【R18】復讐を決意した傷もの令嬢は、魅惑の王弟殿下に甘く翻弄される 〜契約結婚の条件に夜伽が含まれていたなんて聞いてません!〜

ウリ坊

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メユールの実

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 二人きりになり、オリビアは絶好の機会だと思い、持ってきた袋を緊張しながら取り出した。

「あの……陛下、よろしければこちらを食してみてはいかがでしょうか」

 袋を開けると中身を出し、一粒つまむと自分の手のひらに乗せて、ルードヴィッヒ三世の前へと出した。

「これは、なんの実だ……? こんな、黒い実は、初めて見るぞ……」

 震える手のひらに乗せられたメユールの実にルードヴィッヒ三世の視線が集中している。
 初めて見たものだからか、不思議そうにオリビアに問いかけている。

「私が暮らしていた領地でも取り引きされているのですが、ディルーカ国で取れるメユールと呼ばれる実なのです。こちらはその実を干したもので、僅かな苦味と甘酸っぱさが特徴です」

 ルードヴィッヒ三世の興味を引けたことをチャンスだと思い、慎重に話を進めていく。

「以前、とある男性と出会いました。その男性はある朝起きると、手足にしびれが残る日が続いたそうです。その症状が治まる間もなく、今度は日中に酷い倦怠感、無気力感に襲われていきました。そしてさらには体の至るところに刺すような痛みが現れ、徐々に筋力が衰えてむしばまれていく……という、原因不明の病に見舞われていたのです」

 オリビアの話を聞きながら、ルードヴィッヒ三世の表情が見る間に強張っていた。
 一部の者しか知らないが、この症状がまさに今、ルードヴィッヒ三世が患っている症状だった。
 
「それは……まことか……?」

「はい。しかし、偶然にもこの実を食べるようになると、その症状が徐々に緩和していったらしいのです」

 ルードヴィッヒ三世に向かい微笑んだ。この話自体は、ゲームでのアフロディーテが偶然出会った男性の体験談だ。

「な、なんとっ!」

「完治はできませんが、数年後に再び出会ったその男性は、その実を欠かさず食べることで、今では普通に生活できています」

 現段階のルードヴィッヒ三世の症状でどこまで改善するかわからないが、それでも遅くはないだろう。

「先日、ユニットさんを港に見送りに行った際、たまたま漁港の露店で売られていたこの実を見てそのことを思い出しました。陛下の症状の改善に繋がるかは分かりませんが、試してみてる価値はあるかと思い、持参してまいりました」

「――うむ。そなたの、言うように……試してみてる価値は、大いにありそうだ……」

「えぇ。よく洗ってより良いものを選別して乾燥させておきましたので、是非お試しください」

 ルードヴィッヒ三世がオリビアの手から一粒黒い実を取った。
 
「中の種は取り除いてありますので、そのまま咀嚼そしゃくしていただいて大丈夫です。……失礼いたします」

 そう言って無造作に一粒黒い実を掴み、口に放り込んだ。
 毒見もしなくてはルードヴィッヒ三世は食べられないので、あえて自分が先に食べた。

「少し苦味もありますが、甘酸っぱくて食べやすいです」

 オリビアの様子を見て、ルードヴィッヒ三世も口に入れてゆっくりと咀嚼している。
 その様子を見てオリビアもホッとした。これで症状も徐々に改善され、病の進行を遅らせることができるだろう。

「そなたの、言う通り、甘酸っぱいな……。だが、こんなもので、この症状が、改善するとは、思えないが……」

 ルードヴィッヒ三世の言い分はもっともだろう。
 アフロディーテもその男性と出会わなければ、この実が病に効くとは思いもしなかった。
 だが早ければ早いほど効果は高い。
 今日から一粒ずつでもいいから食べてほしかった。

「できるだけ毎日食べていただくことをお勧めいたします。私は医師ではないので調合まではできませんが、もし陛下の御身に改善の兆しが見られるのでしたら、この実を使って調薬されてみてもよろしいかと思います」

 ここまですれば、あとはアフロディーテが特効薬を作ってくれるだろう。
 元々は彼女が見つけたことで発見された薬だ。
 手柄を奪うようで心苦しいが、このまま放っておけばルードヴィッヒ三世は帰らぬ人となってしまう。

「昔……幼少期に食べた、木の実を思い出す……野山を、駆け回り、よく、その辺の果物を、採って、食べた、ものだ……」

 ルードヴィッヒ三世は苦しそうな顔にしわを刻んで笑うと、また袋から実を何粒か摘んで口に放った。

「必ずまた同じことができるようになります。陛下には常にご健康でいていただかねば困りますから。あと、恐縮ではございますが……このことは殿下にはご内密にお願いできますか?」

「イクシオンには、話して、いないのか……?」

「はい。私が陛下に得体のしれないものを食べさせたと知ったら、どのようなお叱りを受けるかわかりませんので」

 こっそりと話すオリビアに、ルードヴィッヒ三世はさらに深く笑みを刻んでいた。

「はははっ……わかった、わかった。イクシオンは随分と、そなたに心を、開いている、ようだな……」

 辛そうだが金色の瞳を細めて笑った顔は、どことなくイクシオンに似ていると感じた。

「……とんでも、ございません。殿下は陛下のこととなると途端に厳しくなるのです。何卒よろしくお願いいたします」

 座ったまま一礼し、オリビアもルードヴィッヒ三世に向かい微笑んだ。

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