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攻防戦
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深い眠りについていたオリビアの耳に、遠くから声が聞こえてくる。
「……きろ」
「ん……」
「おい、起きろ」
まだ微睡みの中にいるオリビアは、はっきり聞こえた声に僅かな反応だけ見せ、またスッと寝落ちしてしまう。
「寝込みを襲う趣味はないんだ。まったく、こんなに堂々と寝てるんじゃない」
「ん……? でん、か……? どうか、されましたか……」
眠い瞼を擦りながら起き上がったオリビアの前に、また胸元を大きく露出したイクシオンが目に映った。
「どうかされたじゃないだろう? 式の後の夜だぞ」
今にも閉じてしまいそうな瞼を薄く開け、眠気と戦いながら必死でイクシオンの言っている意味を考えていた。
「…………本日は、お疲れ様でした。式も無事に終えたことですし、殿下もお疲れでしょうから早めにお休みください。では……」
また布団にパタリと倒れ込んだオリビアに、イクシオンは不機嫌そうに声をかけて体を揺さぶった。
「おい、ふざけているのか?」
「ふぁぁ~……、ふざけてなど、おりませんが……まだ労いが必要ですか?」
大きく伸びをして再び起き上がったオリビアは、仕方なくイクシオンのほうを向いた。
「労いではなく、これから初夜に入ろうというのに、お前というやつは……」
「……しょや?」
「あぁ、初夜だ」
言われた言葉が頭に届くまでにしばらくかかった。そして言葉の意味はどうにか理解したが、イクシオンがそれを求める意味がまったくわからなかった。
「…………誓いのキスですら省いた我々に、初夜の必要性を感じられないのですが」
「必要はあるだろう」
「しかし、夜の夫婦関係は契約条件に入っていません」
「それは違うぞ。お前は契約書をちゃんと読んでいないのか?」
「読みましたが……」
ようやく覚醒してきた頭で必死に契約内容を思い返していたが、一向にそれらしい内容があったか思い出せなかった。
どうしてもわからないオリビアに、イクシオンが口を開く。
「こう書かれていなかったか? 『妻は夫に対し常に献身し、いかなる時でも妻としての努めを果たさなければならない』と」
「たしかに、ありました。それがなんの関係があるというのですか?」
「夫にその身を捧げ、慰めることも妻としての立派な努めだ」
してやったりという表情で口角を上げているイクシオンの顔をまじまじと見る。
「――っ! ほ、本気ですか……?!」
「もちろん本気だ。それに、お前には色気が足りない。俺と結婚していつまでもこんな調子じゃ、俺が手を出していないと思われてしまうだろ? だから俺が、お前に女の悦びを教えてやろう」
ギシッとベッドに手を置き、少しずつ距離を詰めてくるイクシオンに、オリビアは心拍数を早めながら体をズラして後ずさり、キッとイクシオンを睨んだ。
「私はそんなもの、求めていません」
「正式に俺の妃になった以上、お前に拒否権はないぞ? そもそも俺に契約内容を全て任せてしまったお前が悪いんだからな」
また一歩自分に迫ってくるイクシオンに、オリビアは焦りを感じ始めた。
まさかイクシオンが自分を性の対象にするとは思ってもみなかったからだ。
「わかりました。私はこう見えて寛容なのです。私に慰めを求めるほど欲求不満でしたら、城に女性を呼んでもらって構いません。わからないように会ってもらう分には、咎めませんから」
実際、元婚約者はそうやって女性と逢引していた。今さらイクシオンが女性と会っていたところで、なんの動揺もない。
「お前も往生際の悪いやつだな。俺はお前に夜伽を求めている。初めに承諾したお前が悪いのだから、従ってもらうしかないな」
オリビアに目線を合わせるように屈むと、美しい顔に笑みを深く刻み、楽しそうに眺めている。
(この人っ……、これも絶対嫌がらせだっ!! 私が嫌がる様子を見て楽しんでるだけだ!)
大きく息を吸って吐くと、オリビアは冷静に対応するよう努めると、スッと表情を消した。
「殿下が私の体でご満足するとは思えません。やるだけ無駄です」
「無駄かどうかはやってみなければわからないだろう?」
「やった後に文句を言われても困ります」
「俺はそこまで無粋な男じゃないぞ。まぁもし満足しなければ、もう二度とお前に手は出さないと誓ってやろう」
なんとかやる気を削ごうと必死なオリビアだが、イクシオンはどこまでも頑なな態度を崩そうとしない。
(ここまで言ってるのにっ……! どうして諦めてくれないの?!)
しかし、契約を結んでしまった以上強く拒むこともできず、どうしても初夜を過ごさなくてはならないことをようやく悟る。
「さぁ、どうする? 我が妃よ」
顎を反らして流し目で挑発しているイクシオンに、オリビアの対抗心が変に刺激されてしまった。
「そっ……そこまで言うなら、やってやろうじゃないですか!」
(イクシオンが私なんかで満足するわけがない! あれだけたくさんの美女と遊んできた人が、こんな平凡な顔と体の私を相手に、満足するなんてあり得ないっ!)
もうヤケクソになったオリビアは、ベッドの上に倒れると両手両足を広げて大の字になった。
「あとから後悔しても知りませんからね! 煮るなり焼くなり、どうぞお好きなようになさってください!」
「お前というやつは……」
「おやめになるのでしたら早めにお願いいたします!」
「やめるつもりはないが、色気の欠片もないなぁ」
大の字になったオリビアを上から覗き込んだイクシオンがため息混じりに言葉を吐いている。
「でしたら、こんな不毛なことはやめましょう」
「不毛かどうかを決めるのはこの俺だ。お前もいい加減諦めろ」
「っ」
また売り言葉に買い言葉で、オリビアはついに逃げ場をなくしてしまった。
「……きろ」
「ん……」
「おい、起きろ」
まだ微睡みの中にいるオリビアは、はっきり聞こえた声に僅かな反応だけ見せ、またスッと寝落ちしてしまう。
「寝込みを襲う趣味はないんだ。まったく、こんなに堂々と寝てるんじゃない」
「ん……? でん、か……? どうか、されましたか……」
眠い瞼を擦りながら起き上がったオリビアの前に、また胸元を大きく露出したイクシオンが目に映った。
「どうかされたじゃないだろう? 式の後の夜だぞ」
今にも閉じてしまいそうな瞼を薄く開け、眠気と戦いながら必死でイクシオンの言っている意味を考えていた。
「…………本日は、お疲れ様でした。式も無事に終えたことですし、殿下もお疲れでしょうから早めにお休みください。では……」
また布団にパタリと倒れ込んだオリビアに、イクシオンは不機嫌そうに声をかけて体を揺さぶった。
「おい、ふざけているのか?」
「ふぁぁ~……、ふざけてなど、おりませんが……まだ労いが必要ですか?」
大きく伸びをして再び起き上がったオリビアは、仕方なくイクシオンのほうを向いた。
「労いではなく、これから初夜に入ろうというのに、お前というやつは……」
「……しょや?」
「あぁ、初夜だ」
言われた言葉が頭に届くまでにしばらくかかった。そして言葉の意味はどうにか理解したが、イクシオンがそれを求める意味がまったくわからなかった。
「…………誓いのキスですら省いた我々に、初夜の必要性を感じられないのですが」
「必要はあるだろう」
「しかし、夜の夫婦関係は契約条件に入っていません」
「それは違うぞ。お前は契約書をちゃんと読んでいないのか?」
「読みましたが……」
ようやく覚醒してきた頭で必死に契約内容を思い返していたが、一向にそれらしい内容があったか思い出せなかった。
どうしてもわからないオリビアに、イクシオンが口を開く。
「こう書かれていなかったか? 『妻は夫に対し常に献身し、いかなる時でも妻としての努めを果たさなければならない』と」
「たしかに、ありました。それがなんの関係があるというのですか?」
「夫にその身を捧げ、慰めることも妻としての立派な努めだ」
してやったりという表情で口角を上げているイクシオンの顔をまじまじと見る。
「――っ! ほ、本気ですか……?!」
「もちろん本気だ。それに、お前には色気が足りない。俺と結婚していつまでもこんな調子じゃ、俺が手を出していないと思われてしまうだろ? だから俺が、お前に女の悦びを教えてやろう」
ギシッとベッドに手を置き、少しずつ距離を詰めてくるイクシオンに、オリビアは心拍数を早めながら体をズラして後ずさり、キッとイクシオンを睨んだ。
「私はそんなもの、求めていません」
「正式に俺の妃になった以上、お前に拒否権はないぞ? そもそも俺に契約内容を全て任せてしまったお前が悪いんだからな」
また一歩自分に迫ってくるイクシオンに、オリビアは焦りを感じ始めた。
まさかイクシオンが自分を性の対象にするとは思ってもみなかったからだ。
「わかりました。私はこう見えて寛容なのです。私に慰めを求めるほど欲求不満でしたら、城に女性を呼んでもらって構いません。わからないように会ってもらう分には、咎めませんから」
実際、元婚約者はそうやって女性と逢引していた。今さらイクシオンが女性と会っていたところで、なんの動揺もない。
「お前も往生際の悪いやつだな。俺はお前に夜伽を求めている。初めに承諾したお前が悪いのだから、従ってもらうしかないな」
オリビアに目線を合わせるように屈むと、美しい顔に笑みを深く刻み、楽しそうに眺めている。
(この人っ……、これも絶対嫌がらせだっ!! 私が嫌がる様子を見て楽しんでるだけだ!)
大きく息を吸って吐くと、オリビアは冷静に対応するよう努めると、スッと表情を消した。
「殿下が私の体でご満足するとは思えません。やるだけ無駄です」
「無駄かどうかはやってみなければわからないだろう?」
「やった後に文句を言われても困ります」
「俺はそこまで無粋な男じゃないぞ。まぁもし満足しなければ、もう二度とお前に手は出さないと誓ってやろう」
なんとかやる気を削ごうと必死なオリビアだが、イクシオンはどこまでも頑なな態度を崩そうとしない。
(ここまで言ってるのにっ……! どうして諦めてくれないの?!)
しかし、契約を結んでしまった以上強く拒むこともできず、どうしても初夜を過ごさなくてはならないことをようやく悟る。
「さぁ、どうする? 我が妃よ」
顎を反らして流し目で挑発しているイクシオンに、オリビアの対抗心が変に刺激されてしまった。
「そっ……そこまで言うなら、やってやろうじゃないですか!」
(イクシオンが私なんかで満足するわけがない! あれだけたくさんの美女と遊んできた人が、こんな平凡な顔と体の私を相手に、満足するなんてあり得ないっ!)
もうヤケクソになったオリビアは、ベッドの上に倒れると両手両足を広げて大の字になった。
「あとから後悔しても知りませんからね! 煮るなり焼くなり、どうぞお好きなようになさってください!」
「お前というやつは……」
「おやめになるのでしたら早めにお願いいたします!」
「やめるつもりはないが、色気の欠片もないなぁ」
大の字になったオリビアを上から覗き込んだイクシオンがため息混じりに言葉を吐いている。
「でしたら、こんな不毛なことはやめましょう」
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