竜人さまに狂愛される悪役令嬢には王子なんか必要ありません!

深月カナメ

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第三章 獣人の国に咲いた魔女の毒花編

水龍様の願い(前編)

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 名指しされたお師匠様は湖近くで、水面から顔を出した水龍様に話しかけた。
 
「水龍どうした? 何か言いたいことがあるのなら、行ってみろ」
「お前ではない……一人、小娘だけこっちに来てはくれぬか?」

「えっ? わたし?」

 わたしは水龍様に呼ばれて、水辺の近くまで行った。

「はい、なんでしょうか水龍様?」
「もっと、近くだ!」

 湖近くまで行くと水龍様は、他には聞こえない様にする為なのか? わたしの周りに水の幕を貼った。
「あっ⁉︎」
 急に周りに水が攻めて来たと驚き、両手で口元を押さえた。

「ふぐっ……ふぐぐっ⁉︎ (息が⁉︎)」
「大丈夫だ、安心するのじゃ」

 そう言って、わたしの口元の手を掴んで外した。

「ぐぐっ……あれっ……息が出来る⁉︎」
「はっ、はは、大丈夫じゃよ小娘。これはワシの出した幻の様なものだ」

 ーー幻? 水龍様にそう聞きわたしは周りを見た。

 わたしの目に映ったのは青い水の中…水が光に反射をしてゆらゆらと、波紋を起こして揺れていた。

 なんだか懐かしい。昔に家族と行った、水族館を思い出した。 

「小娘よ」
「はい……あっ」
 
 その水の中に短い青色の髪、ブルーの瞳に紺色の民族衣装の漢服に似た服を着る、人型となった水龍様がいた。
 長い黒髪のシーラン様の様な美形の方が、私の目の前で、何やら……もじもじしていてる。
 なぜか、一向に、こちらと目も合わせない。

「あの、水龍様?」

 声を掛けるとハッとわたしと目が合う。

「こ、こ、小娘よ。ワシにも…レクオールの様な、嫁が欲しいのだ」

「「お嫁さん⁉︎」」

 水龍様は目を細めて、そうだと大きく頷く。
「あやつを…レクオールを羨ましく思うておる。いいのー、唐変木のあやつに嫁が出来るなど、あってはならぬとは…言わぬが、幸せそうに顔をニヤけさすあやつを見て、ワシは羨ましい」
 でも、急に「お嫁さんが欲しい」と言われてもどうする? わたしはお嫁さんを斡旋しているわけではないし。

 まっ、まさか水龍様はわたしに「ワシの嫁になれ」と仰ってるの⁉︎ 

「そこで小娘に…このなぁ……」

 水龍様が言い終わる前に、胸の前で手を振る。

「そ、そ、それは困ります! わたしには心に決めた人が既におります、水龍様のお気持ちには答えれません!」

「んん、小娘? そんなことは重々ワシもわかっておるぞ」
「へっ?」

 よく見るとわたしの大きな勘違いで、水龍様はわたしに向けて、手を前に出していた…。

 わたしの大きな勘違いで、赤くなった頬を隠すために、水龍様に深く会釈をした。

「すみません、わたしの早とちりでした」
「良い良い、それでなっ…これを見てくれるか? 花梅の実の種なんだが…なっ」
 手のひらに乗せた小さな種を見せた。

 ーー種……まさか。

「これを小娘の「植物を生やす」魔法で育ててはくれぬか?」

 やっぱりか……喜んでやりたいけど、もし、ダメだったら? 水龍様をがっかりさせてしまう。

「大丈夫、小娘ダメでもワシは怒りはせぬよ。これは賭けみたいなものだ…二百年前のワシの話し相手だった、あやつがまた蘇るかもしれぬ」

 水龍様は何処か、遠い日を思い出しているのか、その種を優しく見つめている。

(良し! やるぞ!)

「わかりました、水龍様! 精一杯頑張ります!」
「ありがとう、小娘」

 ♢

「小娘、よろしく頼む」

 水龍様から種を受け取ると、わたしの周りを覆っていた水の膜が消えた。
 水龍様も元の姿に戻ることはせずに、人型のままでわたしの横に立った。
 そこにシーラン様が駆け寄って来る!

「貴様は誰だ!」

 シーラン様は水龍様に飛び掛かろうとした!
 
「待って! シーラン様! 攻撃しちゃダメ!」 

 わたしは飛び掛かるシーラン様に、必死に飛び付き抱き付いた。
 引っ付いたわたしに動きが止まるシーラン様。

「離せ! シャルロット嬢!」
「離さない! この方は水龍様なの!」
 
「はぁ? 水龍様⁉︎」
「そうなの、シーラン様」

 シーラン様はあがった息をふーっと吐くと、ギュッとわたしを抱きしめた。

「水龍様の所に行ったはずなのに、急にシャルロット嬢の姿が消えたんだ…魔力まで感じなくなった」
「シーラン様?」

「俺の勘違いだ…だけど、もう少しこのままでいて欲しい」

 離すまいと近寄るシーラン様に、わたしからも擦り寄った。

「チビ竜よ、驚かせてすまぬ。ワシが悪かった!」
 
 水龍様は皆に頭を下げた。
「本当にすまぬ。後ろのチビ竜達も気を収めてくれぬか?」
 
 わたし達の後ろと言われて、シーラン様から顔を出して覗くと、リズ様とリオさんが練った魔力を収めていた。

「おい、水龍!」

 声を上げてズカズカと、リズ様とリオさんの横を通り、前に歩いて来る竜人王様。

「お主はさっきから、何をしているんだ! いまは大切な時期、小娘を何処かに連れて行く気だったのか⁉︎   事と場合によっては我が叩くぞ!」
「竜か…小娘に頼み事をした。そーおいや、お主にも可愛い嫁がおるなー羨ましい」
「嫁か! 我の嫁は可愛いぞ! 羨ましかろう!」

 竜人王様は腕を組みして声高らかに笑った!
 それを見て悔しがる水龍様。

「ああ、羨ましい! ワシにも可愛い嫁が欲しい!」

 あっ、水龍様との二人の内緒話が、ここに居るみんなに知れ渡った。

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