近衛騎士に、見られたらどうするんですにゃ?」

「別に気にしないよ。ミタリアは俺の婚約者だし――俺は王子だ」

「そうにゃけど」

「あいつらは俺が小さな頃から支えてくれた者ばかり。言わば俺の大切な友達だ」

「リチャード様の大切な友達」

 そうだと、こくりと頷いた。


 ――みんなを信頼してるんだ。


 もそもそ動いて、王子が寝そべる隙間に転がった。王子は狼でも半獣でも大きい。見上げると目が合い細めた。

「あのさ……ミタリア」

「にゃんですか?」

「今日は一緒に来てくれてありがとうな」

 私の顔を近付けてすりすりした、もしかして王子――照れちゃうから獣人したのかな。

「ふふっ、どういたしましてにゃ、リチャード様」


 仲良くオフトゥンに寝て帰ったのだけど、屋敷に着いてからが大変だった。

「リチャード様、見ないで、目をつぶって! あれっ? 下着がない!」

「下着か、俺も探すか?」

 ――えっ⁉︎

「リチャード様の変態! 探さなくて結構です。わっ、鼻をヒクヒクしないでぇ!」

 匂いを嗅がないでと、王子の鼻を押さえた。

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