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婚礼の儀
しおりを挟むそれからあっという間に時間が過ぎた。
遂に婚礼の日を迎えた。
「ほぅ……ちゃんとした格好をすれば、それなりに見えるじゃないか」
オリビアは真っ白なウェディングドレスに身を包み、手にはブーケを持っている。
頭にはベールを被り、焦茶色の髪はまとめ上げていた。
「やはり殿下は褒めるのが下手すぎます」
「クククッ……! 相変わらずお前は口が減らないな」
「私はともかく、殿下は良くお似合いです。その口の悪ささえなければ、うっかりときめいてしまうくらい素敵です」
イクシオンはダークグレーの髪を後ろに撫でつけ、少しだけ垂らした前髪が端整な顔によく似合っている。露出こそしていないが、王国の紋章の入ったマントに真っ白な軍服を身にまとっており、いつもとはまた違う風格が漂っていた。
「フッ、当然だ。まぁお前も、俺の理想には程遠いが悪くない」
「はあ。とりあえず私は形だけ進められれば、なんでもいいです」
「お前というやつは感動がないなぁ。婚礼の儀なんてそう何度も挙げられるもんじゃないだろ?」
「私はもう、こういった式など挙げることはないと思っていたので……感動よりも緊張しています」
そういうとオリビアは「ふぅ……」と、長く息を吐いた。
「そうか。まぁ、今日はお前にとって、色々な意味で忘れられない日となるだろう」
オリビアの目線に合わせて屈んだかと思えば、ずいぶん含みを持たせた意味深な言葉を吐いている。
この人の距離感の近さに動揺してしまう。
「――っ、おっしゃる意味がわかりませんが?」
「追々わかる。さぁ行くぞ、我が妃よ」
「……はい」
とりあえず返事を返し、イクシオンにエスコートされて式場へと向かった。
略式的な婚礼の儀は厳かに始まった。
教会での新郎新婦の誓い、指輪の交換、誓いのキスは省き、代わりに司祭の前で婚姻証明書に二人でサインをした。
「ではこれにて神の前でご成婚が認められました。お二人に行方に幸多からんことを」
優しい笑顔を浮かべた司祭の言葉で、婚礼の儀はつつがなく終わりを迎えた。
その後領地内で婚礼パーティが開かれ、宴は夜まで続いた。
◇◇◆
湯浴みを終えてようやく部屋へと戻ってきたオリビアは、楽な格好でベッドへ横たわっていた。
緊張の連続だったせいか、布団に吸い込まれるように体を沈めた。
(はぁ……ものすごく、疲れた……。これで簡略化なんだから、実際の式はパレードとかもあって何日にも渡るって言ってたから、想像も絶するくらい大変なんだろうな。私には関係ないからいいけど)
これに関してはイクシオンに感謝するしかない。当の本人も面倒だったのだろうが、これが何日も続いたらと思うと、具合が悪くなりそうだった。
(明日も解毒薬の製造と、説明をするのに領地を回らなきゃいけないから、早めに寝よう……)
疲れ果てたオリビアは眠気に誘われるまま目を閉じた。
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