【R18】復讐を決意した傷もの令嬢は、魅惑の王弟殿下に甘く翻弄される 〜契約結婚の条件に夜伽が含まれていたなんて聞いてません!〜

ウリ坊

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難しい現実

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 翌朝。
 イクシオンと並び、二人で馬を走らせた。途中休憩を挟みながら半日という最速で王城まで着いた。
 馬を王城の馬小屋へと繋ぎ、馬番に託した。

「始めの頃にも思ったが、お前は馬の扱いも長けている。ここまで俺についてこれるやつも珍しいんだぞ」

「移動手段のために昔から馬には乗っていたので慣れているだけです。たしか殿下は、幼い頃から馬術で優秀な成績を収めていましたよね?」

 馬小屋から二人並んで歩いて、庭園を通り城の中へと向かっている。
 外は快晴で天気も良く、散歩をするには最適の気候だった。

「知っているのか?」

「もちろんです。私が何も調べずに来たと思いますか?」

 調べたというよりは、前世でのゲームの知識だ。
 自分の記憶とメモを見ながら反復している。

「まぁ、お前ならばそれも不思議じゃないな。周到に調べて用意していそうだ」

「お褒めにあずかり光栄です」

 皮肉っぽく言われたが気にしなかった。
 今はそれどころではなかったからだ。

 名目上めいもくじょうはルードヴィッヒ三世の見舞いだが、オリビアの本来の目的はどうにか理由を探してメユールの実を食べてもらうことだった。

(メユールの実は直接食べるだけでもいいらしいけど、やはり乾燥させてから他の薬草と混ぜたほうがさらに病状を抑えることができる。本来はアフロディーテが開発する薬だから、彼女が特効薬を作ることが最善だけど……)

 自分が出しゃばりたくはないが、現段階でのアフロディーテはこの実がルードヴィッヒ三世の病に効くことを知らない。
 遠い未来でルードヴィッヒ三世と同じ症状をわずらっていた患者が、このメユールの実を食べて少し症状が改善していったことから発見されるからだ。

 こっそり忍ばせて持ち歩き、どうにかアフロディーテが気づいてくれないか機会を伺おうとしていたが、現実的になかなか難しい状況だった。
 自分が持ち込んだものだと悟られたくないので、説明できないことが酷くもどかしい。
 オリビアとしては、これ以上ルードヴィッヒ三世の記憶に強く留まりたくはなかった。
 
(ただ……メユールの実をどうすればアフロディーテが特効薬に使えると気づかせることができるかな? 本来なら直接陛下に食べてもらって、症状の軽減に繋がればわかりやすいけど……現実的には難しすぎる)

 何より、国王陛下が口にするものにはとても厳しい制限がかかる。
 しかも今のルードヴィッヒ三世は病状が悪化してきている。
 とくに食べ物には気を使っているはずだ。
 
「どうした? 難しい顔をして」

 隣で歩いていたイクシオンがオリビアの様子に気づいたのか、声をかけてきた。
 
「えっ! あ、いえ……なんでもございません」

 驚いた拍子に、手に持っていたメユールの実が入った袋を下に落としてしまった。

「なんだ? この真っ黒な粒は?」

 イクシオンは弾みで地面に落ちてしまった黒い実を一粒つまんで拾うと、自分の目の前に掲げて見ていた。

「っ! これは私の……こ、好物なんです」

 イクシオンに悟られたくなくて、咄嗟とっさに苦しい嘘をついて誤魔化した。
 下に落ちた袋を慌てて拾い、すぐに後ろに隠す。

「こんな黒々とした実がお前の好物なのか? こんな場所にまで持ってくるほど気に入っているとは、ずいぶんだなぁ」

 イクシオンが指に持っていた実もサッと奪い返して、何事もなかったように袋に戻して取りつくろった。

「好みなど人それぞれです。それより、陛下にお会いする際に気をつけなければならないことを教えてください」

「あぁ、そうだな――」

 イクシオンが細々と説明してくれる。
 話を聞きながら、イクシオンの興味が別に移ってくれたことにホッとしていた。


 
 通されたのはルードヴィッヒ三世が療養している寝室だった。
 ここからは王族でなければ入ることは許されていない。
 イクシオンがいるからこそ、オリビアも王の寝所へ足を踏み入れることが許される。

「おぉ……イクシオンよ。また、来てくれたのだな……。それと、そなたは、オリビアか……」

 ベッドの上で起き上がったルードヴィッヒ三世の顔色は悪い。
 症状が進行しているせいか、起きていることはおろか話すことも辛そうだった。

「国王陛下にご挨拶申し上げます」

「堅苦しい挨拶は、抜きにして、いい……。そなたは、余の義妹、ではないか……」
 
「ありがたきお言葉。至極光栄に存じます」

「息災の、ようだな。そなたが、イクシオンを支えていることが、余の心に安定を、もたらしてくれて、いるぞ」

 声に張りもなくとても弱々しい。
 言葉を区切って話さないと辛いようで、聞いているこちらのほうも痛々しい気持ちになってくる。

「私など、まだまだ若輩者でございます。お二人はご兄弟なのですから、殿下には陛下の存在が必要不可欠なのです。私の存在などほんの僅かで微々たるものにしかすぎません」

「お前は、また余計なことばかり言って!」

 イクシオンがムッとした顔で言葉を返していると、急に扉からノックが鳴り響いた。

「失礼いたします。イクシオン王弟殿下、お伝えしたいことがございます!」

「俺に? 誰からだ」

 いきなり自分の名前を上げられ、イクシオンは扉を振り向いて聞き返していた。

「はい。ロイズ筆頭補佐官からのご伝言が届いております」

「ロイズが……? 異母兄上、申し訳ありません。少し席を外します」

「あぁ……、ロイズか。珍しいな……」

「私が代わりにお聞きいたしますか?」

「いや。俺を指名しているのだから、行ってくる」

「はい」

 イクシオンは立ち上がると急ぎ足で歩き、扉の向こうへ消えてしまった。
 
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