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番外編
遥かなる時を越えて
「ここまでで質問は御座いますか?」
ここは王宮の子供部屋。
机の前で教鞭をとっていた家庭教師のノーベルが振り返り確認している。
「ねぇノーベル。悪政、暴政を働いてた前政権を討ち取ったのは分かったけど…。それでアサラト王国の初代国王になったジークフリートは、なんで王位に立って数年で息子の二代目国王オースティンに政権を譲ってしまったの?せっかく苦労して王位を手に入れたのに」
背中まで伸びた銀色の髪に、燃えるような緋色の瞳、可愛らしい顔立ちにまだ十歳と幼い少女が口を開く。
彼女はアサラト王国の第三王女であるクラウディアだ。
机の前に座りノーベルの話を聞きながら、クラウディアは不思議そうにノーベルへと質問を返す。
「大変良い質問です!表向きの理由は、当時公爵の地位にいたアサラト一族の長年に渡る悲願であった王権奪還だと書かれております。…が!実はですねぇ、深読みするとまた違う理由があるのです!歴史書に拠りますと初代国王陛下であるジークフリート王は大変な愛妻家であったと記されています」
「え?そうなの?…それと王権奪還が関係あるのかしら??」
ノーベルの興奮振りにクラウディアは不思議そうに首を傾げた。
「はい。当時の王族としては珍しく、生涯一人の妃しか娶りませんでした。その初代王后陛下であるクラウディア妃の為に謀反を起こし、前王政であるアタナシオス一族を滅ぼし粛清したと言われてます」
「ふ~ん、どうして?初代国王様って、ものすごく怖くて容赦のない人だったんでしょ?いくら愛妻家でも、そんな人がわざわざ自分の妻の為にそこまでするの?」
椅子に掛けていた足をぷらぷらと揺らしながら質問を続ける。
「そうなのです!!何を隠そうクラウディア妃もアタナシオス一族の血筋だったらしいのですよ!ですが、クラウディア妃は何らかの理由で長い間幽閉され、王宮で不当な扱いを受けていたそうです。そして謂れのない罪で追放され身分も剥奪されたとされています。ジークフリート王はそれに激怒し、当時悪政を重ねていた王権に報復と制裁を加え、アタナシオスを一掃したと言われてます」
クラウディアが頷きながら納得して聞いている。
「自分の愛する人の為なのはわかったけど、その為に当時の王族を根絶やしにするなんて、我が御先祖様ながら怖いわね…。私の名前も、その初代王后様から名付けられたと聞かされたわ」
「えぇ。歴史上で最も愛された王后陛下と謳われているクラウディア妃の名にあやかり、その御名を授けられる王女殿下は何名かおります」
「そうなのね」
クラウディアは机に頬杖を付いて、興味深そうに聞いている。
「はい。そこで先程の答えとしてはジークフリート王はクラウディア妃を非常に寵愛していた為、早々に成人したばかりのオースティン殿下へと王位を移し、クラウディア妃との時間を作りたかったのではないか、という事に行き着きます。王権奪還後の断罪の際にも、クラウディア妃に冷遇していた全ての者達を集め、広場で全員公開処刑したくらいですからね。特に理由はわからないのですが、クラウディア妃の異母姉であった未亡人であるガズウート候爵代理とそのお付きの侍女の殺され方が凄まじく、生きたまま手足を縛り、狼の群れに投げ入れ無惨に食い殺させた、と記録されてます」
「うわぁ…お、恐ろしいわね…。一体どんな事をしたらそこまで非情になれるのかしら…」
その場面を想像したクラウディアは口元に手を当てて、身体を小さく震わせた。
「えぇ、仰る通りですね。まぁこのように、ジークフリート王に多大なるご寵愛を受けていたクラウディア妃なのですが…このクラウディア妃も大変謎に満ちた御方だったのです!」
「…謎??なんで?」
「クラウディア妃の出生記録や追放された理由、なぜ不当な扱いを受けていたのかと言う身辺的な記述は一切出てきておりません。そしてここで更に不思議なのが、二代目国王であるオースティン王がどうやってご誕生になったのか、なのです!」
「え?どういう事?お二人がご結婚されてご懐妊されたのではなくて?」
クラウディアは首を傾げて不思議そうにノーベルへと質問を返す。
「いえいえ、ジークフリート王とクラウディア妃が婚姻を結ばれたのは齢二十七と二十四のお年と少し遅めなのです。ですが記述によると、この時すでにオースティン王は七歳でした」
「えー…っと?…じゃあ単純に計算して…、お二人が二十と十七の時にお産まれになったと言うこと??」
「えぇ、その通りです。しかしこのお二人はご婚約は勿論、お付き合いされていたという記述も一切出てきておりません。そもそもクラウディア妃が幽閉されていたのに面識があったのかすら謎に包まれてます。これが長い時を経た今でも物議を呼び、今だ解き明かされていない王国史上最大の謎として、研究者の間でも様々な仮説が唱えられているのです!」
「へぇ~、素敵ね!お二人の間には一体どんな出会いがあったのかしら…」
机の上でうっとりと目を閉じて、クラウディアは当時を思い想像を膨らませる。
「これが歴史におけるロマンですよね~!様々な文献からこの疑問を追求し、組み合わせながら解き明かす事がまた面白いんですよ!」
ノーベルは王国史を手に力説している。目の前で見ていたクラウディアも呆れた視線を送っていた。
「ご存知かと思いますが、このお二人のお話は今でも物語や劇になっており、この王国で知らない者はおりません。クラウディア殿下ももう少し大きくなられたら劇を観に行かれる事をお勧め致します。僕も面白くてもう何度も拝見しました」
教鞭をとっていたノーベルも、劇の様子を思い浮かべながら楽しそうに話す。
「えぇ、今から楽しみね!私も早く大きくなって、クラウディア妃のように素敵な殿方に愛されてみたいわ」
「ははっ、焦らなくてもすぐに成長されますよ。それに姫殿下は容姿端麗で能力にも長けた聡明な方なので、将来王国中の男性から引く手数多になるでしょうね」
「ふふっ、ずいぶんお上手ね。ノーベル」
「いえいえ、これは本心ですよ。…おっと、もうお時間ですね…ではまた明日、王国史の授業でお会いしましょう」
「えぇ、わかったわ。ご機嫌よう」
ノーベルが部屋から出ていき、クラウディアは机から離れた。
二代目国王であるオースティン以降、産まれる王族の子は皆銀色の髪と緋色の瞳。今だ受け継がれる能力も衰える事なく存在している。
そして初代国王ジークフリートの強い意向で王族の政略婚は廃止され、貴族の間でもそれが浸透していった。
王国革命の始祖とされたジークフリートと寵妃クラウディアは、長い年月が経った今でも広く尊敬され、後世に渡り語り継がれていく事となる。
ここは王宮の子供部屋。
机の前で教鞭をとっていた家庭教師のノーベルが振り返り確認している。
「ねぇノーベル。悪政、暴政を働いてた前政権を討ち取ったのは分かったけど…。それでアサラト王国の初代国王になったジークフリートは、なんで王位に立って数年で息子の二代目国王オースティンに政権を譲ってしまったの?せっかく苦労して王位を手に入れたのに」
背中まで伸びた銀色の髪に、燃えるような緋色の瞳、可愛らしい顔立ちにまだ十歳と幼い少女が口を開く。
彼女はアサラト王国の第三王女であるクラウディアだ。
机の前に座りノーベルの話を聞きながら、クラウディアは不思議そうにノーベルへと質問を返す。
「大変良い質問です!表向きの理由は、当時公爵の地位にいたアサラト一族の長年に渡る悲願であった王権奪還だと書かれております。…が!実はですねぇ、深読みするとまた違う理由があるのです!歴史書に拠りますと初代国王陛下であるジークフリート王は大変な愛妻家であったと記されています」
「え?そうなの?…それと王権奪還が関係あるのかしら??」
ノーベルの興奮振りにクラウディアは不思議そうに首を傾げた。
「はい。当時の王族としては珍しく、生涯一人の妃しか娶りませんでした。その初代王后陛下であるクラウディア妃の為に謀反を起こし、前王政であるアタナシオス一族を滅ぼし粛清したと言われてます」
「ふ~ん、どうして?初代国王様って、ものすごく怖くて容赦のない人だったんでしょ?いくら愛妻家でも、そんな人がわざわざ自分の妻の為にそこまでするの?」
椅子に掛けていた足をぷらぷらと揺らしながら質問を続ける。
「そうなのです!!何を隠そうクラウディア妃もアタナシオス一族の血筋だったらしいのですよ!ですが、クラウディア妃は何らかの理由で長い間幽閉され、王宮で不当な扱いを受けていたそうです。そして謂れのない罪で追放され身分も剥奪されたとされています。ジークフリート王はそれに激怒し、当時悪政を重ねていた王権に報復と制裁を加え、アタナシオスを一掃したと言われてます」
クラウディアが頷きながら納得して聞いている。
「自分の愛する人の為なのはわかったけど、その為に当時の王族を根絶やしにするなんて、我が御先祖様ながら怖いわね…。私の名前も、その初代王后様から名付けられたと聞かされたわ」
「えぇ。歴史上で最も愛された王后陛下と謳われているクラウディア妃の名にあやかり、その御名を授けられる王女殿下は何名かおります」
「そうなのね」
クラウディアは机に頬杖を付いて、興味深そうに聞いている。
「はい。そこで先程の答えとしてはジークフリート王はクラウディア妃を非常に寵愛していた為、早々に成人したばかりのオースティン殿下へと王位を移し、クラウディア妃との時間を作りたかったのではないか、という事に行き着きます。王権奪還後の断罪の際にも、クラウディア妃に冷遇していた全ての者達を集め、広場で全員公開処刑したくらいですからね。特に理由はわからないのですが、クラウディア妃の異母姉であった未亡人であるガズウート候爵代理とそのお付きの侍女の殺され方が凄まじく、生きたまま手足を縛り、狼の群れに投げ入れ無惨に食い殺させた、と記録されてます」
「うわぁ…お、恐ろしいわね…。一体どんな事をしたらそこまで非情になれるのかしら…」
その場面を想像したクラウディアは口元に手を当てて、身体を小さく震わせた。
「えぇ、仰る通りですね。まぁこのように、ジークフリート王に多大なるご寵愛を受けていたクラウディア妃なのですが…このクラウディア妃も大変謎に満ちた御方だったのです!」
「…謎??なんで?」
「クラウディア妃の出生記録や追放された理由、なぜ不当な扱いを受けていたのかと言う身辺的な記述は一切出てきておりません。そしてここで更に不思議なのが、二代目国王であるオースティン王がどうやってご誕生になったのか、なのです!」
「え?どういう事?お二人がご結婚されてご懐妊されたのではなくて?」
クラウディアは首を傾げて不思議そうにノーベルへと質問を返す。
「いえいえ、ジークフリート王とクラウディア妃が婚姻を結ばれたのは齢二十七と二十四のお年と少し遅めなのです。ですが記述によると、この時すでにオースティン王は七歳でした」
「えー…っと?…じゃあ単純に計算して…、お二人が二十と十七の時にお産まれになったと言うこと??」
「えぇ、その通りです。しかしこのお二人はご婚約は勿論、お付き合いされていたという記述も一切出てきておりません。そもそもクラウディア妃が幽閉されていたのに面識があったのかすら謎に包まれてます。これが長い時を経た今でも物議を呼び、今だ解き明かされていない王国史上最大の謎として、研究者の間でも様々な仮説が唱えられているのです!」
「へぇ~、素敵ね!お二人の間には一体どんな出会いがあったのかしら…」
机の上でうっとりと目を閉じて、クラウディアは当時を思い想像を膨らませる。
「これが歴史におけるロマンですよね~!様々な文献からこの疑問を追求し、組み合わせながら解き明かす事がまた面白いんですよ!」
ノーベルは王国史を手に力説している。目の前で見ていたクラウディアも呆れた視線を送っていた。
「ご存知かと思いますが、このお二人のお話は今でも物語や劇になっており、この王国で知らない者はおりません。クラウディア殿下ももう少し大きくなられたら劇を観に行かれる事をお勧め致します。僕も面白くてもう何度も拝見しました」
教鞭をとっていたノーベルも、劇の様子を思い浮かべながら楽しそうに話す。
「えぇ、今から楽しみね!私も早く大きくなって、クラウディア妃のように素敵な殿方に愛されてみたいわ」
「ははっ、焦らなくてもすぐに成長されますよ。それに姫殿下は容姿端麗で能力にも長けた聡明な方なので、将来王国中の男性から引く手数多になるでしょうね」
「ふふっ、ずいぶんお上手ね。ノーベル」
「いえいえ、これは本心ですよ。…おっと、もうお時間ですね…ではまた明日、王国史の授業でお会いしましょう」
「えぇ、わかったわ。ご機嫌よう」
ノーベルが部屋から出ていき、クラウディアは机から離れた。
二代目国王であるオースティン以降、産まれる王族の子は皆銀色の髪と緋色の瞳。今だ受け継がれる能力も衰える事なく存在している。
そして初代国王ジークフリートの強い意向で王族の政略婚は廃止され、貴族の間でもそれが浸透していった。
王国革命の始祖とされたジークフリートと寵妃クラウディアは、長い年月が経った今でも広く尊敬され、後世に渡り語り継がれていく事となる。
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