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しおりを挟む俯いて黙ってしまったティアーナに、アーサーはギュッと抱き寄せる。
「ごめん、もっと君の事が知りたいんだ」
アーサーの芳香が強く香り、胸がドキドキする。
「覚えてないのかもしれないけど、幼い頃約束したんだ……君の大切な『はじめて』を貰うって」
(!!)
その言葉に、ビクッと身体が反応する。
(どうして、それを知っているの!?『はじめて』って、やはりアーサー様の捜している方は、私なの?)
確かに幼い頃、王妃である母に『はじめて』はとてもとても大事なモノだから、心から愛してくれる大好きな人じゃないとあげてはいけない。と習った。
言葉の意味自体良く解らなくて、不思議に思っていたが、今はもうそれも理解している。
「その様子だと、心当たりがありそうだね」
頭の上から嬉しそうな声が聞こえる。
確かに心当たりはある。と、いうか、幼い頃の自分は本当にそんなことを約束したのだろうか。
そんなに会ったこともないだろう人間に、『はじめて』をあげる約束をするなんて。
「ねぇ、『はじめて』って、何?」
ティアーナの頬がカァーと赤くなる。
そんなの恥ずかしくて説明出来ない。
子供の頃の口約束なんて無効だろう。
そう思うが、アーサーはその約束をずっと覚えていてくれて、こんなに必死に捜してくれていた。
自分は覚えていないのに。
それを考えると、無下に出来ない。
「ティナ?」
誤魔化そうにも、考えが纏まらない。まさか、その話が出てくるなんて思わなかった。
「恐らく…ですが、私かもしれません……」
「──!本当に!やっぱりティナだったんだ」
アーサーが嬉しそうに身体を離し、ティアーナの顔を見てくる。
「あの、あくまで恐らく、です。少し考えるお時間をいただいても宜しいですか?急なことで……もう少し考えれば思い出せるかもしれません………」
嬉しそうにしているアーサーには悪いが、ちょっと一人になりたい。
ティアーナは頭を抱え、アーサーに訴える。
「あぁ、そうだね。色々と言い過ぎたし、君にも考える時間が必要かな?」
「……はい。申し訳ございません」
「いや、謝ることはないよ。じゃあ、とりあえずこの書類にだけサインしてもらえるかな?」
アーサーはベッドから立ち上がると、書類を何枚か取り出しペンを差し出す。
「あ、はい」
ティアーナも立ち上がり、机に向かい、書類を眺めている。
上にあった書類を読んでいるところで、ドアがノックされる。
「おい、アーサー終わったか?そろそろ時間だ」
稽古を終えたギルバートとアイシャが戻って来てしまった。
「え?もうそんな時間?ごめん、ティナ。サインだけさっと書いて貰えるかな?内容は確認してあるから大丈夫だよ」
「えっ…と、ですが……」
この手の書類は細かい所までキチンと確認したいのだが、アーサーにそういわれてしまうと頷くしかない。
「このあと、所用があってね。またしばらくの間、ここには来れなくなるから……」
王太子として忙しいアーサーを、煩わせているのは確かだ。
「わかりました」
ティアーナは何枚かの書類に自分の名前を書いていく。
書き終えるとアーサーに手渡す。
「うん、ありがとう!ごめんね、急がせて」
「いえ、とんでもございません。こちらがご迷惑をかけているのですから」
アーサーは書類をクルクル巻いて紐で留めると、懐にしまう。
部屋を開けると、ギルバートと疲れ果てているアイシャが立っていた。
「急ぐぞ。奴らうるさいからな」
「そうだね。ティナ、見送りはいらないよ。また何か有るときはそこの彼女に言付けするから」
「畏まりました。師匠、ありがとうございました!」
アーサー達はそう言って足早に去って行った。
残された二人は後ろ姿を見送り、ティアーナはソッとため息をつく。
「お嬢様?どうかされましたか?」
いち早く気づいたアイシャは、気遣わしげに訪ねる。
聞かれたらまずいので、先ほどの個室に戻り、二人で椅子に座った。
「アイシャ……やっぱり、アーサー様の捜しているお相手は、私なのかもしれないわ」
ティアーナは浮かない顔で、自分の握った手を見つめている。
「えぇ、私もそう思います。師匠から話を聞きましたが、かなり可能性は高いと思いますよ」
では何故、ティアーナは覚えていないのか。
それに関して、一つだけ、気になることがある。
「『はじめて』をアーサー様にあげると言っていたらしいの。たぶんそれは、記憶が戻る前の私、だと思う」
「と言いますと、前世を思い出す前に約束したと?」
「えぇ。私が前世を思い出した時、その前後の記憶が曖昧なのよ。その後、ティアーナとしての記憶と、前の自分の記憶が馴染んでいったんだけど、ちょうど思い出した年齢とも重なるから、たぶん……」
「では、どうされますか?もし、そのお相手がティアーナ様だとして、アーサー様の元にお輿入れなさいますか?」
ティアーナは目を閉じ、考える。
正直アーサーの事はまだ良くわからない。
好きか嫌いかで言われれば、たぶん好きな方に気持ちは傾いている。
立場的にも問題はない。貧窮しているからと言っても王女であることには変わりない。
自分としても、あんな年上の好色な公爵に嫁ぐよりはアーサーの方が遥かにマシだ。というか比べ物にならない。
ただ問題なのはこの呪いだ。
もし自分に子が授からなかったら、王子を身籠らなかったら……そんな不安が尽きない。
アーサーがティアーナと契りを交わしてしまえば、アーサーは他の妃と子を成すことは出来ないのだから。
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