【R18】復讐を決意した傷もの令嬢は、魅惑の王弟殿下に甘く翻弄される 〜契約結婚の条件に夜伽が含まれていたなんて聞いてません!〜

ウリ坊

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退屈しない日々 (イクシオン視点)

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 オリビアと共に城に見舞いに行った翌日から、アフロディーテが調薬したという薬が異母兄の症状を飛躍的に改善させた。

 あれだけ重苦しい雰囲気だった城内は明るく息を吹き返し、城の皆が国王である異母兄の回復を笑顔で喜んでいた。
 
 異母兄の見舞いから自領へ戻ろうとしたイクシオンの目の前にある光景が飛び込んでくる。
 
 その立役者であるアフロディーテは、控え目ながら皆からの賛辞の声を嬉しそうに受けていた。
 隣で肩を抱いて寄り添っていた第一王子のメルディオは、アフロディーテと共に声をかけられ、自らのことのように喜んでいる。

 その近くを通り過ぎようとするイクシオンに、メルディオが勝ち誇ったような視線を向けてきていた。

(いつまで経っても幼稚なやつだな。まぁ、前までの俺なら少なからず悔しさや劣等感を感じていたが……今では不思議なほどなんとも思わないな)

 そして一瞥もすることなく通り過ぎた。

 この二人のことよりも、早く自分の城へ戻りたいという気持ちのほうがイクシオンの心を大きく占めている。
 
 異母兄は日に日に健康を取り戻し、とこに伏せることもなくなった。

 イクシオンの内にわだかまっていた不安が払拭ふっしょくされると、安心感と共にまたいつも通りのだらけた日々を送るようになっていた。

 ――そんなある日。

「殿下、お話があります」

「ん? なんだ?」

昨日さくじつ、町を巡回していた際に、領地の住人たちから川に別の橋を架けてほしいとの要望を受けました」

 いつも通り机の上でだらけていたイクシオンに、オリビアが机の前で淡々と話している。

「どこの町だ?」

「領地の東側にある小さな集落です」

 顔を上げたイクシオンを、オリビアは空色の瞳で真っ直ぐに見ていた。

「川沿いの町の橋は、適当な場所に何ヶ所か設けたと思うが? なぁ、ロイズ」

「えぇ、そうです。だいたい一つの河川につき、ある程度の間隔を空けて設置していると思いますよ?」

 興味も沸かない話題で肘をついてロイズに話を振り、ロイズもとくに問題はないだろうという感じで返事を返していた。

「数日前の嵐でその橋の一部が壊れてしまったそうです。住人たちによると、その橋の位置が自分たちの居住地から離れていたそうで、新たに橋を架けるなら別の場所にしてほしいという訴えを受けました」

 そしてまたその場であったであろうやり取りをオリビアが淡々と話し始めた。

「しかし、元々あった橋もその集落の代表者から話を聞いて設置したものです。その意見は、一部の住人たちからの偏った意見では……」

「個人的な意見ばかり聞いているとキリがないぞ」

 イクシオンはそう言って短く息を吐いた。
 そのような意見書は山ほどきている。
 オリビアもロイズと意見書の仕分けや整理もしているので、わざわざ言うことでもないと問いかける。
 
「そうおっしゃられると思い、実際の現場に私も行ってみましたが……確かに元々橋の架かっていた場所は、集落居住地の中心部からかなり離れた遠い場所にありました」

 話を続けているオリビアの表情がどんどん険しくなり、次第に声も低くなっていく。

「そしてよくよく話を聞くと、どうやらその集落の代表者はかなりの偏屈者で、外れにある自分の家から一番近い場所に橋を架けるよう要請したそうです。住人たちは自分たちの意見が反映されていないと訴えていたそうですが、まったく取り合ってもらえず……これまで町へ行くのにかなり遠回りをして相当苦労していたと泣きつかれました」

 オリビアは相変わらず淡々と説明しているが、徐々に目も据わりだし眉間に皺も寄り始めている。

「ということですので、この要望書と新たな橋を設置する承諾書に印をお願いいたします。これをあのムカつく代表者の目の前に突きつけてやりますからっ」

 バンッといささか乱暴に机の上に書類が置かれ、肘をついて聞いていたイクシオンも思わず顔を上げた。
 オリビアの様子を見るに、どうやら集落の代表者と一悶着あったようだ。
  
「我が妃はずいぶんご立腹のようだな」

「……えぇ。前々から気にはなっていたのです。意見書に次いで嘆願書が何度も出されていたので、現地に行ってみたら案の定予想していた通りでしたから」

 相当怒っているのか怒りが収まらないのか、オリビアの表情はまだ険しかった。
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