【R18】復讐を決意した傷もの令嬢は、魅惑の王弟殿下に甘く翻弄される 〜契約結婚の条件に夜伽が含まれていたなんて聞いてません!〜

ウリ坊

文字の大きさ
50 / 99

出航

しおりを挟む

 二週間ほど経ち、オリビアの足もすっかり完治した頃。
 加工した鉱物の搬入が始まり、ライアーロードから一番近い港へと馬車に乗せて運び込まれた。

「では、ユニットさんよろしくお願いいたします」

 久しぶりに嗅ぐ磯の香りに、オリビアは懐かしさを噛み締めていた。
 こうして海を見ていると郷愁を誘い、故郷へ帰りたくなってくる。

「はい、オリビア様。必ずや大役を果たして戻ってまいります!」

 ユニットと呼ばれた三十代半ばの男性は通訳兼大使に選ばれた優秀な人材だった。
 元々彼が先の会談の通訳だったのだが、体調を崩し、急遽オリビアが通訳として会談に立つことになった。

「ご存知の通り、リュビーナ国の方々は気が強い上に短気です。説明は手短に、反抗されても己の感情を見せてはいけません。冷静に対処してください。……本来ならば私が出向きたいところなのですが、そうもいかず申し訳ございません」

 リュビーナ国に赴くことが初めての彼に、自分がわかることを教えていくのだが、やはり不安は拭い去れなかった。

「そんなっ、滅相もございません! オリビア様は王弟妃殿下であらせられます! そんな御方を長く異国の地に留まらせることなどできません! どうぞ私にお任せくださいっ!」

 出稿する船の前でドンッと胸を叩くユニットに、オリビアはふっと微笑んだ。

「では、心よりご健闘をお祈りしております。もし、有事の際には私が渡した例のペンダントをリュビーナの上層部へお渡しください」

「このように大切なものを私などに渡してよろしかったのですか?」

 目の前に出しはしなかったが、ユニットは大事そうに胸元に手を当てていた。
 それはかつての友人であるトゥバラから貰ったペンダントだった。

「えぇ、もちろんです。私にはもう用のないものですから……」

 潮風がオリビアの体を通り過ぎていく。   
 心地良くポニーテールを揺らし、舞い上がった横髪を耳にかける。

「では、お気をつけてっ」

「はい! 行ってまいりますっ!!」

 大きく手を振ってユニットは船内に消えていった。
 出航を知らせる汽笛が港に響き、オリビアも手を振ってユニットを見送った。

 ここでもう一つ目的がある。
 それは国王陛下であるルードヴィッヒ三世を治すある木の実を探しにきた。
 この実は、わりと一般的に取引されており、入手自体は困難ではなかった。
 ただ、この実とルードヴィッヒ三世の病が結びつくのはかなり後になってからだった。

 商店が軒並み活気づく港の町をゆっくりと歩きながら、一人で探していく。
 そしてある一軒の露店で探していたものを見つけた。

「お姉さん、こちらの実はこの量しかありませんか?」

「あらやだっ……お姉さんだなんて! お嬢さんも通だねぇ。この実を知ってるのかい?」

 かなり年配の女性だったが、上機嫌で話をしてくれている。
 真っ黒な実で豆粒ほどしかないが、これが後に病に効くと判明し、値段が何倍にも高騰したのだ。

「えぇ。うちはこの実を潰してジャムにするのが好きなんです。でも大量に作りたいので、できれば今ある在庫も全部欲しいのですが……」

「あぁ、そうなんだね! じゃあ、ある分ぜ~んぶ売ってあげるよ! メユールの実はあんまり需要がなくてねぇ。だからお嬢さんには特別安く売ってあげるよ!」

 そう言って露店の裏へと入り、大袋に入ったメユールの実をニコニコしながら出してきた。  

「まだ三袋あるけど、どうする?」

 このメユールと呼ばれた実は乾燥して潰してから使うので、数カ月から長ければ二年ほど保存が効くのだ。
 コレだけの量があればルードヴィッヒ三世が回復するまで申し分ないだろう。

「では、ある分をすべて買い取らせていただきます。これからも定期的に購入したいので、金額にも色を付けておきますね」

 店の女亭主は大喜びし、オリビアも予想していた金額の十分の一ほどで買えた。
 イクシオンから王弟妃として貰っている金額も少なくないが、オリビアはほとんど手を付けていない。
 自分はいずれいなくなる身、いつか来るであろう未来の王弟妃のためにも、無駄な出費はしたくなかった。
 
(これで第一段階はクリアした。あとはこれをどうやって陛下に服用してもらうか……)

 目立った動きはもうしたくない。
 思い付く方法としては、アフロディーテとの接触で、彼女にこのメユールの実の効果を認識してもらうことだが、それはなかなか難しいことだった。
 アフロディーテと接触するには王城に行かなければいけないし、そこからどうやってこの実とルードヴィッヒ三世の病を結びつけていくのか――

 袋に入った大量の実を見ながら、オリビアは頭を悩ませるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください

無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――

傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う

ノルジャン
恋愛
「堕ろせ。子どもはまた出来る」夫ランドルフに不貞を疑われたジュリア。誤解を解こうとランドルフを追いかけたところ、階段から転げ落ちてしまった。流産したと勘違いしたランドルフは「よかったじゃないか」と言い放った。ショックを受けたジュリアは、ランドルフの子どもを身籠ったまま彼の元を去ることに。昔お世話になった学校の先生、ケビンの元を訪ね、彼の支えの下で無事に子どもが生まれた。だがそんな中、夫ランドルフが現れて――? エブリスタ、ムーンライトノベルズにて投稿したものを加筆改稿しております。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

【完結】体目的でもいいですか?

ユユ
恋愛
王太子殿下の婚約者候補だったルーナは 冤罪をかけられて断罪された。 顔に火傷を負った狂乱の戦士に 嫁がされることになった。 ルーナは内向的な令嬢だった。 冤罪という声も届かず罪人のように嫁ぎ先へ。 だが、護送中に巨大な熊に襲われ 馬車が暴走。 ルーナは瀕死の重症を負った。 というか一度死んだ。 神の悪戯か、日本で死んだ私がルーナとなって蘇った。 * 作り話です * 完結保証付きです * R18

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】初恋の彼に 身代わりの妻に選ばれました

ユユ
恋愛
婚姻4年。夫が他界した。 夫は婚約前から病弱だった。 王妃様は、愛する息子である第三王子の婚約者に 私を指名した。 本当は私にはお慕いする人がいた。 だけど平凡な子爵家の令嬢の私にとって 彼は高嶺の花。 しかも王家からの打診を断る自由などなかった。 実家に戻ると、高嶺の花の彼の妻にと縁談が…。 * 作り話です。 * 完結保証つき。 * R18

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

処理中です...