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駆け引き
「けっ、こん……? 俺とか?」
自分の前に出された花を目の前に、イクシオンは瞠目したまま狼狽えるように言葉を出していた。
「えぇ。殿下に求婚しています」
オリビアも跪いたまま真剣にイクシオンを見つめている。
差し出した花を躊躇するように、見ていたが受け取ることはしなかった。
「お前が、俺に?」
「はい。それが条件です。それ以外のものはいりません」
スッと立ち上がったオリビアはやはりイクシオンから視線を外さず、持っていた花を自分の胸元に寄せた。
「――いや、ちょっと待て。意図はなんだ? お前は俺に求婚するほど好いている訳ではないだろう?」
「よくおわかりですね。話が早くて助かります。おっしゃる通り、私は殿下のことをどうとも思っておりません」
ハッキリとなんとも思っていないと断言したオリビアに、イクシオンは複雑そうな表情を見せている。
「……では、なぜだ」
「殿下は領民を救いたいという願いがあります。そして私は、殿下の持つその地位が必要なのです」
「俺の地位?」
「そうです。私に必要なのは殿下ご自身ではなく、殿下が持っているその王弟という地位です」
きっぱりと言い切ったオリビアは、今度は両手でイクシオンの前へと花を差し出した。
「――はぁ……、話が長くなりそうだな。ひとまず城へ戻るぞ。そこで詳しく話を聞こう」
深くため息をついたイクシオンは、差し出された花をパッと受け取ると、自分の懐に強引にしまった。
「わかりました」
花を受け取ったことは否定的ではないということだ。手応えを感じ、オリビアはホッと胸を撫で下ろす。
「はぁ、はぁ! ふぅ……。あれ? 殿下、どうしたのですか?」
遅れてやって来た側近は息を切らせて歩いてきたが、その脇をイクシオンが通り過ぎていく。
「戻るぞ」
「え? お、お待ちください! せっかく追いついたのに、また戻るんですか~!!」
ロイズは半泣きになりながら通り過ぎたイクシオンのあとを追っている。
(この人もイクシオンに振り回されて可哀想……)
オリビアも後を追いながら、ロイズに同情していた。
◇◆◇
城へと戻った三人はまた先ほどの部屋へと戻り、今度は応接用の椅子へと腰掛けた。
「――で、俺に結婚を申し込む理由を教えてもらおうか?」
「けけっ、結婚っ!!??」
後ろで話を聞いていたロイズは、立ったまま眼鏡をズラす勢いで驚いていた。
「ちょっ、ちょっとお待ちください! 川の話が、なぜ急に結婚の話に変わっているのですか?!」
先ほどのやり取りを見ていないロイズからすれば、降って湧いたような結婚の話は寝耳に水だろう。
「まぁ、色々あってな。どうやらこの問題を解決する代わりに、俺と結婚してほしいようだ」
「はいぃぃ?!」
事の成り行きをわかっていないだけに、ロイズの驚きようは端から見ても面白いほどだった。
「正確には契約結婚です。私が領地問題を解決する代わりに、期間限定で婚姻を結んでいただきたいのです」
「契約結婚か……その理由は?」
ソファに腰を掛けたまま姿勢を正し、目の前で様子を見定めているイクシオンへ鋭い視線を送った。
「――復讐です」
「復讐?」
「はい」
視線はそのままにハッキリと返事を返す。
「お前の目は嘘を言っていない。わかりやすく説明してみろ」
オリビアは大きく息を吸い、そして長めに息を吐いた。
「私には、幼い頃から婚約を結んだ婚約者がいました――」
順を追ってこれまであったことを説明した。私情はなるべく挟まず、状況だけをわかりやすく話した。
「ハッ……、クズだな」
「えぇ! ただの最低な男じゃないですか。それでなぜあなた方が賠償金を請求されるのかわからないのですが!?」
この返答を聞いてオリビアはホッとした。
もしイクシオンが婚約者だったジャンの行動を非難せず、賛同するような意見を述べればこのまま立ち去ろうとしたからだ。
「おそらく、圧力がかかったのでしょう。相手は侯爵家ですから、いくらでも裏から裁判官に取り入ることができます」
「それで、そいつらに復讐するためにお前が目を付けたのが、この俺だということか……」
腕を組んで聞いていたイクシオンもため息混じりに言葉を吐いていた。
「はい。もちろん、断っていただいても構いません」
「だがその場合、お前は解毒薬の作り方を教えることはないのだろう?」
「えぇ、おっしゃる通りです」
またハッキリと言葉を返すと、今度はイクシオンがオリビアに鋭い視線を送ってきている。
「お前には危機感というものはないのか? 立場を盾にするのならば、俺がお前に吐けと命令すればいいだけだろう」
「私がその命令に従う謂れはございません」
「ではお前をこの場で捕らえて拷問し、無理に吐かすこともできる」
「お好きなようにされて構いませんが、私は殿下がそのように非情なことをする人間ではないと知っています」
お互いに一瞬も視線を逸らさす会話を交わしていたが、イクシオンが大きくため息をつきながら顔を横に反らした。
「お前は……かなり厄介なやつだな。どこで聞いたか知らないが、俺についてよく調べているようだ」
調べたというよりはこれはゲームの情報だ。
イクシオンは自由奔放で適当な性格だが、女性に対しひどいことをするような愚かな人間ではなかった。
なので脅しでこのようなことを言っているのはオリビアにもわかった。
「殿下の心中は深くお察しいたします。ですがっ……、私も生半可な気持ちではなく、相当な覚悟を決めてここまでやってきました! 勝手だとは思いますが、それだけはご理解いただきたいのですっ」
俯いたオリビアは唇を噛み締め、膝のスカートをぎゅっと握り締めた。
自分の前に出された花を目の前に、イクシオンは瞠目したまま狼狽えるように言葉を出していた。
「えぇ。殿下に求婚しています」
オリビアも跪いたまま真剣にイクシオンを見つめている。
差し出した花を躊躇するように、見ていたが受け取ることはしなかった。
「お前が、俺に?」
「はい。それが条件です。それ以外のものはいりません」
スッと立ち上がったオリビアはやはりイクシオンから視線を外さず、持っていた花を自分の胸元に寄せた。
「――いや、ちょっと待て。意図はなんだ? お前は俺に求婚するほど好いている訳ではないだろう?」
「よくおわかりですね。話が早くて助かります。おっしゃる通り、私は殿下のことをどうとも思っておりません」
ハッキリとなんとも思っていないと断言したオリビアに、イクシオンは複雑そうな表情を見せている。
「……では、なぜだ」
「殿下は領民を救いたいという願いがあります。そして私は、殿下の持つその地位が必要なのです」
「俺の地位?」
「そうです。私に必要なのは殿下ご自身ではなく、殿下が持っているその王弟という地位です」
きっぱりと言い切ったオリビアは、今度は両手でイクシオンの前へと花を差し出した。
「――はぁ……、話が長くなりそうだな。ひとまず城へ戻るぞ。そこで詳しく話を聞こう」
深くため息をついたイクシオンは、差し出された花をパッと受け取ると、自分の懐に強引にしまった。
「わかりました」
花を受け取ったことは否定的ではないということだ。手応えを感じ、オリビアはホッと胸を撫で下ろす。
「はぁ、はぁ! ふぅ……。あれ? 殿下、どうしたのですか?」
遅れてやって来た側近は息を切らせて歩いてきたが、その脇をイクシオンが通り過ぎていく。
「戻るぞ」
「え? お、お待ちください! せっかく追いついたのに、また戻るんですか~!!」
ロイズは半泣きになりながら通り過ぎたイクシオンのあとを追っている。
(この人もイクシオンに振り回されて可哀想……)
オリビアも後を追いながら、ロイズに同情していた。
◇◆◇
城へと戻った三人はまた先ほどの部屋へと戻り、今度は応接用の椅子へと腰掛けた。
「――で、俺に結婚を申し込む理由を教えてもらおうか?」
「けけっ、結婚っ!!??」
後ろで話を聞いていたロイズは、立ったまま眼鏡をズラす勢いで驚いていた。
「ちょっ、ちょっとお待ちください! 川の話が、なぜ急に結婚の話に変わっているのですか?!」
先ほどのやり取りを見ていないロイズからすれば、降って湧いたような結婚の話は寝耳に水だろう。
「まぁ、色々あってな。どうやらこの問題を解決する代わりに、俺と結婚してほしいようだ」
「はいぃぃ?!」
事の成り行きをわかっていないだけに、ロイズの驚きようは端から見ても面白いほどだった。
「正確には契約結婚です。私が領地問題を解決する代わりに、期間限定で婚姻を結んでいただきたいのです」
「契約結婚か……その理由は?」
ソファに腰を掛けたまま姿勢を正し、目の前で様子を見定めているイクシオンへ鋭い視線を送った。
「――復讐です」
「復讐?」
「はい」
視線はそのままにハッキリと返事を返す。
「お前の目は嘘を言っていない。わかりやすく説明してみろ」
オリビアは大きく息を吸い、そして長めに息を吐いた。
「私には、幼い頃から婚約を結んだ婚約者がいました――」
順を追ってこれまであったことを説明した。私情はなるべく挟まず、状況だけをわかりやすく話した。
「ハッ……、クズだな」
「えぇ! ただの最低な男じゃないですか。それでなぜあなた方が賠償金を請求されるのかわからないのですが!?」
この返答を聞いてオリビアはホッとした。
もしイクシオンが婚約者だったジャンの行動を非難せず、賛同するような意見を述べればこのまま立ち去ろうとしたからだ。
「おそらく、圧力がかかったのでしょう。相手は侯爵家ですから、いくらでも裏から裁判官に取り入ることができます」
「それで、そいつらに復讐するためにお前が目を付けたのが、この俺だということか……」
腕を組んで聞いていたイクシオンもため息混じりに言葉を吐いていた。
「はい。もちろん、断っていただいても構いません」
「だがその場合、お前は解毒薬の作り方を教えることはないのだろう?」
「えぇ、おっしゃる通りです」
またハッキリと言葉を返すと、今度はイクシオンがオリビアに鋭い視線を送ってきている。
「お前には危機感というものはないのか? 立場を盾にするのならば、俺がお前に吐けと命令すればいいだけだろう」
「私がその命令に従う謂れはございません」
「ではお前をこの場で捕らえて拷問し、無理に吐かすこともできる」
「お好きなようにされて構いませんが、私は殿下がそのように非情なことをする人間ではないと知っています」
お互いに一瞬も視線を逸らさす会話を交わしていたが、イクシオンが大きくため息をつきながら顔を横に反らした。
「お前は……かなり厄介なやつだな。どこで聞いたか知らないが、俺についてよく調べているようだ」
調べたというよりはこれはゲームの情報だ。
イクシオンは自由奔放で適当な性格だが、女性に対しひどいことをするような愚かな人間ではなかった。
なので脅しでこのようなことを言っているのはオリビアにもわかった。
「殿下の心中は深くお察しいたします。ですがっ……、私も生半可な気持ちではなく、相当な覚悟を決めてここまでやってきました! 勝手だとは思いますが、それだけはご理解いただきたいのですっ」
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