竜人さまに狂愛される悪役令嬢には王子なんか必要ありません!

深月カナメ

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第三章 獣人の国に咲いた魔女の毒花編

第36話

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 次の日から、水龍の泉の近くで青桜の木を育てる、わたしの試練が始まった。
 もし、青桜の木を育てることが出来なかったら…ダメ、ダメ。そんな暗いことは考えない! と、自分に言い聞かせた。
 まだ小さな青桜の木の前で、手を広げすーはぁーと深く深呼吸をした。

「よし、やりますか!」

 先程、小さな通信用の水晶玉から「私達も行ってくるね、何かあったらすぐに連絡だよ」とアル様達から連絡があり、ここのみんなで「行ってらっしゃい、気をつけてください」と返した。

 今日のシーラン様は長い黒髪を後ろで高めに結び、紺のチュニックを着ていた。リズ様にリオさんも赤と黒のチュニックの格好だ。
 シーラン様達は竜人王様との、訓練をここでするらしい。

「よろしお願いします、竜人王様!」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願い致します」
「わかった、さあー来い。先にシーランの実力から見てやる」

 湖の近く、ここからでも見渡せる、森の開けた原っぱで訓練を初めた。
 その原っぱ近くの離れた木の下ではアオさんと、一緒にお昼寝をするお師匠様の姿が見えた。フォルテ様とヘルさんの二人は、この森の何処かの木の上で、見張りをしているだろう。

 みんなは自分の任務や、目標を立ててやる事をやっている。わたしも頑張る。気持ちが落ち着いてくると、森の中や、周りがしっかり見えてくる。
 そんな、わたしは気になるものを見つけた。

 近くの湖…(あっ、いま。湖の水面が揺れたわ)その後に水龍様の顔が見えた、こっちを伺うように見てる?
 落ち着く前は気にならなかったけど、多分。この森にみんなと来てからずーっとこうだったのかな? 
 水面が揺れて水龍様が顔を出す…そしてまだ沈む、それを何回かしてる。
 正直に言うとその行動が気になった。
 何か伝えたいことや、話したいのであれば、話しかけてくだされば良いのに!

 わたしが湖の水龍様に気を取られすぎたのか、コツッと額に何か当たって落ちた。
 
「んっ⁉︎」

(どんぐり?)

「小娘よ、水龍は後で良い、イメージが崩れているぞ」

 えー、お師匠様は起きてたの⁉︎ わたしをずっと見ていたらしいけど…糸目過ぎて全然気付かなかった!

「集中します!」

 わたしは息を吸い込み、全神経を集中させて、魔力が両手に集まるイメージをした。

(よし、いい感じにイメージが出来てきた)

 そのイメージが固まり、わたしは「青桜の木よ。大きくなれー」と声と願いを乗せて…上に向けて手を広げた。
 わたしの放った魔力を感じて、青桜の木が揺れ始めるとお師匠様の膝の上で寝ている、アオちゃんの体も反応して光り始めた。

 青桜の木もゆらゆらと揺れながら、少しずつ、少しずつ枝を伸ばし葉を付け、幹を伸ばし育つ。
 そして、青桜の木は小さな小さな木にまで育った。青々とした葉っぱ、伸びた枝、幹、しっかり土の中に埋まる根っこ。青桜の木は成長をした。
 後残りの半分の魔力を使ったら、魔法協会に戻り癒しの木の下で、日向ぼっこにお昼寝をするのだと、もう一踏ん張り青桜の木に魔力を注いだ。
 魔力を浴びる前の青桜の木はわたしの膝ぐらいの大きさだった。でも、魔力を浴びたいまでは、約十五センチ以上伸びて、腰の下の位置まで伸びた。
 その、伸びた枝に花の蕾を付けるまではいけなかったけど、初日でここまで育てばいいかな? うまく出来たと、自分なりに満足をした。

 一方原っぱでは、シーラン様達は竜人王様と三対一で、魔法を加えた実地訓練をしていた。

 三人を相手にする竜人王様のげきが飛ぶ。

「シーラン! 魔力の扱い方が雑だ、イメージと魔力集中をしろ!」
「はい!」

「リズ! お前は魔力も体力もイメージも不足だ! 毎日の魔力イメージに走り込みをやっておるのか!」
「やっております!」

「リオ! お前のイメージは丁寧過ぎる。それでは敵に先を読まれてしまうぞ、もう少し荒々しく、イメージを雑にしても良い!」
「わかりました!」 
 みんなは何度、転ばされても起き上がり、竜人王様に向かう。わたしはそれを見ていて、羨ましく思っていた。それに気が付いたのか、竜人王様は声を上げた。

「おい、小娘! お前は残り少なくなった魔力を練るでは無い! イメージを止めろ! 自分の役割が終わったなら、そこで休んでチビ竜達の頑張る姿を見ていろ!」

 あらら、バレてた…シーラン様達を見て真似をしてイメージしていただけなのに、竜人王様にはわかってしまった。

「はい、ここで見ています」

 近くの木の幹に体を預けて、シーラン様達の訓練を眺めた。汗を流して、頬や体が泥まみれになりながらも、竜人王様と訓練する姿は初めて見たかしれない。

 その訓練をする姿が素敵だと、シーラン様を食い入るように見ていた。

「よし、これで今日の訓練は終わりにする、三人とも良くやった! 体力や魔力を消耗しておるな」

 竜人王様がちょっと待っていろと言い、木の木陰から、小さな木の箱を持って帰って来た。

 その持って来た木箱の蓋を開けると、中にはたくさんの茶瓶が見えた…それを見た途端に、シーラン様達は眉をひそめて青ざめた。

「アルボルに森に行く前に「何かあったらいけないから」と、たくさん持たされた、何でもあいつのー? ……ああ【特製ポーション】だと言っておったな、どれどれ我も一つ」

 竜人王様は茶瓶の蓋を取り、一気に飲んで動きが止まった。わたし達の前で見る見る、顔色が青ざめて…コトっと茶瓶が草の上に落ちた。

「な、な、何だこれは! 苦い、渋い。くーわぁーマズ! しかし何だ? 体の奥底に浸透して魔力が回復したぞ…くっ、だが飲んだ後のダメージがぁぁっー……はぁーはぁー……君達も訓練や試練で疲れているだろう? 遠慮なくこれを飲みなさい。ほら、小娘」

 言語がおかしい? 竜人王様は優しく微笑み、ポンとその茶瓶をわたしに投げて横した。これがアル様特性のポーションか…怖いもの見たさ? で気になる。
 シーラン様はわたしにそれを飲むのか? と目で訴えてくる。

 物は試しだ! ええいー飲んじゃえっー‼︎ 蓋を開けてポーションを飲んだ。さらさらとした飲み物ではなく、ドロっとした液体? 何かのペースト状。
 あの朝に貰って飲んだ、アル様の美味しいスムージーでは無かった。

「…ううっ、苦い、渋い」

 なかなか喉元を通らない、なんだかわからない不思議な葉っぱ? 木の実の味? 
 しかし、口に入れちゃったからと、気合でゴクっと飲み込んだ。
 あっ、飲み込んだ後。体の奥底がじわりと熱くなり魔力が回復したかも? 良薬口に苦しと言うけども、これは、それを遥かに超える苦さに渋さだ。
 飲んだ後に精神的なダメージが来る。

「シャルロット嬢、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です。シーラン様もお一ついかが?」
 茶瓶を木箱から一つ取り見せると。あっ、シーラン様ったら、露骨に嫌な顔をしたわ。リズ様にリオさんに至っては、目も合わせてくれない。

 仕方がないと、出したポーションを木箱に戻した。

「さて、皆さん。魔法協会に戻って休みましょうか?」

 その提案にみんなは頷き賛成した。休んだ後は…『シャルちゃん、水魔法の練習を始めてね』と、アル様に言われた。
 水魔法を練習しながら、自分の使える魔力量を覚える。
 いつも全力で魔力を使うから、ぶっ倒れる…
 それを無くす為のイメージトレーニング。その場にあった魔力量を使えるようにする。

『大変だけど…これをマスター出来たら後に自分の役に立つからね。それと、ごめんね。シャルちゃんの聖女の力を頼りにしている』

 いつものアル様らしくなくて、弱気な感じがした。でも、実際に聖女の力を持ってるのだもの、使えるようになって役に立ってみせる。

 わたしはアル様の目を見て頷き『わかりました、任せてください』と微笑んで会釈をした。


 ♢


 魔法協会に戻る前にお師匠様に声をかけた。何やら徹夜で研究をしていたらしくて、ぐっすり? 熟睡している?

 あれっ、どんぐりを飛ばした時には起きてたようだけど、いまは寝ているのか前を通っても微動だにしない。

「お師匠様。わたし達は魔法協会に戻りますよー」
「…ん?」

 本当に熟睡していたみたいで眠そうなお師匠様は、膝で寝ているアオちゃんを見て驚きで糸目が開いた。

「うおっ、え、えー⁉︎ お前はアオなのか?」
「んー? なーにぃ、そうだよ」

 これは驚くのもしょうがないかな? 
 何とアオちゃんは手乗りくらいの大きさから、赤子の大きさくらいに育っていた。
 青桜の木が大きくなるにつれて、アオさんも成長をしていた。

「レク、レク起きたの?」
「おい、アオ!」

 嬉しそうにお師匠様に擦りつく、少し大きくなったアオさんを、お師匠様は嬉しそうに目を細めて笑った。

 みんなもその光景を微笑みながら見ていた。
 お師匠様は森に残ってアオさんといると言っていたので「わたし達は魔法協会に帰りますよー」と、近くの木々に声を掛けた。
 すると、隣の木が揺れて「では、俺達も戻ります」と、フォルテ様とヘルさんが木から降りて来た。
 どうやら二人はすぐ、側の木の上で見張りをしていたようだ。

「では、帰りましょう」

 と声を上げたと同時に、ザバァッと音を立てて、湖の方で水面に波が起こり、水龍様が水面からしっかり顔を出した。

 あーしまった。水龍様の事を…ど、忘れしていたわ。

 その水龍様を見れば目が座り、なんだか不機嫌そうな面持ち。バシャバシャと体をくねらせて波しぶきを上げて、こんな事を水龍様は言い出した。


「いいなぁーなんと羨ましいことだ、レクオールめ! ずるいぞー」


 水龍様はお師匠様にとてつもなく、拗ねた声を上げたのだった。

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