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自分の心
しおりを挟む走って部屋に戻ったオリビアは勢いのままベッドに倒れ込んだ。
実はオリビアもイクシオンに言っていないことがある。
それは元婚約者であったジャンとの挙式の後から、精神的なショックで月のものが来なくなってしまったことだ。
医学書を読んだが、薬での改善が求められ、その間は妊娠しづらくなると記述されていた。
しかし自分はもう結婚が望めないとわかり、面倒なことからも解放されたとあえて放置していた。
(イクシオンは避妊薬も飲まず、故意に中に出して私を抱いていた。私が妊娠しても構わなかったということなの? 他の女性にはあんなに徹底的に予防して、監視までつけていたのに……)
そんなことになればオリビアはここから離れることができなくなる。
イクシオンが認知するのか分からないが、自分の子となれば無視できないだろう。
『それがどういう意味かわかるか?』
パッと最後に言われた言葉が頭に浮かんだ。
(希望的観測を言うなら、私を今の関係のまま自分に縛り付けたかった、ってことかな……けど、私はイクシオンの好みのタイプじゃないから、その可能性はないな。もしくは、私との子供ならできてもよかったとか? でも、そうすれば私と離縁できなくなってしまう。たしか王族は、子ができた妃とは簡単に離縁できない決まりがあったと思う)
様々な考えが頭の中でぐるぐると回るが、これという答えは出てこなかった。
「こんなの、ダメだっ!」
もやもやした気持ちのまま建国祭を迎えると気が散ってしまい、復讐に集中できない。
当日には万全の状態で臨みたいのに、イクシオンの言った言葉が気になって仕方がない。
ベッドから起き上がると、部屋から出た。
◇◆◇
イクシオンの部屋の前まで来ると扉を軽くノックする。
「殿下、私です」
政務の影響か、近頃は簡潔にこの言葉しか言わなくなった。
「オリビアか……? 入れ」
扉の前で待っていると、すぐに返事が返り、ゆっくりとドアノブを回した。
イクシオンは部屋着に着替えており、相変わらず胸元が大きく開いた扇情的な格好に、視線を横に逸らした。
「珍しいこともあるものだ。お前が自ら俺の部屋を訪ねて来るとは……」
近づいてきたイクシオンに、怯むことなく今度は真っ直ぐ見上げた。
「殿下に、お聞きしたいことがございます」
「さっきは怒ったように飛び出していったのにな」
咎めるように問われ、オリビアは視線を横に逸らした。
「怒っていたわけではありません」
短く返事を返し、また視線を戻してイクシオンを真っ直ぐに見つめた。
「建国祭ももう間近です。私はこの日の為に様々な準備をしてきました。なのにここにきて、他のことに気を取られて自分の決意を鈍らせたくないのですっ」
「――気を取られる、か……」
イクシオンがオリビアの言葉を繰り返すようにポツリと呟いている。
「殿下が先ほど言っていた言葉です。なぜ避妊もせずに私を抱いていたのですか?」
「知りたくなったのか?」
オリビアに迫るように、美しい顔をさらに近くへと寄せている。
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