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五十一

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 王子と仲良く庭園のテラスで日向ぼっこしていた。
 テーブルには王城のコック新作、焼きカボチャプリンと桃が乗ったミルクプリン。ブルーベリーのシャーベットが、お茶請けに用意されていた。

 お砂糖は使われていない、卵と豆乳、果物そのままのプリンとシャーベットだ。
 王城のコックは凄い研究熱心で、王城に来るたびに新作お菓子を作ってくれる。毎回余りの愛しさにレシピを貰って帰るほどだ。

 溶けてしまう、ブルーベリーのシャーベットを先に、食べながら王子は聞いてきた。

「チココが食べてはならない食べ物だと、知っていたのは前世の記憶だったのだな」

「……はい」

「そうか……大体話はわかった。それで? ミタリアはそのゲームで誰を推していた?」

「えっ、誰推し?」

 散々、前世の話と乙女ゲームの話をして、最初に出た言葉が誰推し?
 悪役令嬢とか? 
 ヒロインとか?
 ここがゲームと似た世界とか?  

 普通ゲームの世界! なんだそれは? って驚かないの?

 まぁ王子が私を婚約破棄する、と言ったときに眉はひそめたけど。
 私が前世の記憶を持っていることも、さほど驚いていない様子。

 この話をするって緊張していたのに、なんだか拍子抜けしてしまって、こっちから王子に聞いてしまった。

「色々と、気にならないのですか?」

「前世の記憶を持っていてもミタリアは、ミタリアだろ? 焼きカボチャと桃、どっちのプリンがいい?」

 今度はプリンの話になった。
 焼きプリンかプルプルプリン……か。

「リチャード様と半分こ、両方食べたいです」

「はははっ、ミタリアならそう言うと思っていた。じゃー俺と半分こな。……俺がさ、気になるのは前世のミタリアの推しは誰だった? ってことそれだけだ」

 ど、どれだけ王子は前世の私の押しを知りたいの。
 言えと言わんばかりに、ジッと王子の青い瞳を向けられた。

 そんなに気になるのなら、もう、言っちゃえと。

「わ、私の推しは……リ……ド様だよ(噛んだ)」

「はぁ? よく聞こえなかった、もう一度言って」

「リチャード様です!」

「聞こえなかった、もう一度」

「……!」

 嘘だ、口元が笑ってる。王子は気になったから聞いているかもしれないけど。ずっと王子を選んで遊んでいたなんて変じゃない?

(他のイケメン攻略者がいるのに、王子一人だよ)

 絶対に王子だって私を変だとも思う。
 絶対に変。私だって変なのはわかってる。
 前世の私は仕事の疲れを、王子の笑顔が好きで癒されていた。
 元々、獣人好きで銀色の髪、青い瞳、耳と尻尾、まじで顔がタイプ。

 愛が重いし、痛い、変過ぎて言えない。

 男性と付き合ったことがない、恋愛経験ゼロだし。
 前世は王子よりも年上なのに、毎回王子に翻弄されていることも。

「なぁ、ミタリア、キスしていい?」

「えっ、えぇ、きゃっ、リチャード様!」

 驚きで、耳と尻尾の毛がポフッと逆立った。だって、いつの間にか近くに居て、いきなりテラスの床に押し倒して、強引にキスするんだもん。

「ミタリア、なんて顔してんだよ。俺のこと好き過ぎだろ! 俺だって一途だ。ヒロインがなんだって言うんだ、ミタリアと婚約破棄なんてありえねぇ、お前が俺の番、確定だ……いま、腹が熱いだろう?」

 王子の指先がドレスの上からアザの場所をなぞった。
 触られて、アザがさらに熱を帯びる。

「やぁっ、あつっ、熱い、リチャード様」

「俺もだ。ミタリアの頬がほんのり赤くなって可愛らしい。俺は父上をも超えて強くなる。すぐ側で見ていて欲しい」

 真剣な王子の瞳に、私はコクリと頷いた。

 そのあと優しく起こされて頬にキスされて。お茶を再開してのだけど、焼きカボチャとプルプル桃のプリンの味は、心が舞い上がってしまい、わからなくなってしまった。

(……あとで、レシピ貰って帰ろう)







 それから1週間が経ち。

 王妃殿下と王妃似の可愛い、お子様は無事に王都に戻ってきた。
 そして誕生会などを含めた舞踏会の日時が、私の誕生日五月十七日に決まった。

 王子は執務、舞踏会の準備のなどが忙しく、学園に来れない日々が続いていた。
 会えなくて寂しいけど、私は学園から家に戻りせっせと王子にプレゼントするハンカチに狼の刺繍をしたり、ナターシャに頼んでルピナスの白い花を買ってきてもらって、押し花にした。

 この、ルピナスの白い花を押し花にして、王子とお揃いの栞を作りたかったんだ。花言葉を探して、ルピナスの白い花の「つねに幸福」の言葉が気に入っている。
 
「王子はハンカチと栞、喜んでくれるかな?」

 彼の笑顔が見たくて、内緒でプレゼントを黙々と作っていた。


 それは王子もだった。五月のミタリアの誕生日に婚約指輪を贈りたい、もちろん手作りで。

 彼もまた空いた時間を使い、彫金屋に通っていたのだった。

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