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悔恨 2 (イクシオン視点)
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「妃殿下から、契約終了後はどこに身を寄せられるか聞いていなかったのですか?」
「何も、聞いていない。すべて建国祭が終わってから聞こうと思っていた。だがその前にいなくなってしまった……!」
自分の思いを素直に吐き出すイクシオンが珍しいのか、ロイズもいつもの軽口ではなく、言葉を選びながら慎重に発言しているようだった。
「殿下のご意見もわかりますが……妃殿下の几帳面な性格を考えれば、なんとなく想像はつきますよね? 建国祭が終わるまでと契約されたのですから、終了後にはすぐにでもここからいなくならなければいけないと考えたのではないでしょうか?」
苛立ちを隠せていないイクシオンに向かい、眉毛を下げたロイズは自分の考えを注意深く述べている。
ロイズもオリビアと共に仕事をしてきたからか、オリビアの性格もそれとなく把握しているのだろう。
「――あぁ、わかってる」
イクシオンは自分の机に手をついて、肩を落とすようにポツポツ返事を返した。
「殿下……?」
「部屋の物も日に日に減っていた。身辺整理をしていたし、自分の荷物をまとめていたことも知っていた」
「なっ……! そこまで知っていたのですか?!」
「あぁ。だからこそ最後に言おうとしていたんだ。当日、あまりに色々なことがありすぎて、その前に逃げられた」
「はぁぁ……なんてことだっ。わかっていたなら、もっと早くにお伝えすれば良かったじゃないですか!」
ロイズが呆れる気持ちもわかっているが、イクシオンにもイクシオンの事情があったのだ。
オリビアには何度か確認していた。
気持ちは変わらないのか、と。
だがオリビアの答えはいつも同じで、変わることはなかった。
復讐に囚われている彼女の気持ちを自分に向けるには、オリビアが待ち望んでいる復讐を終わらせるしかなかった。
だからイクシオンは復讐が終わるまで待っていたのだ。
ただ復讐を果たしたオリビアがあそこまで取り乱すとは予想もできず、あまりに素直に自分を求める姿にこちらのほうが夢中になってしまった。
翌朝、改めてオリビアに言おうと思っていたが、そのまま逃げられてしまった。
結局、何も言えなかった自分自身のせいだ。
「はぁ……、これまでの報いかっ……」
これまで幾度となく一夜を終えた女性たちに冷たく対応してきた。
自分も同じことをされ、初めて酷いことをしてきたのだと自覚する。
顔を片手で覆って悲観に暮れているイクシオンに、ロイズが冷静に対応を考えてくれている。
「ひとまず門兵に妃殿下がいつ出て行かれたか確認してみましょう! 城門を通らなくては外へは出られませんから!」
そう言って急いで執務室まで門兵を呼び出した。
「はい。オリビア様は馬に乗って出かけられました」
問われた質問に門兵は普通に答えている。事情を知らないだけに、事の重大さをわかっていない。
「いつだっ! どこに行くか、他に何か言っていなかったか!?」
少しでもオリビアに近づく情報に、座っていたイクシオンは立ち上がり、声を荒らげて門兵を問い詰めている。
「は、はい! たしか、昼を過ぎた時間だったと思います。戻られてすぐにまた馬で出ようとされていたので、どちらへ行かれるかお聞きしたところ……遠出するので、しばらく城を空けると仰っておりました」
いつもと違うイクシオンの様子を察知したのか、門兵も緊張感を持って話をしている。
門兵がありのまま話す言葉に、ロイズは気まずそうにイクシオンを見ていた。
「もう……、下がっていいぞ」
「ハッ! では失礼いたします!」
再び座り込み、イクシオンは机の上で頭を抱えていた。
「もう半日以上経っている……あいつは馬の扱いにも長けていたから、行こうと思えばどこへでも行ける……」
「殿下……」
ロイズもそれ以上言葉が続かないのか、黙り込んでしまった。
窓の外はすっかり暗くなり、夜も更けている。
真っ暗闇と同じ絶望感がイクシオンの心を占めていた。
昨日まで自分の腕の中にいた大切な存在は、自分の腕をすり抜けていなくなってしまった。
「何も、聞いていない。すべて建国祭が終わってから聞こうと思っていた。だがその前にいなくなってしまった……!」
自分の思いを素直に吐き出すイクシオンが珍しいのか、ロイズもいつもの軽口ではなく、言葉を選びながら慎重に発言しているようだった。
「殿下のご意見もわかりますが……妃殿下の几帳面な性格を考えれば、なんとなく想像はつきますよね? 建国祭が終わるまでと契約されたのですから、終了後にはすぐにでもここからいなくならなければいけないと考えたのではないでしょうか?」
苛立ちを隠せていないイクシオンに向かい、眉毛を下げたロイズは自分の考えを注意深く述べている。
ロイズもオリビアと共に仕事をしてきたからか、オリビアの性格もそれとなく把握しているのだろう。
「――あぁ、わかってる」
イクシオンは自分の机に手をついて、肩を落とすようにポツポツ返事を返した。
「殿下……?」
「部屋の物も日に日に減っていた。身辺整理をしていたし、自分の荷物をまとめていたことも知っていた」
「なっ……! そこまで知っていたのですか?!」
「あぁ。だからこそ最後に言おうとしていたんだ。当日、あまりに色々なことがありすぎて、その前に逃げられた」
「はぁぁ……なんてことだっ。わかっていたなら、もっと早くにお伝えすれば良かったじゃないですか!」
ロイズが呆れる気持ちもわかっているが、イクシオンにもイクシオンの事情があったのだ。
オリビアには何度か確認していた。
気持ちは変わらないのか、と。
だがオリビアの答えはいつも同じで、変わることはなかった。
復讐に囚われている彼女の気持ちを自分に向けるには、オリビアが待ち望んでいる復讐を終わらせるしかなかった。
だからイクシオンは復讐が終わるまで待っていたのだ。
ただ復讐を果たしたオリビアがあそこまで取り乱すとは予想もできず、あまりに素直に自分を求める姿にこちらのほうが夢中になってしまった。
翌朝、改めてオリビアに言おうと思っていたが、そのまま逃げられてしまった。
結局、何も言えなかった自分自身のせいだ。
「はぁ……、これまでの報いかっ……」
これまで幾度となく一夜を終えた女性たちに冷たく対応してきた。
自分も同じことをされ、初めて酷いことをしてきたのだと自覚する。
顔を片手で覆って悲観に暮れているイクシオンに、ロイズが冷静に対応を考えてくれている。
「ひとまず門兵に妃殿下がいつ出て行かれたか確認してみましょう! 城門を通らなくては外へは出られませんから!」
そう言って急いで執務室まで門兵を呼び出した。
「はい。オリビア様は馬に乗って出かけられました」
問われた質問に門兵は普通に答えている。事情を知らないだけに、事の重大さをわかっていない。
「いつだっ! どこに行くか、他に何か言っていなかったか!?」
少しでもオリビアに近づく情報に、座っていたイクシオンは立ち上がり、声を荒らげて門兵を問い詰めている。
「は、はい! たしか、昼を過ぎた時間だったと思います。戻られてすぐにまた馬で出ようとされていたので、どちらへ行かれるかお聞きしたところ……遠出するので、しばらく城を空けると仰っておりました」
いつもと違うイクシオンの様子を察知したのか、門兵も緊張感を持って話をしている。
門兵がありのまま話す言葉に、ロイズは気まずそうにイクシオンを見ていた。
「もう……、下がっていいぞ」
「ハッ! では失礼いたします!」
再び座り込み、イクシオンは机の上で頭を抱えていた。
「もう半日以上経っている……あいつは馬の扱いにも長けていたから、行こうと思えばどこへでも行ける……」
「殿下……」
ロイズもそれ以上言葉が続かないのか、黙り込んでしまった。
窓の外はすっかり暗くなり、夜も更けている。
真っ暗闇と同じ絶望感がイクシオンの心を占めていた。
昨日まで自分の腕の中にいた大切な存在は、自分の腕をすり抜けていなくなってしまった。
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