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稽古に行くアイシャを見送ったティアーナは仕事も終わり、女将さん達に挨拶をして部屋へと戻って来ていた。
アイシャの帰りの時間もまちまちなので、大体はこの時間を使って湯あみを終わらせている。
疲れて帰って来ているアイシャに手伝って貰うのは気が引けてしまう。
ほとんどの事は1人で出来る。ティアーナは前世の記憶もあり、生粋の王女ではない。
お湯を張って準備が出来ると、服を脱いでお湯に浸かる。
動いているとはいえ、立ち仕事だし、やはり足を使うから湯あみの時には揉みほぐすように心掛けている。
足を解しながら、アイシャの事を思う。
今日の稽古の時に、アーサーの事をギルバートに聞くと言っていたが、大丈夫だろうか。
アイシャにとってギルバートは師匠なのだろうが、騎士団長の上に警戒心が強そうなギルバートにあんなことを聞いて、アイシャに何も無ければと心配になる。
今更ながら何故アーサーに自分が捜していた女の子かもしれない、だなんて言ってしまったのだろう。
お湯の中で膝を抱えて、目を閉じる。
自分はアーサーの隣に立てるような人間ではない。
アイシャの答えを待つまでもなく、やはりアーサーの側から離れるべきだ。
わかってるはずなのに、やはり胸の奥がずきずきと痛む。
(駄目ね……私がはっきりしないと、示しがつかないわ。うちの国は例外として、この世界ではほとんどの国の王族は一夫多妻制。国王になる者は子を成すのも仕事の内だから)
思考の渦に嵌まってしまうと、のぼせてしまいそうなので考えを断ち切る。
そういえば先ほどから、背中が少しムズムズするが、風邪でも引いたのだろうか。
不思議に思いながら身体を洗って湯あみを終え、タオルで拭いていると、隣の部屋から物音が聞こえる。
アイシャが帰って来たのだろう。
今日はわりと早い帰宅だ。
タオルを巻いて隣の部屋を開ける。
「アイシャ、おかえりな……!!」
開けたまま固まってしまった。
何故なら、そこにいたのはアイシャではなかった。
「えっ?!あ、アーサー…様!?」
アーサーは跪いた格好で、呆然とティアーナを見上げていた。
(どうして、ここにアーサー様が??)
色々思考を巡らせるが、居るはずのないアーサーが、なぜここに存在しているのか意味がわからない。
訪ねて来たにしても、必ず女将さんが確認を取りに部屋へと来るはずだ。
いきなりここに、部屋の中に招き入れるなんて、そんな真似はしない。
だからおかしい。まるで、突然現れたかのような出で立ち。
突然の出来事に軽くパニックになる。もしかして夢でも見ているのだろうか。
お互い立ち止まったまま、しばらく固まっていたが、アーサーが均衡を崩す。
「あ……ティナ…その、急にごめん……」
呆然としていたアーサーは顔を赤くしながら、片手で口元を隠し立ち上がる。
「あの…アーサー様?……一体、どちらから……」
「いや、その前に……着替えた方が…いいんじゃないかな?」
目線を合わせなかったアーサーが、チラリとティアーナを見る。
言われてみれば、自分は裸にタオルを巻いただけの状態だ。
瞬時に真っ赤になり、後ろを向いて身体を両手で隠す。
今更だが、なんて破廉恥な格好でアーサーの前に立ってしまっていたのだろう。
恥ずかしくて消えてしまいたい程だ。
「も、申し訳ございません!この様なはしたない格好で!」
「あ、いや、違う!俺が悪いんだ!来るタイミングを間違えしまった……」
必死に弁解しているが、今一意味はわからない。とにかく早く着替えよう。
ただ問題は、着替えがアーサーのいる部屋の方に置いてあるということだ。
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