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書籍化記念SS
絶倫美形騎士の苦悩(ノア視点)2
しおりを挟むそれからミレールたちとはわかれ、マクレインと共に執務室に戻った。
「たしかにノアは、意外と子供っぽいところがあるかな」
「……なんのお話でしょうか」
「それだけ君が夫人に夢中だってことだね」
「はあ」
マクレインは先ほどの話をしているのだろう。
あえて否定はしなかった。
自分がミレールに夢中なことも、彼女のことであんな幼稚な態度を取ってしまうのも間違っていない。
「ご両親のようになりたくないって言ってた君が、ずいぶん変わったよね」
机の前で手を組んだマクレインは、ノアを見て微笑んでいる。
「まぁ……、そうですね。その発言こそ、俺がまだ子供だったという証拠です」
「ん? どういうことだい?」
「今なら親の気持ちがわかるからです」
家でも外でも四六時中ベタベタしている両親を見て、自分は絶対あんなふうにならないと、親しい間柄の人間に言っていた。
「ハハハッ……! ノアからそんな言葉を聞ける日がなんてね! 夫人のすごさを改めて痛感したよ」
笑い出したマクレインに、ノアは立ったまま無言で頷いた。
認めたくないが、ミレールを見ると自分の感情が抑えられなくなる。
(登城すると知っていたら、もっと見えるところに痕をつけておけばよかった)
今のミレールに悪い噂はなくなり、反対に褒めたたえるような話しか聞かなくなった。
嬉しいはずの事実にノアは悩まされていた。
ミレールはレイリンの要望により、ジャスティンのダンス講師としてこれから王宮へ通うことになる。
これは女性としては異例なことだった。これまでの王子のダンス講師といえば男性が当たり前だったが、レイリンの強い要望によりミレールが大抜擢された。
そのおかげともいうべきか、ミレールの評価が一変したのだ。
自分の妻が、未来の王太子の講師の一員になることは大変名誉なことだ。
だが子供が産まれた今でも、まだ自分たちが離婚すると勘違いしている貴族が少なからずいる。
その輩がパーティーに参加するミレールにダンスを申し込み、虎視眈々とチャンスを狙っているのだ。
護衛の仕事も終わり、帰宅しようと支度をしていた。
「ノア。お勤め、ご苦労さまです」
「まだ帰ってなかったのか?」
「ミシェルとジャスティン殿下が途中で寝てしまって、しばらく待っていたら遅くなってしまいました」
一歳になったばかりの小さなミシェルは、ミレールに抱かれてすやすやと寝ていた。
「そうか。ミシェルはまだ寝てるんだな。重いだろ? 代わるぞ」
「ふふふっ、遊び疲れたようですわ――あっ、ありがとうございます」
抱いていたミシェルをそっと受けとると「ん~」と少し身じろいだが、それでも起きることはなかった。
ミシェルは一度寝るとなかなか起きず、いつもぐっすり寝てくれる。
抱いた腕に小さな重みと温かさを感じ、思わず頬が緩む。
「天使みたいに可愛いよな」
「えぇ、本当に。ノアの仰る通りですわ」
ノアの腕にちょうどよく収まったミシェルを、慈愛に満ちた顔で見ているミレールもまた、天使のように綺麗だった。
ミシェルを片手でしっかりと抱いて、自然と反対の手がミレールの頬に触れる。
「――ノア?」
顔を上げたミレールは自分を不思議そうに見つめ、だが大人しく頬を撫でられている。
幸せという言葉は、今の自分のために存在しているのだろう。
そう傲慢に思えるほど、この日常がノアの心を満たしていた。
そして、自分が子供っぽい嫉妬に駆られるのも、大人として成長できるのも、ミレールだからなのだろう。
「ミシェルを寝かせたら、部屋に来いよ」
「っ、はい」
驚いたように目を開いていたが、サッと頬を染めてすぐに返事が返された。
「明日は登城しないだろ?」
「えぇ、しませんが」
「じゃあ、今夜も思い切りできるな」
「――ッ! え、えぇ。……ですが、ミシェルのお世話もあるので、お手柔らかに……」
「あぁ、わかってる」
頬を撫でていた手が顎をとらえて上を向かせると、ミレールは期待を込めた瞳でジッと自分を見つめている。
少し屈んで顔を寄せると彼女も瞳を閉じ、唇を奪った。
「んぅっ」
深く唇を重ね、舌を入れて絡めていく。
ミレールも舌を出して応えてくれ、荒く息を吐き、激しく唇を貪った。
「ん、はぁっ……!」
名残惜しい気持ちで唇を離すと、ミレールの瞳にも熱がこもり、情欲の影がちらついていた。
「続きは、帰ってからだな」
「わかりました」
何もなければこのまま部屋に連れ込み奪ってしまいたいが、ミシェルがいるのでそんなことはできない。
頬を染めて伏し目がちに頷くミレールに、ノアの劣情が刺激される。
「早く帰ろうぜ」
「えぇ、帰りましょう」
両手でミシェルを抱き直すと、ミレールが自分の腕に手を絡めた。
寄り添って廊下を歩き、帰路についた。
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