虐げられた第八王女は冷酷公爵に愛される

ウリ坊

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番外編

初夜 4

 
 薄手のガウンが無くなり、その中に着ていたあの紫色のナイトドレスが露わになる。
 ジークフリートの唇に酔っていたクラウディアはあまりに自然な流れで、脱がされた事に気付く事はなかった。

「はっ…ぁ…」

 口内を蹂躙するような濃厚な口づけに夢中になっていたクラウディアは、離された先から酸素を求めるように大きく息を吸った。
 すでに身体が高揚しており自分自身でもわからない内に下腹部が蜜で潤っている。
 クラウディアが想像していた以上に、ジークフリートと夫婦になるという事実が、自身を昂らせていることに今さらながら気付かされる。

「いつになく従順だな…。あまり無防備に委ねられても、抑えが効かなくなりそうだ…」

「…ぇ?」
 
 閨事が苦手なクラウディアは、ジークフリートとの同衾の際も大体は抵抗することから始まっていた。
 結局は最終的にクラウディアが甘く陥落させられて終わるのだが、それが房事での日課のようになっていたからだ。

「今まで…抑えて…いたのですか?」

 頻繁ではないにしろ、あれだけ閨ではクラウディアを追い詰め喘がせていたジークフリートが、まさかまだ自分自身の欲望を抑えていたとは知らなかった。

「そなたは、まだ何処か交わる事に対し消極的だ。私がそれに気付かない訳がなかろう。まぁ、たまに抑えが効かなくなるが…怖がらせぬよう抱いているつもりだ」

「──」

 やはり、気付かれていたのね。
 私がまだ、こういう行為を避けている事に…。
 
 抱き合ったままクラウディアはジークフリートを見つめた。
 他者の事など考える事などして来なかったこの男が、ここまで繊細にクラウディアの心情を汲み取り、出来る限り優しくしていたのかと思うとまた胸の奥からむず痒いような気持ちが溢れてくる。

「…、それは…」

 なぜだか居た堪れない思いに苛まれる。

 色恋沙汰も男女の駆け引きも、クラウディアには経験もなく、使用人時代は同僚から話を聞くばかりでそんなものかという知識くらいしかなかった。
 誰かに必要とされる事に飢えていたクラウディアだが、実際に求められ愛情を注がれるとどうしていいのかわからない。
 自分を求めてくれる存在とは、オースティンしか居ないものだと思い込んでいたからだ。

 ジークフリートに抱きしめられたまま胸元に手を置いて、クラウディアは俯いた。
 そこからぐいっと力を込めてジークフリートの胸を押した。

「…クラウディア?どうした」
 
 クラウディアは俯いたまま近くのテーブルに置いてあったワインの瓶に口を付け、ごくごくと一気に嚥下する。

「…っぐ、ゴホッゴホッ!」
 
 度数の高いワインを勢いよく飲み出したクラウディアが突然噎せた。喉がカァーっと熱くなり、アルコール特有の苦味が口の中に広がった。

「何をしている…」

 クラウディアの寄行にジークフリートも戸惑いを見せている。

 酒の力でも借りれば、少しは言葉に出来ない自分を解放出来るかもしれないと思ったからだ。
 飲み慣れていないクラウディアの身体に一気に酔いが回り、頬が上気して緋色の瞳もとろりと潤み焦点が覚束なくなった。

「はぁっ…」

 クラウディアは初めて飲んだお酒に呑まれ、目の前の世界が回っている。
 だが身体はゆらゆらと浮遊しており、今なら何でも自分の気持ちを口に出して言える気がした。
 
「大丈夫か?」
 
 噎せが治まったクラウディアはワインの瓶をテーブルの上に置き、そのまま背中を擦っていたジークフリートに思い切り抱き着いた。

「っ、クラウ…ディア…」

 薄手のガウンからジークフリートの身体の厚みを感じ、鍛え上げられた身体に甘えるよう顔を擦り付けた。
 まだクラウディアの世界は回っていたが、今までに感じた事がないほど心地良く解き放たれた気分だ。
 
「ジーク…」


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