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番外編
変わりゆく日常
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産後に変わったことがいくつかあった。
それはなんと、アルマに恋人ができたことだった。はじめに聞かされたときに、ミレールは相当驚いた。
そしてその相手というのが……
「ちょっと、アーミッド! そんな抱き方をしたらミシェル様が泣いてしまわれるでしょうっ!?」
「では、どうやってお抱きしたら……」
「いいですか? こうして腕を曲げて、優しく包み込むようにして差し上げるんですっ! で、力任せに揺らすのではなく、そ~っと揺り籠のようにゆ~っくり体を揺らしていくんですよ」
「わかりました。やってみます」
未だにミレールの護衛騎士を勤めているアーミッド。
まさかこの二人が恋仲になるとは露ほども思っていなかった。
アルマは二十三歳、アーミッドが二十歳。年齢的なこともあり、どうしてもアルマが姉さん女房のような感じで主導権を握っている。
だが意外なことに、アーミッドはアルマに主導権を握られていることを嫌だと思っていない感じだ。
護衛騎士を始めた当初、あれだけ生真面目で堅物だったアーミッドもだいぶ柔軟な対応ができるようになっていた。
アルマは割とおおらかで図太い性格をしているので、そういった意味ではお似合いの二人なのかもしれない。
◇◆◇
この日、ミレールは王宮まで来ていた。
王太子妃となったレイリンに会うためには謁見を申し出ないといけないのだが、申し込む前にレイリンがいつもノアを通してお茶会に誘ってくれている。
「わぁ~! ミシェルがおすわりしてる~!」
「最近は少しずつずり這いもするようになってきましたわ」
「えぇ~、可愛いっ~!! 次に会うときには歩いてるのかなぁ?」
「そうかもしれませんね」
ミシェルもいるので最近のお茶会はレイリンの部屋で行われている。
お屋敷から大きめのマットを持参し、玩具もたくさん持ってきてそのマットの上にばら撒いた。
ミシェルは小さな手に取って、口に入れたり投げたりして遊んでいた。
ミレールも外より、室内のほうが安心できるのでテーブルに置かれたお茶を一口飲みながら、床で遊んでいるミシェルを眺めている。
「早いなぁ。あんなにちっちゃかったのに、もうこんなに大っきくなるんだね」
「レイリンも臨月でしょう。そろそろではなくって?」
「うん。もう、お腹が重くて死んじゃいそう~! 苦しくて食べてもすぐお腹いっぱいになっちゃうんだよぉ」
レイリンは相変わらずだ。もちろん公式の場ではちゃんとしている。王太子妃教育もしっかり受けているが、ミレールといる時は普段と変わらなかった。
「ふふふっ、仕方ありませんわ。子供がお腹を圧迫していますから。あと少しの辛抱ですわ」
「早く出てこないかなぁ。でもミシェルと同い年になれるのが嬉しい! うちは男の子だといいなぁ~」
そう話しながらレイリンは、椅子に座りながら大きくなった自分のお腹を嬉しそうに撫でている。
「そうですわね。王子が生まれれば、重圧からも解放されますものね」
「えぇ~、違うよ? 男の子だったら将来ミシェルと結婚できるでしょ?」
クリっとした大きな桃色の瞳をミレールに向けて、キョトンとした顔で話しているレイリン。
ミレールは思わず驚きと戸惑いの表情を浮かべる。
「そう、なんですの……?」
「うん! あっ、でも、もし女の子なら姉妹みたいになれるから、お揃いのドレスとかコーデしたら可愛いかもっ!」
「はあ……」
やはりレイリンはレイリンだった。
普通のご令嬢ならまず王国の世継ぎを授かると、まず男か女かで周りからのプレッシャーにやられてしまう。
(さすがは小説の主人公ですわ。わたくしならとても真似できませんもの……)
周りの重圧を歯牙にもかけないメンタルの強さ。
いや、レイリンがただ天然で鈍感なだけなのか……しかし、こう見えてレイリンは意外と頭が切れる。
素でやってるのか計算しているのか迷うところだが、これは王太子妃になるうえでとても重要なことなのかもしれない。
「レイリン。一つ申し上げておきますが、ミシェルの将来はミシェルが決めますから。もし王子が産まれても、婚約を強要するのは遠慮してくださいね?」
「ん~? うんっ、もちろんわかってるよ! そのためにも、小さいうちから頻繁に引き合わせとかないとね!」
自信満々ににっこり笑うレイリンの笑顔に、ゾクッと悪寒を感じて自然と鳥肌が立った。
(レイリンが言うと言霊のように本当に実現しそうで、どこか怖さを感じてしまいますわ)
普通に考えて王室との繋がりができるのなら、生まれる前から婚約を取り付けてしまうべきなのだろう。
だがオルノス侯爵家は、婚約者は自分でみつける、という家訓のようなものがある。ミレールもその考えに賛成しているし、そのおかげでノアと一緒になれたのだ。
だからミシェルが本当に好きな相手をみつけるまで、たとえ王室であろうとそういった話はすべて断るつもりだ。
「あ~あ~、うぅ~」
「わぁ~! ミシェルが喋った! 可愛いっ~!!」
レイリンの部屋の絨毯にマットを引かせてもらい、そこでお屋敷から持ってきた玩具で遊んでいたミシェルが、うつ伏せになりながら玩具を噛んでいる。
「ミシェル、待っててね! カッコいい男の子産んで、ミシェルに選んでもらえるように頑張るからね!」
「う~、ばぁ~」
「わかった! 任せといて!」
ミシェルの言葉を理解しているのかいないのか、レイリンは笑顔でミシェルにパチッとウインクを送っている。
その様子にミレールは思わず吹き出してしまった。
それはなんと、アルマに恋人ができたことだった。はじめに聞かされたときに、ミレールは相当驚いた。
そしてその相手というのが……
「ちょっと、アーミッド! そんな抱き方をしたらミシェル様が泣いてしまわれるでしょうっ!?」
「では、どうやってお抱きしたら……」
「いいですか? こうして腕を曲げて、優しく包み込むようにして差し上げるんですっ! で、力任せに揺らすのではなく、そ~っと揺り籠のようにゆ~っくり体を揺らしていくんですよ」
「わかりました。やってみます」
未だにミレールの護衛騎士を勤めているアーミッド。
まさかこの二人が恋仲になるとは露ほども思っていなかった。
アルマは二十三歳、アーミッドが二十歳。年齢的なこともあり、どうしてもアルマが姉さん女房のような感じで主導権を握っている。
だが意外なことに、アーミッドはアルマに主導権を握られていることを嫌だと思っていない感じだ。
護衛騎士を始めた当初、あれだけ生真面目で堅物だったアーミッドもだいぶ柔軟な対応ができるようになっていた。
アルマは割とおおらかで図太い性格をしているので、そういった意味ではお似合いの二人なのかもしれない。
◇◆◇
この日、ミレールは王宮まで来ていた。
王太子妃となったレイリンに会うためには謁見を申し出ないといけないのだが、申し込む前にレイリンがいつもノアを通してお茶会に誘ってくれている。
「わぁ~! ミシェルがおすわりしてる~!」
「最近は少しずつずり這いもするようになってきましたわ」
「えぇ~、可愛いっ~!! 次に会うときには歩いてるのかなぁ?」
「そうかもしれませんね」
ミシェルもいるので最近のお茶会はレイリンの部屋で行われている。
お屋敷から大きめのマットを持参し、玩具もたくさん持ってきてそのマットの上にばら撒いた。
ミシェルは小さな手に取って、口に入れたり投げたりして遊んでいた。
ミレールも外より、室内のほうが安心できるのでテーブルに置かれたお茶を一口飲みながら、床で遊んでいるミシェルを眺めている。
「早いなぁ。あんなにちっちゃかったのに、もうこんなに大っきくなるんだね」
「レイリンも臨月でしょう。そろそろではなくって?」
「うん。もう、お腹が重くて死んじゃいそう~! 苦しくて食べてもすぐお腹いっぱいになっちゃうんだよぉ」
レイリンは相変わらずだ。もちろん公式の場ではちゃんとしている。王太子妃教育もしっかり受けているが、ミレールといる時は普段と変わらなかった。
「ふふふっ、仕方ありませんわ。子供がお腹を圧迫していますから。あと少しの辛抱ですわ」
「早く出てこないかなぁ。でもミシェルと同い年になれるのが嬉しい! うちは男の子だといいなぁ~」
そう話しながらレイリンは、椅子に座りながら大きくなった自分のお腹を嬉しそうに撫でている。
「そうですわね。王子が生まれれば、重圧からも解放されますものね」
「えぇ~、違うよ? 男の子だったら将来ミシェルと結婚できるでしょ?」
クリっとした大きな桃色の瞳をミレールに向けて、キョトンとした顔で話しているレイリン。
ミレールは思わず驚きと戸惑いの表情を浮かべる。
「そう、なんですの……?」
「うん! あっ、でも、もし女の子なら姉妹みたいになれるから、お揃いのドレスとかコーデしたら可愛いかもっ!」
「はあ……」
やはりレイリンはレイリンだった。
普通のご令嬢ならまず王国の世継ぎを授かると、まず男か女かで周りからのプレッシャーにやられてしまう。
(さすがは小説の主人公ですわ。わたくしならとても真似できませんもの……)
周りの重圧を歯牙にもかけないメンタルの強さ。
いや、レイリンがただ天然で鈍感なだけなのか……しかし、こう見えてレイリンは意外と頭が切れる。
素でやってるのか計算しているのか迷うところだが、これは王太子妃になるうえでとても重要なことなのかもしれない。
「レイリン。一つ申し上げておきますが、ミシェルの将来はミシェルが決めますから。もし王子が産まれても、婚約を強要するのは遠慮してくださいね?」
「ん~? うんっ、もちろんわかってるよ! そのためにも、小さいうちから頻繁に引き合わせとかないとね!」
自信満々ににっこり笑うレイリンの笑顔に、ゾクッと悪寒を感じて自然と鳥肌が立った。
(レイリンが言うと言霊のように本当に実現しそうで、どこか怖さを感じてしまいますわ)
普通に考えて王室との繋がりができるのなら、生まれる前から婚約を取り付けてしまうべきなのだろう。
だがオルノス侯爵家は、婚約者は自分でみつける、という家訓のようなものがある。ミレールもその考えに賛成しているし、そのおかげでノアと一緒になれたのだ。
だからミシェルが本当に好きな相手をみつけるまで、たとえ王室であろうとそういった話はすべて断るつもりだ。
「あ~あ~、うぅ~」
「わぁ~! ミシェルが喋った! 可愛いっ~!!」
レイリンの部屋の絨毯にマットを引かせてもらい、そこでお屋敷から持ってきた玩具で遊んでいたミシェルが、うつ伏せになりながら玩具を噛んでいる。
「ミシェル、待っててね! カッコいい男の子産んで、ミシェルに選んでもらえるように頑張るからね!」
「う~、ばぁ~」
「わかった! 任せといて!」
ミシェルの言葉を理解しているのかいないのか、レイリンは笑顔でミシェルにパチッとウインクを送っている。
その様子にミレールは思わず吹き出してしまった。
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