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お茶会

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「では、私たちはそろそろ席を外すよ。楽しい時間をありがとう」

 しばらく談笑していたマクレインは時間なのか席を立ち、同じくノアも立ち上がった。

「殿下、こちらこそお付き合いいただいてありがとうございました!」

 片手を上げて立ち去ろうとするマクレインにレイリンも立ち上がって礼を述べている。

「貴重なお時間を割いていただき、感謝いたしますわ」

 ミレールもまた立ち上がり、マクレインに向かって一礼する。

「夫人も、たまには王宮に遊びに来てくれ」

「っ、……はい!」

 ミレールに向かいにこりと笑ったマクレインに、ミレールは驚きを隠せなかった。あれだけミレールが来ることを迷惑だと思っていたマクレインが、お世話とはいえこのような台詞を言うとは思わなかったからだ。

(少しは、わたくしが変わったと、信じてもらえたのかしら……)

 考えているとマクレインと共に立ち去ろうとするノアが視界に入り、慌てて声をかけた。

「あ……! ノアっ」

「ん? なんだ?」

 ノアが足を止めて後ろを振り返る。

「あとで、ノアが訓練している様子を見に行きたいのですか……よろしいですか?」

「訓練? ……あぁ、剣術の稽古けいこのことか? あんなもの見ても、特に面白くないと思うが……」

「そんなことありませんわ! ノアの稽古している姿をどうしても拝見したいんです!」

 ノアが剣を振るっているところを見てみたいと、ずっと思っていた。次はいつ王宮に来れるか分からないから、このチャンスを逃したくなかった。
 どうしても許可してほしくて必死にお願いしていると、ノアは一瞬目を見張ってから、しばらくして口を開いた。

「……まぁ、別に構わないぞ」

「本当ですか! ありがとうございます!」

 許可してもらえた嬉しさに、思わずミレールの顔に満面の笑顔が浮かぶ。

「――ッ!」

 ノアは咄嗟に口元を片手でおおって、顔を背けてしまった。

「じゃあ……、時間になったら迎えに来る」

 嬉しさにほころぶ顔を抑えきれず、ミレールは笑顔のまま返事を返した。

「はいっ、お待ちしてますわ!」

 ノアはそのままマクレインと去って行ってしまったが、去り際に見たノアの耳がほんのりと赤くなっているように見えたのは気のせいだろうか。


 レイリンと二人きりになったミレールは、再び腰を掛け、気になっていた事を聞いてみることにした。

「そういえば城門を入った時に、兵士が警戒中だと仰ってましたが、何かございましたの?」

「そうなの。実はね侵入者が城内に入って、その時たまたま近くにいた私が襲われそうになったんだけど……」

「まぁ! 大丈夫でしたの?!」

 説明していくレイリンの話を聞いて、ミレールは小説の内容を思い出していた。

(やはり、その事件ですのね)

「うん。幸いにもその時に殿下と、オルノス卿も近くにいたから、私はなんともなかったの。オルノス卿が逃げた犯人を追ってくれたんだけど、犯人がすごく素早かったみたいでね……」

 レイリンはその時の様子を思い出し怖かったのか、自分の体をぎゅっと抱きしめていた。

(この事件でノアは犯人を逃した責任を感じて、必死に痕跡を探していたけれど、結局は見つけられなかった……そしてこの犯人は小説の後半で明らかになっていましたわ。その時に、証拠となるモノが見つかったはずです……それがたしか王宮の――)

「ミレール、どうしたの? 急に考え込んで?」

「あ、いえ……申し訳ありません」

「ふふふ、わかってるわ。オルノス卿のことを考えてたんでしょ?」

「っ! いえ、違いますわっ」

 ニコニコと笑っているレイリンはとても可愛らしかった。ミレールは頬を染めながら即座に否定する。
 たしかにノアのことを考えていたが、レイリンが思っているような甘い考えではなかった。

「ミレールは幸せそうで羨ましいわ。私も結婚して、そんなふうに素敵に変わりたい」

 どうしてもみんなミレールが変わったのは、ノアと結婚したおかげだと思っている。もう否定するのも疲れるので、そこはスルーしておいた。

「レイリンは今でも十分可愛らしいのに贅沢ですわ。王太子殿下ともとても仲がよろしいみたいですし、このままいけばきっと王太子妃に選ばれますわ」

「でも、私が王太子妃に選ばれるなんて思えないの……。マクレイン様はとても素敵だけど、他の候補者の方もいらっしゃるし……」

 レイリンも話がしたかったのか、候補者とのやり取りや攻防をずっと話している。
 本来ならここではミレールも参戦していたのだが、予想外の出来事が起き、早めに候補から外れてしまった。
 ノアには悪いが、こうして物語を外から傍観できている今の状況には感謝しかなかった。

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