野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ

文字の大きさ
31 / 171
第一章

28話

しおりを挟む
「《何百年ぶりだろか? ……ワタシの語りに反応した人に出会うのは――しかし、ここにいては危ないぞ》」

「危ない? やはり、お化けが出るのぉ?」

 飛び上がり、嫌がるアール君に引っ付く。

「《いや、お化けは普通におるが、元の住み主達だからさほど怖くない。怖いのはここに住む娘――アマリアという女だ》」

 アマリア? それって、小説のヒロインの名前だ。

 ここシュノーク古城に住むアマリアを知っている……いま、頭に語り掛けてくる男性って、もしかして魔王サタナス様? そうだとすると、サタナス様はヒロインが怖い…… 


(ヒロインに恋に落ちるのはわかるけど……なぜ?)


「どうして、怖いのですか」

「《なぜ、ワタシが怖いか聞きたいか? よし話してやろう……あれは初めてアマリアとおうた日。アヤツ、ワタシの姿が見えて名前をフルネームで呼んだのだ。サタナス・ロザリオン3世と、魔王様と……昔は、人の世界にもワタシの名前を知っている者もいたが、表舞台から消えて何百年と経っている。もう、ワタシと名前を知るものは魔族以外におるまい》」

 時がたち、魔族しか知らない名前を、初めての人が知っていたら……。

「怖いかも……絶対に怖い」
「《そうであろう……それで、お前たちはアマリアに会いに来たのか?》」

 私が首を振る横で、アール君がこたえた。

「いいえ、僕達がここへ来た理由は魔王サタナス様に用があるからです。魔王様はいま、どこにいらっしゃるのですか?」

「《ほう、ワタシが……魔王がここにいると知っていて来たのか。して、なんのようだ?》」

 いきなり来た私たちが魔王の居場所をなぜ、知っていると。
魔王様、変だと思ったかも。と、私が慌てる横で、アール君は淡々と話を進めた。

「いま、ここで僕達の願いを言うのは失礼になります。エルバ様、大切な願いです、魔王サタナス様の前でじかに願い事を伝えたいです」

「え? 会いに行くの?」
「はい」

 なんでだろう? 魔王様も怖いけど。
いまのアール君に『はい』としか言えない、そんな彼の気迫を感じた。

「わかった、もう少し……日が暮れてから会いに行こう。魔王サタナス様はシュノーク古城のどの部分にいますか?」
 
「《ワタシはお前達が今いる、真上の塔の最上階にいる》」

「この塔の最上階。わかりました……では、のちほどお会いいたしましょう」

 と、魔王様との話は一旦終わった。



 私とアール君は日が暮れるまで、ここで休むことにした。
 
「アール君、お腹空いたね。夕飯を軽く食べちゃう?」

「いいですね……しかし、夕飯の材料は持ってきていないはず。いまから村に買い出しに行くのですか?」

 私はアール君に首を振る。

「ううん、道具は私のアイテムボックスに入っているし、食べ物はキリ草をだした"エルバの畑"から収穫するから」

「エルバの畑で収穫ですか……(ボソッ。エルバ様はやはり面白いスキルをお持ちだ。それにアイテムボックス、マジックバッグといい、次から次へと楽しいことが起きますね)」

「ん、何か言った?」

「いいえ」


 私は併用しているマジックバッグではなく、アイテムボックスを直に開いた。この中には前世、私の愛用していたキャンプ道具が入っているのだ。

 まずは休憩するために愛用していたカーキ色のテントを取り出すと。ひとり用のテントがアイテムボックスの中から"ポン"と、目の前に原型のままでてくる。

「わっ、テントがそのままの形で出てきた? 面倒な組み立てがいらなくて、後はペグを打てばいいのかな?」

 不思議に思いながら、アイテムボックスからペグとペグハンマーを取り出した。その横で、はじめてテントを見たであろうアール君は、2本の尻尾を小刻みにすらしながらテントの周りをまわり。

「エルバ様。なんとも可愛い家ですね。この中で休むのですか?」

 と、興味津々だ。

「そうだよ。いま、ペグを打って動かないよう、テントを固定するから待っていて」

 これまた愛用のペグ、ペグハンマーでテントを固定する、のだけど。硬そうな地面にハンマーひと振りでペグが簡単に入っていく。

「……え?」

 いつもなら大変な作業なんだけど。と、思いながらテントを固定して。
なかに引くキャンプマットとラグを、アイテムボックスから取り出してテントの中に引いた。

「アール君、準備終わったよ」
 
 待っていたアール君に入り口を開けて『どうぞ』と言うと、彼は2本の尻尾を立て、ウキウキした足取りでテントのなかに入っていった。

(フフ、アール君、楽しそうね)

「さてと、私は夕飯の支度でもしようかな」

 袖をまくり、テントの外にテーブル、ポケットコンロ、調理器具をアイテムボックスから取り出した。
 
 それらの前でいまから何を作る? とメニューを考える。

 うーん。小腹がすいたからメスティンで、コメを1合炊いて塩おにぎり。さっき見つけたトマトマ、キャベンツ、レタススの塩もみサラダ……エダマメマメの塩茹で。

(あとはレンモンを浮かべた、シュワシュワかな)

 水魔法で手を洗い、エルバの畑をひらきコメ草を収穫して袋の中で振る。もちろん収穫終えた茎は、アイテムボックスに入れて持って帰る。

 次にメスティンを出して……と、夕飯の準備中にアール君がテントから何かを咥えて飛び出てきた。

「ア、アール君、どうしたの?」

 そう聞くと、彼は少し震えた声で。

「エ、エ、エルバ様、テントに入った途端……真っ白な空間が目の前に広がり……その先に見知らぬ緑色をした鉄製の扉が現れ、入口にこんな物が落ちていました」

 と、達筆な文字で"エルバ様"と書かれた、手紙を私に渡した。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

【完結】 学園の聖女様はわたしを悪役令嬢にしたいようです

はくら(仮名)
ファンタジー
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にて掲載しています。 とある国のお話。 ※ 不定期更新。 本文は三人称文体です。 同作者の他作品との関連性はありません。 推敲せずに投稿しているので、おかしな箇所が多々あるかもしれません。 比較的短めに完結させる予定です。 ※

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。 だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。 魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。 だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。 追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。 訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。 そして助けた少女は、実は王国の姫!? 「もう面倒ごとはごめんだ」 そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~

小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ) そこは、剣と魔法の世界だった。 2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。 新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・ 気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

処理中です...