【R18】復讐を決意した傷もの令嬢は、魅惑の王弟殿下に甘く翻弄される 〜契約結婚の条件に夜伽が含まれていたなんて聞いてません!〜

ウリ坊

文字の大きさ
91 / 99

虚しい日々 (イクシオン視点)

しおりを挟む

 次の日、人手を集めてライアーロードをくまなく探したが、オリビアが見つかることはなかった。
 オリビアのいた部屋に手掛かりになるものを探したが、出てきたのは死亡届と直筆の手紙だった。

 これまで世話になった感謝の言葉と、自分は不慮の事故で死んだことにしてくれという衝撃的なものだった。

「対策は考えていると言っていたが、まさか死亡届とは……」

「いやぁ~、妃殿下の周到さには改めて驚かされますね。たしかにこの解決方法は賢明だと思います」
 
「お前は……、そんなことで感心するなっ」

「ですが妃殿下は、王弟妃で陛下にも気に入られ、しかも王子方の記憶にも新しい人です。そんな人物が突然いなくなってしまっては大変な事態になりますよね? それらを手っ取り早く解決するには、本人が何らかの理由で亡くなるというのが一番説得力がありますから」

 イクシオンは手紙を見て、深いため息をついた。

「頭が回るというのも、いいことばかりじゃないな。何も考えず、ここに留まればいいものをっ……!」

「はははっ! 妃殿下がそのような方ではないことは、殿下が一番よくお分かりじゃないですか。妃殿下は真面目で堅実な方でしたから、ご自分の感情だけで契約を反故にすることなどお考えにはならないのでしょうね」

「お前は少し黙っていろッ!」

「は、はいっ! 失礼いたしました!」

 珍しく本気の怒りを見せているイクシオンに、ロイズも口元に両手を当てて閉口していた。

 そんなことはわかっていた。

 しかしオリビアも自分のことを好いていると思っていた。
 希望も脈もあるはずだった。
 
 だが結局は留まることもせず、自分の元から去っていってしまった。

 ロイズの言うことはもっともだが、それを認めたくない、受け入れたくない自分にさらに苛立ちを募らせていた。


 ◇◆◇ 


 死亡届を見てからというもの、イクシオンの受けた衝撃は強すぎるものだった。
 誰とも話さず、なんのやる気も起きずに、一日中部屋に籠って塞いでいた。

 王城から来るように書簡が届いていたが、行く気にならずに無視していた。
 今まで異母兄からの伝令を無視したことはなかったが、どうしても気持ちが動かなかった。

 二日目にはひたすら馬に乗り、当てもなくオリビアの行方を捜した。
 闇雲に走り回るだけでは見つかる訳もないが、部屋でジッとしていることができなかった。
 日が暮れるまでそこら中捜したが、やはりオリビアを見つけることはできなかった。

 三日目は焦燥感と虚しさが募り、再び何もする気が置きなかった。
 自分の部屋のソファに座り、窓の外をただ見て一日が終わった。

 秘密裏に捜索隊も出していたが、オリビアが見つかったという情報は、いつまで経っても得ることはできなかった。
 それがまたイクシオンを絶望に突き落としていた。

 ロイズもたまに部屋を訪れて心配そうに声をかけていたが、空返事を返すイクシオンに諦めた様子で再び執務室へ戻り、自分の仕事を再開していた。

 四日目にようやく執務室まで出てきたが、自分の椅子に座ったまま、とくに何をするでもなく呆然と窓の外を眺めていた。

 この日も半日ほど廃人のように過ごしていた。
 沈んでいた気持ちを吐き出すように深くため息をついていると、オリビアが座っていた机に花瓶が置いてあることに気づいた。
 これはオリビアの部屋にあったものを誰かがここまで移動させたようだった。
 
 立ち上がって机の前まで行くと、花瓶から一輪花を抜き取った。

 半年前突然現れ、この花を自分に捧げて求婚してきたオリビアを思い出していた。

「あぁ、これは解毒薬に使われた花ですね」

 この花瓶を移した犯人がロイズだということはわかっていた。

 ロイズとの付き合いも長いからか、いちいち注意することも億劫で黙って聞いていた。

「知ってましたか、殿下。この花はハレノニチ草というそうです」

「……俺には、どうでもいいことだ」

 掠れた小声でぼそっと呟いた。
 花の名前など知っていても意味はないし、この花自体には興味もなかった。

「この花にも花言葉があるそうで、たしか不屈や堅実などがあるそうです」

 返答を気にせずに一人で話しているロイズに、イクシオンは黙って白い花を眺めていた。

「まるで、あいつみたいな花言葉だな……」

 小さいながらも凛と咲き誇る白い花を見て、思わずそんな言葉が漏れた。

「まだありまして、孤高とか気高さという花言葉もあるそうです」

 イクシオンが花を顔に近づけて匂いを嗅ぐと、微かな甘い香りを感じた。

「これは妃殿下が私に教えてくださいました。その時に妃殿下は、この花はまるで殿下のようだとおっしゃって、とても嬉しそうに笑っていらっしゃいましたよ」

「――っ!」

 目の前の花を見て、あることを思い出した。

 ある日オリビアは、理想と現実は違うのだと言って、イクシオンに向かい初めて笑顔を見せていた。

 あの時にわからなかった言葉の意味が、今なら痛いほどよくわかる。
 
 持っていたハレノニチ草を再び花瓶に戻し、扉に向かって歩き出した。

「殿下? どちらへ」

「少し、出てくる……」

「――あっ、殿下!」

 ロイズに手短に話すと、扉を開けて部屋から出て、馬小屋へと向かう。

「はははっ! 本当に、お互い素直じゃないんですから。似た者夫婦ですね!」

 扉の向こうからロイズの声が聞こえたが、振り返らずに廊下を歩き出した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う

ノルジャン
恋愛
「堕ろせ。子どもはまた出来る」夫ランドルフに不貞を疑われたジュリア。誤解を解こうとランドルフを追いかけたところ、階段から転げ落ちてしまった。流産したと勘違いしたランドルフは「よかったじゃないか」と言い放った。ショックを受けたジュリアは、ランドルフの子どもを身籠ったまま彼の元を去ることに。昔お世話になった学校の先生、ケビンの元を訪ね、彼の支えの下で無事に子どもが生まれた。だがそんな中、夫ランドルフが現れて――? エブリスタ、ムーンライトノベルズにて投稿したものを加筆改稿しております。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

【完結】体目的でもいいですか?

ユユ
恋愛
王太子殿下の婚約者候補だったルーナは 冤罪をかけられて断罪された。 顔に火傷を負った狂乱の戦士に 嫁がされることになった。 ルーナは内向的な令嬢だった。 冤罪という声も届かず罪人のように嫁ぎ先へ。 だが、護送中に巨大な熊に襲われ 馬車が暴走。 ルーナは瀕死の重症を負った。 というか一度死んだ。 神の悪戯か、日本で死んだ私がルーナとなって蘇った。 * 作り話です * 完結保証付きです * R18

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】初恋の彼に 身代わりの妻に選ばれました

ユユ
恋愛
婚姻4年。夫が他界した。 夫は婚約前から病弱だった。 王妃様は、愛する息子である第三王子の婚約者に 私を指名した。 本当は私にはお慕いする人がいた。 だけど平凡な子爵家の令嬢の私にとって 彼は高嶺の花。 しかも王家からの打診を断る自由などなかった。 実家に戻ると、高嶺の花の彼の妻にと縁談が…。 * 作り話です。 * 完結保証つき。 * R18

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

処理中です...