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別れ
求めるまま行為を重ねたあと、オリビアは疲労困憊でベッドでぐったりと横になっていた。
イクシオンは同じく横になると、腕を伸ばしてオリビアの体を抱き寄せた。
素肌に感じる温もりがオリビアを包み、心地良さに無意識に頬を胸元に擦り寄せた。
「どうだ? 落ち着いたか?」
「……はい」
「満足したか?」
「……はい」
「悦かったか?」
「……はい」
心身の疲労感で、イクシオンの腕の中で何も考えずにぼぅっと返事を返していた。
「俺のことが好きか?」
「……は、ぃ?」
そのままの勢いでつい肯定しそうになったが、最後の問いかけに途中で我に返り、疑問の声を上げる。
「どさくさに紛れて変なこと言わないでくださいっ」
胸元から顔を上げて目の前の男にすぐ抗議する。
「なんだ、もう元に戻ってしまったのか」
オリビアを抱きしめ、イクシオンは笑って残念そうな声を漏らしていた。
オリビア自身錯乱していたこともあり、あのままイクシオンに抱いてもらわなければ精神がおかしくなってしまいそうだった。
「取り乱してしまい……申し訳ございません」
イクシオンの腕に抱かれ、呟くように先ほどの自分の行動を恥じた。
我を忘れるという言葉が一番しっくりくるくらいイクシオンに夢中になり、自分というものを見落としてしまった。
「お前はそのくらいのほうが可愛げがあっていいぞ」
「……もう二度としません」
「クククッ、つまらんな」
楽しげに笑っているイクシオンの顔を見上げるように、抱かれていた胸から顔を上げた。
「殿下、ありがとうございました」
「……何に対しての礼だ?」
「ジャンの……元婚約者と、その家族に対し、然るべき制裁を加えていただいたことに対してです」
「――あぁ、そのことか」
一瞬イクシオンの顔が強張ったように見えたが、オリビアの話を聞きながら表情が和らいでいった。
「私がすべきことだったのですが、殿下にすべてを委ねてしまいました」
視線を胸元に落として、反省の弁の述べている。
本来ならオリビア一人でジャンに復讐しようと思っていたのだが、イクシオンの華麗な演技に見惚れている内に終わってしまった。
「お前のこれまでの努力に対する対価だ。俺としてはあの程度じゃ足りないくらいだと思っているが、あれで少しはお前の気も晴れただろう」
どうしてこの人はいつも、オリビアの予想もできないような心に響く言葉をさらっと言ってしまえるのだろう。
「……十分すぎです」
「お前は欲がないな。まぁ、あいつらの今後の処遇に関しては、俺に任せておけ。奴らに相応しい処分を下しておいてやる」
見上げた先のイクシオンは笑っていたが、どこか迫力があり怖さすら感じた。
「しかし、殿下にばかりお任せしていては……」
「気にするな」
「では、お願いいたします。ありがとうございますっ」
安心した途端、猛烈な眠気がオリビアを襲う。
思い切り泣いたことと、一連の事件と、情事の疲労で目を開けていることができない。
「殿下……少し、疲れました。先に、休んでもよろしい、です、か……?」
「何も考えずに寝てしまえ。側にいてやる」
「はい。おやすみ、な、さい……」
自分とは違う大きな手で髪を撫でられるとさらに眠気を誘い、瞼にキスも落とされると、今までに感じたことがないほどの幸福感で満たされた。
イクシオンに抱きしめられたまま、オリビアは安心して眠りについた。
翌朝。
起きると辺りは夜明け前で、空は薄っすらと白んでいた。
隣ではイクシオンが裸で寝ており、オリビアの体に腕を巻きつけていた。
頬にはいつの間にか湿布が貼られ、治療が施されていた。
(イクシオンがやってくれたのか……こんなことされると、また泣きたくなってくる……)
寝ているイクシオンの頬をそっと撫でた。
寝起きが悪いからか、一度寝てしまうと中々起きないイクシオンがこんな時はありがたかった。
昨日は自分の心の赴くままにイクシオンを求めた。
いつも言えなかった言葉を隠すこともせず、ありのまま抱いてもらえた。
この先何度夜を迎えても、この日を超えることは永遠にないのだろう。
だからなのか、寂しさはあるが後悔はそこまでなかった。
「殿下……これまで、ありがとうございました」
小声で呟いた言葉は、寝ているイクシオンには届いていない。
「貴方が……貴方のことが、とても好きでした。このまま、無様に縋って……今の関係を続けていきたいと思うくらい」
こんな時にしか自分の本音を言うことができないが、今この場で自分の想いを置いていこうと考えた。
「ですが、もうお別れです――」
静かに眠るイクシオンの唇にそっとキスをすると、起こさないよう静かにベッドから降りた。
城の侍女に頼み動きやすい服装を用意してもらうと身仕度を整え始めた。
馬小屋まで降りてきたオリビアは乗ってきた馬を引くと、重い体で乗り上げ城門までやってきた。
幸いにも出入りの貴族が多いからか、オリビアも難なく王城から出ることができた。
イクシオンは同じく横になると、腕を伸ばしてオリビアの体を抱き寄せた。
素肌に感じる温もりがオリビアを包み、心地良さに無意識に頬を胸元に擦り寄せた。
「どうだ? 落ち着いたか?」
「……はい」
「満足したか?」
「……はい」
「悦かったか?」
「……はい」
心身の疲労感で、イクシオンの腕の中で何も考えずにぼぅっと返事を返していた。
「俺のことが好きか?」
「……は、ぃ?」
そのままの勢いでつい肯定しそうになったが、最後の問いかけに途中で我に返り、疑問の声を上げる。
「どさくさに紛れて変なこと言わないでくださいっ」
胸元から顔を上げて目の前の男にすぐ抗議する。
「なんだ、もう元に戻ってしまったのか」
オリビアを抱きしめ、イクシオンは笑って残念そうな声を漏らしていた。
オリビア自身錯乱していたこともあり、あのままイクシオンに抱いてもらわなければ精神がおかしくなってしまいそうだった。
「取り乱してしまい……申し訳ございません」
イクシオンの腕に抱かれ、呟くように先ほどの自分の行動を恥じた。
我を忘れるという言葉が一番しっくりくるくらいイクシオンに夢中になり、自分というものを見落としてしまった。
「お前はそのくらいのほうが可愛げがあっていいぞ」
「……もう二度としません」
「クククッ、つまらんな」
楽しげに笑っているイクシオンの顔を見上げるように、抱かれていた胸から顔を上げた。
「殿下、ありがとうございました」
「……何に対しての礼だ?」
「ジャンの……元婚約者と、その家族に対し、然るべき制裁を加えていただいたことに対してです」
「――あぁ、そのことか」
一瞬イクシオンの顔が強張ったように見えたが、オリビアの話を聞きながら表情が和らいでいった。
「私がすべきことだったのですが、殿下にすべてを委ねてしまいました」
視線を胸元に落として、反省の弁の述べている。
本来ならオリビア一人でジャンに復讐しようと思っていたのだが、イクシオンの華麗な演技に見惚れている内に終わってしまった。
「お前のこれまでの努力に対する対価だ。俺としてはあの程度じゃ足りないくらいだと思っているが、あれで少しはお前の気も晴れただろう」
どうしてこの人はいつも、オリビアの予想もできないような心に響く言葉をさらっと言ってしまえるのだろう。
「……十分すぎです」
「お前は欲がないな。まぁ、あいつらの今後の処遇に関しては、俺に任せておけ。奴らに相応しい処分を下しておいてやる」
見上げた先のイクシオンは笑っていたが、どこか迫力があり怖さすら感じた。
「しかし、殿下にばかりお任せしていては……」
「気にするな」
「では、お願いいたします。ありがとうございますっ」
安心した途端、猛烈な眠気がオリビアを襲う。
思い切り泣いたことと、一連の事件と、情事の疲労で目を開けていることができない。
「殿下……少し、疲れました。先に、休んでもよろしい、です、か……?」
「何も考えずに寝てしまえ。側にいてやる」
「はい。おやすみ、な、さい……」
自分とは違う大きな手で髪を撫でられるとさらに眠気を誘い、瞼にキスも落とされると、今までに感じたことがないほどの幸福感で満たされた。
イクシオンに抱きしめられたまま、オリビアは安心して眠りについた。
翌朝。
起きると辺りは夜明け前で、空は薄っすらと白んでいた。
隣ではイクシオンが裸で寝ており、オリビアの体に腕を巻きつけていた。
頬にはいつの間にか湿布が貼られ、治療が施されていた。
(イクシオンがやってくれたのか……こんなことされると、また泣きたくなってくる……)
寝ているイクシオンの頬をそっと撫でた。
寝起きが悪いからか、一度寝てしまうと中々起きないイクシオンがこんな時はありがたかった。
昨日は自分の心の赴くままにイクシオンを求めた。
いつも言えなかった言葉を隠すこともせず、ありのまま抱いてもらえた。
この先何度夜を迎えても、この日を超えることは永遠にないのだろう。
だからなのか、寂しさはあるが後悔はそこまでなかった。
「殿下……これまで、ありがとうございました」
小声で呟いた言葉は、寝ているイクシオンには届いていない。
「貴方が……貴方のことが、とても好きでした。このまま、無様に縋って……今の関係を続けていきたいと思うくらい」
こんな時にしか自分の本音を言うことができないが、今この場で自分の想いを置いていこうと考えた。
「ですが、もうお別れです――」
静かに眠るイクシオンの唇にそっとキスをすると、起こさないよう静かにベッドから降りた。
城の侍女に頼み動きやすい服装を用意してもらうと身仕度を整え始めた。
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