いたずら妖狐の目付け役 ~京都もふもふあやかし譚

ススキ荻経

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第五章 

鴨川デルタの戦い 8

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(やっと日常が戻ってきたんだな……)

 そんなことをしみじみと感じ、紬はふっと表情を緩める。しかし、次の瞬間、四人の先輩たちが一斉にずいと迫ってきたので、紬はびっくりして目を瞬いた。

「え? な、なんですか? 急に……」

 キョトンとして尋ねる紬。すると、先輩たちは堰を切ったようにわあっと口々に言葉を浴びせてきた。

「なんですか? じゃないでしょ!? 邪気に染まった大妖怪を祓わずに浄化するなんてことは前代未聞なのよ!? ねえ、教えて! どんな方法を使ったの!?」
「狐坂はだんまりを決め込んで答えてくれないんだ。賀茂家の秘技とかを使ったのかい? だとしたら非常に興味があるね」
「自分も後学のためにぜひとも教えていただきたいです。敵対する妖怪の浄化は極めて難しい技術ですから」
「ぼかあ、紬ちゃんがどんな呪具を使ったのかに興味があるねえ。できればそれを分析させてもらえないかなあ」

 紬は「えっ、えっと……」と口ごもり、自分の身の回りをあたふたと探って、ひとまず伯母の御守りが胸ポケットの定位置に収まっていることを確かめた。ところが、狐の折符は喬が回収したのか、紬の手元からは消えてしまっている。

(道理で狐坂さんはあんな離れたところに避難してたわけね……)

 紬は喬の意図を悟って、心の中で苦笑を浮かべた。どうせあの人は、このまま自分が黙秘を続けていれば、私が代わりにすべて説明してくれると思っているのだろう。だが、そうは問屋がおろさない。私だって、色々と狐坂さんに聞きたいことがあるのだ。

「わ、分かりました。事務所に帰ったらお答えします」

 紬はいったんそう返事をして先輩たちを落ち着かせてから、

「――狐坂さんと一緒に!」
 
と付け加え、いたずらっぽくニヤリとしながら喬を振り返った。途端、喬はギョッとした顔でそそくさと組んでいた足をほどくと、まだ爆睡している岡丸を地面の上に残して一目散に土手を駆け上がる。

「あーっ! 逃げるなーっ! みなさん、岡丸を見ててください! 私、狐坂さんを捕まえてきます!」

 紬は先輩たちにそう言い残し、喬を追って走り出した。しかし、土手を上りきり、川沿いの道路に出ると、紬はごった返している人の波に呑まれ、喬を見失ってしまう。

「くそ~っ! また逃げられた~っ!!」

 道端でひとり地団駄を踏む紬。
 そして、仕方なく引き返そうとした紬がふと顔を上げると、人々の頭の向こうには、見事な大文字の炎が夜闇に煌々と輝いていたのであった。
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