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葛藤
しおりを挟む再び馬に乗り、ライアーロードまで戻ってきた。
運んだ大量の袋は、倉庫に保管してもらった。
この薬は早期の服用が必須だ。
早い段階でルードヴィッヒ三世に処方しなくてはならない。
考えながら執務室の扉を開けると、机に向かっているイクシオンが目に入った。
「殿下。只今戻りました」
「あぁ、無事に戻ったか我が妃よ。見送りは済んだか?」
この日はユニットの見送りもあり、イクシオンは城に留まっていた。
近頃はルードヴィッヒ三世のことでじっとしていられないのか、不安を紛らわすように書類仕事をしている。
「はい。無事にユニットさんを見送ってまいりました」
真面目に机に向かって手を動かしているが、諸手を挙げて喜べないのが現状だ。
「それはご苦労だったな」
顔を上げて一言話すと、また下を向いて書類と向かい合っている。
普段からこの能力を発揮してほしいものだが、状況が状況だけに指摘することもできない。
イクシオンの座っている机の手前まで来て足を止めた。
「殿下にお願いがございます」
「ん? お前が俺に願い事とは珍しい……なんだ?」
「――できるだけ早急に、私を王城へ連れて行ってくれませんか?」
書類に目を通して話を聞いていたイクシオンも、手を止めてオリビアに視線を移していた。
「王城に……? 何か用か?」
「国王陛下のご容態が思わしくないことは承知の上です。しかし私は一度も見舞うことができておりません。現状、近親者のみのご拝謁ということですので、是非私にも陛下を見舞う機会を与えていただきたいのです」
実際にルードヴィッヒ三世を見舞いたい気持ちも大いにある。
そして今の段階でルードヴィッヒ三世の病状がどの程度なのか確認もしたかった。
「この前の登城では、もう行きたくないと漏らしていなかったか?」
机の上で手を組んでいるイクシオンが、不思議そうに疑問を投げかけてきている。
「ユニットさんのことも陛下にご報告したいですし……殿下の異母兄様なのですから、私も義妹として直接お言葉を交わしたいです」
真っ直ぐにイクシオンの顔を見て話すが、実際の気持ちはどっちつかずで、まだ揺れていた。
だからこそルードヴィッヒ三世に会えば、答えが定まるかもしれないと思ったのだ。
「まぁ……いいだろう。明日辺り、また登城しようと思っていた。確認は取るが、お前ならば異母兄上もお許しになるだろう」
イクシオンもオリビアの勢いに押されたのか、少し考えてから答えを返している。
「もし、直接のご拝謁が無理でしたら、殿下のお話が終わるまで別室でお待ちしております。決して無理強いはいたしませんので、よろしくお願いいたします」
「わかった。早朝に立つから早めに支度をしておけよ」
「ありがとうございます」
承諾してもらったが、今でもまだ迷っている。
この選択が最良なのかどうか。
だがおそらく、ここで自分の知識を使わなければ、一生後悔するだろうと葛藤の末に何度も思った。
「あと、馬車ではなく、馬での移動になると思うが……まぁ、お前ならば問題ないだろう」
「はい。お任せください」
この選択が吉と出るか凶と出るのか――
オリビアには予想もできなかった。
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