薔薇の呪印 ~逃亡先の王子様になぜか迫られてます

ウリ坊

文字の大きさ
18 / 35

18 

しおりを挟む
 

 俯いて黙ってしまったティアーナに、アーサーはギュッと抱き寄せる。

「ごめん、もっと君の事が知りたいんだ」

 アーサーの芳香が強く香り、胸がドキドキする。



「覚えてないのかもしれないけど、幼い頃約束したんだ……君の大切な『はじめて』を貰うって」



(!!)


 その言葉に、ビクッと身体が反応する。

(どうして、それを知っているの!?『はじめて』って、やはりアーサー様の捜している方は、私なの?)

 確かに幼い頃、王妃である母に『はじめて』はとてもとても大事なモノだから、心から愛してくれる大好きな人じゃないとあげてはいけない。と習った。

 言葉の意味自体良く解らなくて、不思議に思っていたが、今はもうそれも理解している。

「その様子だと、心当たりがありそうだね」

 頭の上から嬉しそうな声が聞こえる。

 確かに心当たりはある。と、いうか、幼い頃の自分は本当にそんなことを約束したのだろうか。
 そんなに会ったこともないだろう人間に、『はじめて』をあげる約束をするなんて。


「ねぇ、『はじめて』って、何?」

 ティアーナの頬がカァーと赤くなる。 
 
 そんなの恥ずかしくて説明出来ない。
 子供の頃の口約束なんて無効だろう。
 そう思うが、アーサーはその約束をずっと覚えていてくれて、こんなに必死に捜してくれていた。
 自分は覚えていないのに。
 それを考えると、無下に出来ない。

「ティナ?」

 誤魔化そうにも、考えが纏まらない。まさか、その話が出てくるなんて思わなかった。

 
「恐らく…ですが、私かもしれません……」

「──!本当に!やっぱりティナだったんだ」

 アーサーが嬉しそうに身体を離し、ティアーナの顔を見てくる。
 
「あの、あくまで恐らく、です。少し考えるお時間をいただいても宜しいですか?急なことで……もう少し考えれば思い出せるかもしれません………」

 嬉しそうにしているアーサーには悪いが、ちょっと一人になりたい。
 
 ティアーナは頭を抱え、アーサーに訴える。

「あぁ、そうだね。色々と言い過ぎたし、君にも考える時間が必要かな?」
 
「……はい。申し訳ございません」

「いや、謝ることはないよ。じゃあ、とりあえずこの書類にだけサインしてもらえるかな?」

 アーサーはベッドから立ち上がると、書類を何枚か取り出しペンを差し出す。

「あ、はい」

 ティアーナも立ち上がり、机に向かい、書類を眺めている。
 
 上にあった書類を読んでいるところで、ドアがノックされる。

「おい、アーサー終わったか?そろそろ時間だ」

 稽古を終えたギルバートとアイシャが戻って来てしまった。

「え?もうそんな時間?ごめん、ティナ。サインだけさっと書いて貰えるかな?内容は確認してあるから大丈夫だよ」

「えっ…と、ですが……」

 この手の書類は細かい所までキチンと確認したいのだが、アーサーにそういわれてしまうと頷くしかない。

「このあと、所用があってね。またしばらくの間、ここには来れなくなるから……」

 王太子として忙しいアーサーを、煩わせているのは確かだ。
 
「わかりました」

 ティアーナは何枚かの書類に自分の名前を書いていく。

 書き終えるとアーサーに手渡す。

「うん、ありがとう!ごめんね、急がせて」

「いえ、とんでもございません。こちらがご迷惑をかけているのですから」

 アーサーは書類をクルクル巻いて紐で留めると、懐にしまう。

 部屋を開けると、ギルバートと疲れ果てているアイシャが立っていた。

「急ぐぞ。奴らうるさいからな」
「そうだね。ティナ、見送りはいらないよ。また何か有るときはそこの彼女に言付けするから」
「畏まりました。師匠、ありがとうございました!」

 アーサー達はそう言って足早に去って行った。

 残された二人は後ろ姿を見送り、ティアーナはソッとため息をつく。

「お嬢様?どうかされましたか?」

 いち早く気づいたアイシャは、気遣わしげに訪ねる。
 聞かれたらまずいので、先ほどの個室に戻り、二人で椅子に座った。



「アイシャ……やっぱり、アーサー様の捜しているお相手は、私なのかもしれないわ」

 ティアーナは浮かない顔で、自分の握った手を見つめている。

「えぇ、私もそう思います。師匠から話を聞きましたが、かなり可能性は高いと思いますよ」

 では何故、ティアーナは覚えていないのか。

 それに関して、一つだけ、気になることがある。

「『はじめて』をアーサー様にあげると言っていたらしいの。たぶんそれは、記憶が戻る前の私、だと思う」

「と言いますと、前世を思い出す前に約束したと?」

「えぇ。私が前世を思い出した時、その前後の記憶が曖昧なのよ。その後、ティアーナとしての記憶と、前の自分の記憶が馴染んでいったんだけど、ちょうど思い出した年齢とも重なるから、たぶん……」

「では、どうされますか?もし、そのお相手がティアーナ様だとして、アーサー様の元にお輿入れなさいますか?」
 
 ティアーナは目を閉じ、考える。
 正直アーサーの事はまだ良くわからない。
 好きか嫌いかで言われれば、たぶん好きな方に気持ちは傾いている。

 立場的にも問題はない。貧窮しているからと言っても王女であることには変わりない。
 自分としても、あんな年上の好色な公爵に嫁ぐよりはアーサーの方が遥かにマシだ。というか比べ物にならない。
 
 ただ問題なのはこの呪いだ。
 
 もし自分に子が授からなかったら、王子を身籠らなかったら……そんな不安が尽きない。


 アーサーがティアーナと契りを交わしてしまえば、アーサーは他の妃と子を成すことは出来ないのだから。










 ***************************
 読んでいただき、ありがとうございます!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

結婚式に代理出席したら花嫁になっちゃいました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
美希は平日派遣の事務仕事をしているが、暇な土日に便利屋のバイトをしている。ある日、結婚式の友人の代理出席をする予定で式場にいたのに!? 本編は完結してますが、色々描き足りなかったので、第2章も書いています。

魚人族のバーに行ってワンナイトラブしたら番いにされて種付けされました

ノルジャン
恋愛
人族のスーシャは人魚のルシュールカを助けたことで仲良くなり、魚人の集うバーへ連れて行ってもらう。そこでルシュールカの幼馴染で鮫魚人のアグーラと出会い、一夜を共にすることになって…。ちょっとオラついたサメ魚人に激しく求められちゃうお話。ムーンライトノベルズにも投稿中。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

処理中です...