虐げられた第八王女は冷酷公爵に愛される

ウリ坊

文字の大きさ
36 / 36
番外編

遥かなる時を越えて

「ここまでで質問は御座いますか?」

 ここは王宮の子供部屋。
 机の前で教鞭をとっていた家庭教師のノーベルが振り返り確認している。

「ねぇノーベル。悪政、暴政を働いてた前政権を討ち取ったのは分かったけど…。それでアサラト王国の初代国王になったジークフリートは、なんで王位に立って数年で息子の二代目国王オースティンに政権を譲ってしまったの?せっかく苦労して王位を手に入れたのに」

 背中まで伸びた銀色の髪に、燃えるような緋色の瞳、可愛らしい顔立ちにまだ十歳と幼い少女が口を開く。

 彼女はアサラト王国の第三王女であるクラウディアだ。
 机の前に座りノーベルの話を聞きながら、クラウディアは不思議そうにノーベルへと質問を返す。

「大変良い質問です!表向きの理由は、当時公爵の地位にいたアサラト一族の長年に渡る悲願であった王権奪還だと書かれております。…が!実はですねぇ、深読みするとまた違う理由があるのです!歴史書に拠りますと初代国王陛下であるジークフリート王は大変な愛妻家であったと記されています」

「え?そうなの?…それと王権奪還が関係あるのかしら??」

 ノーベルの興奮振りにクラウディアは不思議そうに首を傾げた。

「はい。当時の王族としては珍しく、生涯一人の妃しか娶りませんでした。その初代王后陛下であるクラウディア妃の為に謀反を起こし、前王政であるアタナシオス一族を滅ぼし粛清したと言われてます」

「ふ~ん、どうして?初代国王様って、ものすごく怖くて容赦のない人だったんでしょ?いくら愛妻家でも、そんな人がわざわざ自分の妻の為にそこまでするの?」

 椅子に掛けていた足をぷらぷらと揺らしながら質問を続ける。

「そうなのです!!何を隠そうクラウディア妃もアタナシオス一族の血筋だったらしいのですよ!ですが、クラウディア妃は何らかの理由で長い間幽閉され、王宮で不当な扱いを受けていたそうです。そして謂れのない罪で追放され身分も剥奪されたとされています。ジークフリート王はそれに激怒し、当時悪政を重ねていた王権に報復と制裁を加え、アタナシオスを一掃したと言われてます」

 クラウディアが頷きながら納得して聞いている。

「自分の愛する人の為なのはわかったけど、その為に当時の王族を根絶やしにするなんて、我が御先祖様ながら怖いわね…。私の名前も、その初代王后様から名付けられたと聞かされたわ」

「えぇ。歴史上で最も愛された王后陛下と謳われているクラウディア妃の名にあやかり、その御名を授けられる王女殿下は何名かおります」
 
「そうなのね」

 クラウディアは机に頬杖を付いて、興味深そうに聞いている。

「はい。そこで先程の答えとしてはジークフリート王はクラウディア妃を非常に寵愛していた為、早々に成人したばかりのオースティン殿下へと王位を移し、クラウディア妃との時間を作りたかったのではないか、という事に行き着きます。王権奪還後の断罪の際にも、クラウディア妃に冷遇していた全ての者達を集め、広場で全員公開処刑したくらいですからね。特に理由はわからないのですが、クラウディア妃の異母姉であった未亡人であるガズウート候爵代理とそのお付きの侍女の殺され方が凄まじく、生きたまま手足を縛り、狼の群れに投げ入れ無惨に食い殺させた、と記録されてます」

「うわぁ…お、恐ろしいわね…。一体どんな事をしたらそこまで非情になれるのかしら…」

 その場面を想像したクラウディアは口元に手を当てて、身体を小さく震わせた。

「えぇ、仰る通りですね。まぁこのように、ジークフリート王に多大なるご寵愛を受けていたクラウディア妃なのですが…このクラウディア妃も大変謎に満ちた御方だったのです!」

「…謎??なんで?」

「クラウディア妃の出生記録や追放された理由、なぜ不当な扱いを受けていたのかと言う身辺的な記述は一切出てきておりません。そしてここで更に不思議なのが、二代目国王であるオースティン王がどうやってご誕生になったのか、なのです!」

「え?どういう事?お二人がご結婚されてご懐妊されたのではなくて?」

 クラウディアは首を傾げて不思議そうにノーベルへと質問を返す。

「いえいえ、ジークフリート王とクラウディア妃が婚姻を結ばれたのは齢二十七と二十四のお年と少し遅めなのです。ですが記述によると、この時すでにオースティン王は七歳でした」

「えー…っと?…じゃあ単純に計算して…、お二人が二十と十七の時にお産まれになったと言うこと??」

「えぇ、その通りです。しかしこのお二人はご婚約は勿論、お付き合いされていたという記述も一切出てきておりません。そもそもクラウディア妃が幽閉されていたのに面識があったのかすら謎に包まれてます。これが長い時を経た今でも物議を呼び、今だ解き明かされていない王国史上最大の謎として、研究者の間でも様々な仮説が唱えられているのです!」

「へぇ~、素敵ね!お二人の間には一体どんな出会いがあったのかしら…」

 机の上でうっとりと目を閉じて、クラウディアは当時を思い想像を膨らませる。

「これが歴史におけるロマンですよね~!様々な文献からこの疑問を追求し、組み合わせながら解き明かす事がまた面白いんですよ!」 

 ノーベルは王国史を手に力説している。目の前で見ていたクラウディアも呆れた視線を送っていた。

「ご存知かと思いますが、このお二人のお話は今でも物語や劇になっており、この王国で知らない者はおりません。クラウディア殿下ももう少し大きくなられたら劇を観に行かれる事をお勧め致します。僕も面白くてもう何度も拝見しました」

 教鞭をとっていたノーベルも、劇の様子を思い浮かべながら楽しそうに話す。

「えぇ、今から楽しみね!私も早く大きくなって、クラウディア妃のように素敵な殿方に愛されてみたいわ」

「ははっ、焦らなくてもすぐに成長されますよ。それに姫殿下は容姿端麗で能力にも長けた聡明な方なので、将来王国中の男性から引く手数多になるでしょうね」

「ふふっ、ずいぶんお上手ね。ノーベル」

「いえいえ、これは本心ですよ。…おっと、もうお時間ですね…ではまた明日、王国史の授業でお会いしましょう」

「えぇ、わかったわ。ご機嫌よう」

 ノーベルが部屋から出ていき、クラウディアは机から離れた。







 二代目国王であるオースティン以降、産まれる王族の子は皆銀色の髪と緋色の瞳。今だ受け継がれる能力も衰える事なく存在している。
 
 そして初代国王ジークフリートの強い意向で王族の政略婚は廃止され、貴族の間でもそれが浸透していった。
 
 王国革命の始祖とされたジークフリートと寵妃クラウディアは、長い年月が経った今でも広く尊敬され、後世に渡り語り継がれていく事となる。
 

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた

歩人
ファンタジー
侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。