57 / 99
妻を愛でる方法 (イクシオン視点)
しおりを挟むイクシオンはこのオリビアの嫌がる顔を見ることが非常に楽しみだった。
いつどこで出されるか、どうすればオリビアがこの反応をしてくれるか、常に機会を窺っていた。
オリビアは気を取り直したようにコホンと咳払いすると、真顔になってイクシオンと向き合った。
「ありがたいお言葉ですが……殿下まで出向いてしまうと、返って住人たちが萎縮してしまうので私一人で大丈夫です」
やんわりと丁寧に言葉を返しているが、要するに邪魔だからついてくるなと言っている。
オリビアから返される言葉はいつも自分の意表を突き、聞いていてとても面白く心が浮き立ってくる。
「クククッ、我が妃がここまで領地の為に心を砕いているんだ。夫である俺が何もしないわけにはいかないだろう?」
楽しさを隠しきれず、笑いながら自分の顔をオリビアのすぐ目の前まで近づけた。
一瞬怯んだオリビアは一歩後退したが、すぐに負けじと強い視線をイクシオンへ向けた。
「っ! では、殿下はそこに溜まっております別の書類の処理をお願いいたします」
そこと呼ばれたオリビアが指さした先には、机に山積みになった書類の束があった。
「殿下があの書類をすべて処理してくだされば領地の安定にも繋がり、率いては私の心の平穏にも繋がることでしょう」
「ほぅ……? そうくるか」
イクシオンはこのオリビアの返しがとても楽しくて面白くて仕方がなかった。
これまでの女性ならば、イクシオンが少し笑いかけるだけですぐに落ちていた。
こんな風に一緒に出かけられるとわかれば、満面の笑みを浮かべて喜ぶことは間違いないだろう。
しかしオリビアにその考えは通用しない。普通の女性が喜びそうなことをすると、眉間に皺を寄せて嫌そうな顔をする。
それがまたイクシオンの興味をそそり、さらにオリビアを煽る要因となっていた。
それを知ってか知らずか、オリビアも極力丁寧に言葉を返し断っているのだが、言葉や態度の端々に気持ちが現れてしまっている。
そして最終的に自分のことで怒り出すオリビアを、イクシオンはどうしても見たいのだ。
「この書類さえあれば相手を黙らせることができます。非常時でもないのに、殿下に来ていただく必要はないと言っているだけですっ」
ついてくるなと言わんばかりに、キッと下から睨んでくるオリビアがとにかく可愛い。
まるで毛を逆立てて威嚇してくる小動物のようで、どうにか手懐けたくてうずうずと体が高ぶってくる。
ここまでイクシオンに冷たい態度を見せているオリビアだが、快楽にはとても弱かった。
閨や色事の際はすぐに甘い声を上げて快楽に染まり、悪態をつきながらもイクシオンを求めるように艶やかに変貌する。
そしてこの落差が、イクシオンの知らなかった征服欲を掻き立てているのだ。
「護衛も付けずに一人で外出することなど許可できないな。お前は侍女も付けたがらないのだから、やはり俺が行くしかないだろう?」
「私は大体いつも一人で外出しています。今さらそのようなことを言われても困ります。殿下はお仕事が山積みですので、ロイズさんか他の騎士にでもお願いいたしますから結構です」
オリビアの言っていることに間違いはなく、好きなようにさせていた。
ただ、嫌がる顔を見るのは楽しいが、他の男を引き合いに自分のことをここまで拒絶されることは気に食わない。
「……俺が一緒に行くと言っているのに、他の男を所望するとは悪い妻だ」
少し声を低くし耳元で囁くとオリビアはビクッと反応し、明らかな動揺を見せていた。
「ど、どうしてそうなるのですか?!」
「お前には、誰が自分の夫かわからせる必要があるな」
オリビアの太ももに腕を回し、荷物のように持ち上げた。
「ちょっ……! 殿下っ?!」
急に持ち上げられたからか、オリビアは驚いた様子でイクシオンの肩を掴んでいる。
「言葉で言ってもわからないようだから、体に教え込むしかないなぁ? 我が妃よ」
「お、お待ちくださいっ……わかりました! もう一緒に行ってもらって結構ですから! 降ろしてくださいっ!」
じたばたしながら、必死で暴れて訴えているオリビアが面白くて可愛くてたまらない。
無理やり理由をこじつけて、こうしてベッドへ向かう口実を作っている。
そうでもしないとオリビアはすぐに自分から逃げていってしまう。
「部屋に着くまで少し待ってろ。そしたらすぐにでも降ろしてやるぞ。ベッドの上にな……」
「~っ! い、いりませんっ!!」
真っ赤になったオリビアの叫び声を聞きながら、イクシオンは上機嫌で執務室から部屋へと移動するのだった。
503
あなたにおすすめの小説
愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください
無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――
傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う
ノルジャン
恋愛
「堕ろせ。子どもはまた出来る」夫ランドルフに不貞を疑われたジュリア。誤解を解こうとランドルフを追いかけたところ、階段から転げ落ちてしまった。流産したと勘違いしたランドルフは「よかったじゃないか」と言い放った。ショックを受けたジュリアは、ランドルフの子どもを身籠ったまま彼の元を去ることに。昔お世話になった学校の先生、ケビンの元を訪ね、彼の支えの下で無事に子どもが生まれた。だがそんな中、夫ランドルフが現れて――?
エブリスタ、ムーンライトノベルズにて投稿したものを加筆改稿しております。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
【完結】体目的でもいいですか?
ユユ
恋愛
王太子殿下の婚約者候補だったルーナは
冤罪をかけられて断罪された。
顔に火傷を負った狂乱の戦士に
嫁がされることになった。
ルーナは内向的な令嬢だった。
冤罪という声も届かず罪人のように嫁ぎ先へ。
だが、護送中に巨大な熊に襲われ 馬車が暴走。
ルーナは瀕死の重症を負った。
というか一度死んだ。
神の悪戯か、日本で死んだ私がルーナとなって蘇った。
* 作り話です
* 完結保証付きです
* R18
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】初恋の彼に 身代わりの妻に選ばれました
ユユ
恋愛
婚姻4年。夫が他界した。
夫は婚約前から病弱だった。
王妃様は、愛する息子である第三王子の婚約者に
私を指名した。
本当は私にはお慕いする人がいた。
だけど平凡な子爵家の令嬢の私にとって
彼は高嶺の花。
しかも王家からの打診を断る自由などなかった。
実家に戻ると、高嶺の花の彼の妻にと縁談が…。
* 作り話です。
* 完結保証つき。
* R18
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる