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遭遇
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この日のお茶会は南の庭園だった。
ここは一面に彩り豊かなバーブと花が植えられていた。辺りには花の甘い香りが漂っている。
「あれ? おかしいですねー……、レイリン嬢がまだいらっしゃっていないなんて」
テラスのテーブルにレイリンの姿はなかった。前回は早めに来て待っていてくれたレイリン。
「もしかしたら仕度に手間取っているのかもしれませんわ。こちらに座って待ってますので、ヴィルナー卿はお仕事に戻ってください」
「そうですか? 夫人をお迎えに行く前に、レイリン嬢にも声をかけておいたのですが……自分が探して来ましょうか?」
トムが不思議そうに辺りを見渡していたが、レイリンらしき人物はやって来なかった。
職務中にわざわざ来てもらって悪いと思ったミレールは、やんわりとトムに断りを入れる。
「いいえ、構いませんわ。ここで待っていれば直に現れるでしょうから。ヴィルナー卿……申し訳ございませんが、隊長さまに先ほど話したことをお伝えいただけるかしら?」
「あっ、そうでした! ではちょっと席を外しますね!」
「えぇ、よろしくお願いしますわ」
トムは元気よく手を振ってその場を去って行ってしまった。
「若奥様っ! ありがとうございます~!」
椅子に座ったミレールのすぐ側に控えていたアルマが、ミレールに向かって両手を握りながらお礼を言ってきた。
「なんのことかしら?」
「差し入れの件ですよ~! 王国騎士団の方々なんて、滅多にお目にかかれませんし、知り合う機会なんてそうそうありませんから!」
「あら。わたくしはただ、差し入れを届けに行くだけよ?」
「またまた~。お嬢……若奥様についてきて本当に良かったです!」
「ふふっ、気の早いこと。まるで騎士の方々のどなたかを射止めたような口振りね」
アルマとの話は盛り上がっていたが、レイリンはまだ登場しない。
「レイリン様、一体どうされたんでしょう?」
「さすがに遅いわね。ちょっと見てきますわ」
「あっ、若奥様! 私が行ってまいります!」
「あなたはレイリンの滞在する宮を知らないでしょ? わたくしが行ったほうが早いわ。ここで待っていてちょうだい」
「はい。……わかりました」
席を立ったミレールは宮へ続く道をゆっくりと歩いていく。
途中、庭園の隅で誰かの声が聞こえてくる。
「……めて! ……は、……いでるの!」
「まだ、……を言ってられるんだ?」
(誰の声かしら……男女の声に間違えないと思いますが……)
その声の方向へ近づくように歩みを進めていくと、今度ははっきりと声が聞こえてきた。
「あっ……、やぁっ……!」
「あぁ……とても、可愛らしい声で啼くんだね……」
「そんな、とこ……っ、だめ……」
「もっと啼かせてあげたいな……いいかい?」
上擦った甘さを含む声に、煽るような台詞……明らかに男女の濡れ場だ。
(し、信じられませんわっ……! 王宮の、しかもこんな明るい時間から……!)
瞬時に判断したミレールはふるふると震えながら、顔を赤く染めて両手で頬を覆った。
だが、聞こえてくる女性の声に聞き覚えがあった。
これは紛れもないレイリンの声だった。
(まさか、レイリンが何者かに?!)
急ぎ足で迷路のような垣根を歩くと、そこに見えた人物に驚きを隠せなかった。
(あの赤毛の人物は、ジョセフ……ディーラー?!)
燃えるような赤毛に、爽やかな橙色の瞳。垂れ目で目元に小さなホクロがある美男子……これがジョセフの特徴。
垣根の影からそっと声の方向を見ると、大きな木の下に抱き合っているように見える男女がいた。
ジョセフはレイリンを逃げられないようにその木に押し付け、あろうことがドレスの前を開いて肉付きの良いバストを露出させていた。
しかもたわわな双丘を両手で触りながら、色付いた桃色の先端を口に含んでいた。
(――――なっ……!!)
レイリンもどうにか抵抗しているのか、ジョセフの肩を押しているように見えるが、声には色が含まれており行為を許容しているようにも見える。
ミレールは思わず出てしまいそうになる声を両手で押さえた。
「ンンッ……、ゃ、めて……」
「本当に? やめてほしそうには見えないね」
「違う、のっ……いやなのっ……あッ、ぁ……ん!」
(え! えっ?! そ、そういえば……これはまさに小説の展開ですわっ! こ、この小説は大人向けですもの、確かにこんな場面はわんさかありましたわ!)
わかっていたことなのだが、すっかり忘れてしまっていた。
改めてこうしてその場に居合わせると、ここが小説の舞台なんだと再認識せざるを得ない。
そしてミレールは初めての出来事にドキドキしながら、頭の中がパニックになってしまう。
その間にも二人の行為がどんどんエスカレートしている。
(ど、ど、どうしましょう!! こんな場面に出くわしたことなどありませんからっ、どんなふうに対処していいのかわかりませんわ……!)
垣根から見るに見ていられなくなる行為に、ミレールはどんどん焦りを感じている。
(とにかく、急いでレイリンを助けなければっ!)
視界の端では、ジョセフがレイリンのスカートを捲りあげ、細く白い足が剥き出しになるとそこに手をかけ、そのままスーッと上へと滑らせている。
「あっ! だ、めっ……!」
「あなたの花園に触れたい……」
パニック状態のミレールだったが、これ以上見ていられないと意を決して行動に移した。
ここは一面に彩り豊かなバーブと花が植えられていた。辺りには花の甘い香りが漂っている。
「あれ? おかしいですねー……、レイリン嬢がまだいらっしゃっていないなんて」
テラスのテーブルにレイリンの姿はなかった。前回は早めに来て待っていてくれたレイリン。
「もしかしたら仕度に手間取っているのかもしれませんわ。こちらに座って待ってますので、ヴィルナー卿はお仕事に戻ってください」
「そうですか? 夫人をお迎えに行く前に、レイリン嬢にも声をかけておいたのですが……自分が探して来ましょうか?」
トムが不思議そうに辺りを見渡していたが、レイリンらしき人物はやって来なかった。
職務中にわざわざ来てもらって悪いと思ったミレールは、やんわりとトムに断りを入れる。
「いいえ、構いませんわ。ここで待っていれば直に現れるでしょうから。ヴィルナー卿……申し訳ございませんが、隊長さまに先ほど話したことをお伝えいただけるかしら?」
「あっ、そうでした! ではちょっと席を外しますね!」
「えぇ、よろしくお願いしますわ」
トムは元気よく手を振ってその場を去って行ってしまった。
「若奥様っ! ありがとうございます~!」
椅子に座ったミレールのすぐ側に控えていたアルマが、ミレールに向かって両手を握りながらお礼を言ってきた。
「なんのことかしら?」
「差し入れの件ですよ~! 王国騎士団の方々なんて、滅多にお目にかかれませんし、知り合う機会なんてそうそうありませんから!」
「あら。わたくしはただ、差し入れを届けに行くだけよ?」
「またまた~。お嬢……若奥様についてきて本当に良かったです!」
「ふふっ、気の早いこと。まるで騎士の方々のどなたかを射止めたような口振りね」
アルマとの話は盛り上がっていたが、レイリンはまだ登場しない。
「レイリン様、一体どうされたんでしょう?」
「さすがに遅いわね。ちょっと見てきますわ」
「あっ、若奥様! 私が行ってまいります!」
「あなたはレイリンの滞在する宮を知らないでしょ? わたくしが行ったほうが早いわ。ここで待っていてちょうだい」
「はい。……わかりました」
席を立ったミレールは宮へ続く道をゆっくりと歩いていく。
途中、庭園の隅で誰かの声が聞こえてくる。
「……めて! ……は、……いでるの!」
「まだ、……を言ってられるんだ?」
(誰の声かしら……男女の声に間違えないと思いますが……)
その声の方向へ近づくように歩みを進めていくと、今度ははっきりと声が聞こえてきた。
「あっ……、やぁっ……!」
「あぁ……とても、可愛らしい声で啼くんだね……」
「そんな、とこ……っ、だめ……」
「もっと啼かせてあげたいな……いいかい?」
上擦った甘さを含む声に、煽るような台詞……明らかに男女の濡れ場だ。
(し、信じられませんわっ……! 王宮の、しかもこんな明るい時間から……!)
瞬時に判断したミレールはふるふると震えながら、顔を赤く染めて両手で頬を覆った。
だが、聞こえてくる女性の声に聞き覚えがあった。
これは紛れもないレイリンの声だった。
(まさか、レイリンが何者かに?!)
急ぎ足で迷路のような垣根を歩くと、そこに見えた人物に驚きを隠せなかった。
(あの赤毛の人物は、ジョセフ……ディーラー?!)
燃えるような赤毛に、爽やかな橙色の瞳。垂れ目で目元に小さなホクロがある美男子……これがジョセフの特徴。
垣根の影からそっと声の方向を見ると、大きな木の下に抱き合っているように見える男女がいた。
ジョセフはレイリンを逃げられないようにその木に押し付け、あろうことがドレスの前を開いて肉付きの良いバストを露出させていた。
しかもたわわな双丘を両手で触りながら、色付いた桃色の先端を口に含んでいた。
(――――なっ……!!)
レイリンもどうにか抵抗しているのか、ジョセフの肩を押しているように見えるが、声には色が含まれており行為を許容しているようにも見える。
ミレールは思わず出てしまいそうになる声を両手で押さえた。
「ンンッ……、ゃ、めて……」
「本当に? やめてほしそうには見えないね」
「違う、のっ……いやなのっ……あッ、ぁ……ん!」
(え! えっ?! そ、そういえば……これはまさに小説の展開ですわっ! こ、この小説は大人向けですもの、確かにこんな場面はわんさかありましたわ!)
わかっていたことなのだが、すっかり忘れてしまっていた。
改めてこうしてその場に居合わせると、ここが小説の舞台なんだと再認識せざるを得ない。
そしてミレールは初めての出来事にドキドキしながら、頭の中がパニックになってしまう。
その間にも二人の行為がどんどんエスカレートしている。
(ど、ど、どうしましょう!! こんな場面に出くわしたことなどありませんからっ、どんなふうに対処していいのかわかりませんわ……!)
垣根から見るに見ていられなくなる行為に、ミレールはどんどん焦りを感じている。
(とにかく、急いでレイリンを助けなければっ!)
視界の端では、ジョセフがレイリンのスカートを捲りあげ、細く白い足が剥き出しになるとそこに手をかけ、そのままスーッと上へと滑らせている。
「あっ! だ、めっ……!」
「あなたの花園に触れたい……」
パニック状態のミレールだったが、これ以上見ていられないと意を決して行動に移した。
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