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しおりを挟むこのガウェインは事あるごとにギルバートに突っ掛かってくる、アイシャにとっては厄介者なのだ。
ギルバートの弟子として王宮内ではちょっと有名なアイシャは、何故かこのガウェインに自分の弟子になれと会う度に言われているからだ。
正直アイシャにとってはギルバートでもガウェインでも、強ければどちらでも良いのだが、ガウェインの性格がアイシャに合わなかった。
硬派なギルバートと違い、ガウェインはかなり軟派なプレイボーイだった。
何人もの女性と浮き名を流し、見かける度に違う女性を連れている。遊んだ女も泣かした女も星の数程いるだろう。
黄金色の髪に海のように深い紺碧の瞳、甘いマスクに左目の下に泣き黒子が小さくあるのが特徴だ。
黒い騎士服のギルバートと違い、ガウェインは白い騎士服を身に付け、見た目だけなら王子様のような出で立ちだ。
アイシャの主人であるティアーナは生涯で1人の相手としか添い遂げられないのに、何人もの相手と遊んでいるガウェインははっきり言って大嫌いな分類に入る人物だった。
「おや、これはどういうことかな?弟子に手を出すとは君らしくないな……ギルバート」
ギザったらしく顎に手をあてながら、話しかけてくるガウェイン。
しかしギルバートは歩みを止めることなく、脇を通り過ぎて行く。
「おい!無視するな!」
焦った様に歩きながら着いてくるガウェインに、ギルバートは小さく舌打ちをしている。
ギルバートも歯牙にもかけていないのだが、ガウェインがしつこく構ってくるのは面倒だと思っている。
「俺は忙しい。さっさと去れ」
「はっ、弟子と逢い引きするのに忙しいってことかな?」
バカにしたように笑いながらガウェインはアイシャに視線をずらす。
「アシュリー嬢もそんな粗暴な男は止めて、僕のところに来るといい。貴女には僕の様な男こそ相応しい」
早足で歩きながら、アイシャに手を差し伸べる仕草をするが、アイシャが手を取ることはない。
「ウォーカー騎士団長様。申し訳ございませんが、私は師匠以外から教えを乞うような事は致しません。毎回ご好意、ありがとうございます」
ギルバートに抱えられながらだが、丁重にお断りした。
言葉には出さないが、心の中であっかんべーと舌を出す。
嫌いな人間だが、こういう男は尊厳を傷つけるような事をすると逆上してくるので、毎回面倒だが丁寧にお断りしている。
胸の内ではかなり酷く貶して、何とか溜飲を下げていた。
「ギルバートにどう脅されているか知らないが、貴女の様な可憐な女性が剣を握る必要が無いように、僕が守ってあげるよ」
アイシャの言っている言葉など、この男は全く聞いていないのだ。
いっそ酷い言葉で詰ってやろうか、と考えたことも多々あるが、後々面倒そうなのですぐに止めた。
ずっとここでお世話になるわけではないのだ。
今この場を凌げれば、どうでもいい。
ギルバートは歩みを緩めず、ガウェインを視界に入れないように馬車置き場まで向かう。
「団長様、お気遣いありがとうございます。では失礼します」
ニッコリと笑いながら手を振ると、つられたようにガウェインは立ち止まり、笑顔で手を振った。
その隙にギルバートは角を曲がり、すぐにガウェインは見えなくなった。
ハッとしたガウェインが気づいた時には、すでに二人は居なくなっていたのだった。
「師匠、もうここまでで大丈夫です。後は御者の方に送ってもらいますから」
馬車を用意してもらい、ギルバートも抱えたまま乗りそうな勢いだったので、さすがにそれは止めた。
貧血もすっかり治ったし、腕の痛みもさっきよりはましになった。
たぶん、ギルバートなりに少しは悪いと思ってくれているのだろう。
言葉が少ないのに行動だけは強引だから、かなり解りづらいが。
何度か乗せてもらってるし、顔見知りだ。
ここに来た時は驚いていたが、御者は前にもギルバートに運ばれた事を覚えていたので、納得したように頷いている。
「わかった。お前はその腕が治るまでここには来るな」
「え?嫌ですよ。2、3日すれば治りますから、そしたらまた稽古して下さい!」
「駄目だ」
「師匠がやったんですから、それには従いません!」
「お前は、口答えするな」
言い合いをしている傍らで、御者は為すすべもなくオロオロと見守っている。
「とりあえず降ろして下さい。自分で乗れますから!」
再びギルバートの腕の中で暴れ出す。
「このじゃじゃ馬がっ」
ギルバートはアイシャのおでこにゴツッと頭突きをする。軽く当たった程度なのでそこまで痛くはない。
「──ッ」
問題はそこじゃない。
吐息が触れる程近い距離に、思わずアイシャの動きも止まる。
ギルバートの灰色の瞳と間近に視線がぶつかり合う。
「お前はもう少し大人しくしてろ」
そう言うと、動きの止まったアイシャを地面に降ろし、ギルバートは振り返ることなくその場を去って行った。
おでこに手を当てながら、呆然とギルバートを見送った。
御者もその様子をアイシャと同様に、頬を赤らめて見ていた。
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