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人生の転機 (イクシオン視点)
そう悟ったイクシオンは静かに身を引き、なるべくアフロディーテの前に姿を現さないよう努めた。
(結局、最終的に選ばれるのは俺ではなく、一番有力な権力者であるメルディオだったか……。まぁ、そうだろうな。たとえ美しく聡明で医学の知識が高かろうと、高い地位にいなければ自由に学ぶことも難しい。ましてや彼女の実家は貧窮している)
自分がどうにかしたかったが、目立った動きもできず、結局アフロディーテより自分の保身を選んでしまった。
これでは彼女に選ばれなくても仕方がないのだとイクシオンは自分の中で納得した。
この時イクシオンの領地も大規模な地震に加え、その後に謎の病が流行り、色恋沙汰になど構っていられなくなった。
原因の究明に急ぐが明確な原因はわからず、先の伝染病とも症状が異なり、無駄に時間だけが過ぎていった。
領地の活気もなくなり、病のせいで動けなくなる者も数多く出た。
復興の人出も段々と減っていき、様々な面で支障が出始めていた。
ここで医学に詳しいアフロディーテに助言を求めようかと考えたが、すでに彼女と婚約した第一王子のメルディオがアフロディーテから離れなかった。
さらにメルディオは、アフロディーテを陰ながら口説いていたイクシオンを目の敵にしていた。
何もかもが上手くいかず、お手上げ状態だったイクシオンの元に、一筋の転機が訪れる。
その日も原因不明の病や復興のことで話し合っていた。
なかなか解決しない問題に、領民たちからは領主であるイクシオンに対し、非難や不満の声が上がっていた。
イクシオンとロイズも様々な調査を行ったが、やはり原因はわからなかった。
万策尽きたと頭を抱えていたある日。
物事が悪い方向にしかいかず、やる気もなく机でだらけていた。
側近のロイズからは真面目に取り組んでくれと嘆かれながら、いつもと同じ時間を過ごしていた。
「殿下! 実は地質学者と名乗る女性が訪ねて来られまして、この領地で起こっている原因不明の病の問題を解決できると言っているのですが、いかがいたしましょう!」
「なにっ! 本当か?!」
「はい。一度会われてみてはどうでしょうか?」
「そうだな……」
嘘か本当かもわからないが、先行きの見えない問題に、正直藁にもすがる思いだった。
日に日に病んでいく領民たちを見ながら、何もできない自分を歯痒く思っていた。
それに女性ならば、自分の容姿を使えば上手く手玉に取れるかもしれない。イクシオンの中にある程度の打算が生まれた。
「よし、連れてこい」
「ハッ!」
切れよく返事を返した門兵にイクシオンの心も期待で膨らんでいた。
地質学者だといわれて通された女性は幾分若かったが、特別美しいわけでもなく至って普通の容姿だった。
ただ、イクシオンを真っ直ぐ見つめる空色の瞳はとても力強く、引き込まれそうなほど印象深かった。
長きに渡り原因がわからなかった病の元凶を彼女はいとも簡単に探り当ててしまった。
そして――
「イクシオン・アーク・ライアー王弟殿下、どうか私と結婚してください」
あまりにも予想外すぎた。
まさかこのタイミングで自分に結婚を申し込むとは思ってもみなかったからだ。
彼女の瞳は自分に恋焦がれ告白したものではなく、もっと切羽詰まったよほどの事情があることだけはわかった。
よくよく事情を聞くとどうやらオリビアと名乗る彼女は、婚約者に手酷く裏切られ名誉を傷付けられた上に多額の賠償金まで請求され、復讐するために契約結婚してほしいということだった。
(俺を利用しようというのが面白いな。本当に権力を得たいのならば第二王子にでも取り入ればいいものを……わざわざ俺の所に来るとは、何か別の理由があったのだろう)
王位すら放棄したイクシオンにそれほどの権力はない。
自分を可愛がっている現国王の異母兄が亡くなってしまえば、むしろ一番力の弱い王族となるだろう。
だから期間限定の契約結婚なのかと妙に納得した。
自分を利用するだけしたら他の女のように自分の元を去るのだろう。
この時はそう考えていた。
「それは確かにそうなのですが、その間もここの領民の方々は何も知らずに蝕まれてしまうじゃないですか。それをただ傍観しているのは嫌だったので、早めにどうにかしてあげたいと……そう思っただけです」
強い視線を送り確固たる信念で話していた彼女が、この時ばかりは視線を落としポツポツと語っていた。
これまでの女たちのように、自分と一緒にいたいがために半年もの長い期間を設けたのかと思ったが、これまた返ってきた答えはとても予想外なものだった。
少しの間垣間見えた彼女の本音に、イクシオンの心が僅かに揺れた。
イクシオンに媚びることも怯むこともしない彼女に興味が湧いた。
どのみち自分に選択肢はない。
そう考え、彼女の条件を飲むことにした。
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