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二十四

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 馬車は公爵家に着いた。

「リチャード様、明日会えますよ」

「分かった、今日は帰るよ。また、明日な」

 寄って行きたそうな王子と別れて、屋敷の部屋に戻り私はすぐにノートを開き、思い出したことを全て書いた。

 1番に思ったことは王子の笑顔を守りたい。ついでじゃないけど、国王陛下と王妃殿下も守る。

 この世界で多分、私が――私だけが物語を知っている。それを有効に活用してやるんだから。
 

 




 夏が過ぎ9月になった。

 今日は秋薔薇を眺めながらテラスでお茶をしていた。なぜか今日は私の前に、本を片手に難しい表情を崩さない王子がいた。

 なぜ? だと私なんかが聞いていいのだろうか。
 ぎゅっと拳を握った。いいや、聞いたろうじゃないかい。


「リチャード様、何かありました?」 


 私の問いに一瞬だけ口元を噛み、開いた。
 どうやら王子は、私に話を聞いて欲しかったみたい。

「ミタリア、今年の夏は雨量が少なく……農家の作物の収穫が少ないんだ。秋と冬ーー我が国は貯蓄が底をつき食糧難になりそうなんだ。周りの国も同じ状況で――父上は収穫が安定している人族に助けを求める、要望書を出そうか悩んでいる」

 食糧難? そんな話――ありうる。でも、去年はじゃがいもとサツマイモが大量に収穫できたんじゃなかった、それに豆、卵……それらを料理に上手く使えばなんとかならない。

 じゃがいも料理だったら、料理下手な私だって知ってる。ーーじゃがいもガレット、じゃがいものグラタン、じゃがいもスープ。下手でも、よく作ったのは玉ねぎとじゃがいもを千切りにして塩胡椒で炒めて、卵で包んだオムレツ。

 こんなこと言い出して変に思うかな。ううん、思えばいいじゃない。

「リチャード様、私が口を出すのをお許しください。じゃがいも、さつまいもで料理を考えてみてはどうでしょうか?」

「じゃがいもとさつまいもの料理か……どちらも、蒸して食べるくらいだな。俺はあまり好きではない」

「えぇ、リチャード様はじゃがいもとさつまいもお好きじゃないのですか? 私の家ではジャガバター、コロッケ、スープなどにして食べています」

 どれも美味しいけど、やっぱり、私の1番はじゃがいものお味噌汁だけど。

「ジャガバター、コロッケかどれも美味そうだな。蒸すだけじゃなかったんだな、さつまいもは? 何かあるのか?」

「えーっと家では蒸しパンに混ぜたり、蜂蜜たっぷり大学芋、ゴロゴロっとパンケーキに入れたりします」

 王子は頷き、何か考えている様だ。

「そうか。いま、ある物で新しいメニューを考えるのか……いいな。どうなるか分からないが父上に伝えてくるよ。ミタリアはここで待っていてくれ、絶対にそのブレスレットを外すなよ」

「はい。私はここで、大人しく日向ぼっこをして待っております」

 王子は急いで国王陛下の元に向かった、私はテラスに1人残り。王子が置いていった本が気になり取ろうとして、席を立った。

(あっ、近くに誰かいる)

 立ち上がって目線が高くなった私の瞳に、薔薇園の近くのベンチで眠る、金髪の男性の姿が見えた。何故かその男性が気になり、隠れて(自分では隠れているつもり)様子を伺っていた。

「ぷっ、それで隠れているつもり?」

 寝ているかと思った男性は、私を見て笑っていた。

(この人、金髪、碧眼色の瞳、それに耳と尻尾がない?)

 ーーまさか、人族? 

 その場で動けずにいると、その男性はベンチを立ち微笑みながら、私の側に来て自分の胸に手を当てた。

「初めまして、僕はカーエン・ハーロス。この国の国王陛下と話をするために来たんだけど、話がちっとも進めまなくて、休んでいたんだ。君は?」

 ひ、ひゃぁ! こ、こ、この人は! カーエン王子だ。彼はゲームと同じ声と見た目。笑っているのに目が笑っていないのも、ご健在していた。

 出来れば会いたくなかった。

 でも彼は王子なので、私はスカート持ち彼に会釈した。

「私はリチャード様の婚約者。ミタリア・アンブレラと言います」

「へぇ、君がローランド王子殿下の婚約者か。確か猫族だったかな? ん? そのブレスレットって、まさかミタリア嬢は獣化するの? 君の猫の姿見たいな」

(私の獣化が見たい? ……カーエン王子は獣化に興味がある?)

 彼の手が伸び、私のブレスレットに触れようとした。

「やっ、やめて! 触らないで」

「いいじゃん。ちょっとだけ見せてよ――猫ちゃん」

 嫌がっているのに無理矢理、私のブレスレットを取ろうと迫ってくる。

 カーエン王子から逃げれない! 
 リチャード様、来て!


「「やめないか!」」


 もうダメかと思った時に、王子のドスの効いた声が庭園に聞こえた。

「俺の大切な婚約者に触れないでもらおうか!」

 カーエン王子の手を遮る様に、リチャード様が後ろから私を引き寄せて、胸に抱きしめた。 


(……た、助かった)


「ハーロス王子殿下、探しましたよ。王の間で父上が待っております」

「そう、ミタリア嬢また会おうね」

 ひらひらと手を振り近くに居た側近と、城の中に消えて行った。

「大丈夫か、ミタリア? あいつに何もされていないか?」

「されて、おりません。リチャード様が来てくださって良かっ……た」

「あ、ミタリア?」

 王子が来てくれて、ほっとしてぽろぽろと涙が溢れた。それを見た王子は私を抱きしめて「くそっ、こんな所にあいつがいるとはな――俺の部屋に連れて行けばよかった」「怖い思いをさせてごめんな」と謝る。それに首を振った。

 でも、あの人、怖い、ものすごーく怖い。ヒロインじゃなくてよかったぁ。

 しばらくして涙は止まり、落ち着きを取り戻した私はテラス席に戻り、王子から国王陛下との話を聞いた。

「ミタリアの案が適用されそうだ。国中の料理人にじゃがいも、さつまいものレシピを考えた者に賞金を出すことになった。新しいレシピが集まれば、人族からの物資提供が通常の半分以下に、抑えれそうだともおっしゃっていたよ」

 そして、この国で人族に大きい顔をされなく済むと、王子は笑顔でおっしゃっていたと聞いた。
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