愛してる。だからばいばい

はすか

文字の大きさ
3 / 11
本編

3

しおりを挟む



 結局アンナに上手く丸め込まれ、王宮に戻る馬車内。僕は爪を噛みながら必死に希望を探していた。
 そもそもローズの病は、先々代の王妃が罹ったものと同じだ。その時も病を治す術は無く、王妃はそのまま帰らぬ人となった。あれから時間が経ったとはいえ、未だにその病の対処法は確立されていない。被害者数は年千件を超え、そのことから、遥か昔の愚王が遺した呪いなのではないかと囁かれるほどだ。全くもって馬鹿馬鹿しい。そんな妄言を吐き散らかす暇があれば、とっとと病の治療法を見つけろという話だ。

「……くそっ」

 握り拳を自身の膝に叩きつける。駄目だ、冷静を欠いてまともに思考が回らない。最悪の結果だけが頭を巡る。
 恐らくローズは……このまま行けば、一月と生きられない。

『無様だなあ』

「…………」

 降ってきた声に無視を決め込む。今は誰かと駄弁っている暇などないのだ。
 と言い切りたいが、本当の理由は別にある。とは反りが合わない。要するに苦手なのだ。それが無視した理由の大半だった。

『無視はすんなよ。偉大なるお前のご先祖様だぞ?』

「……ご自分で仰るんですか、それ」

『お、反応した。相変わらずのお人好しっぷりだなあ』

 左右で色の違う瞳を細め、その人は笑う。しかし、僕はその瞳の奥が笑っていないことに気付いていた。
 ……こういうところが苦手だ。人の心にはずかずかと入ってくるくせに、自分は一切踏み込ませない。

「初代ヘルザン国王」

『その呼び方やめろ。嫌いなんだよ』

 彼はあからさまに嫌な顔をしてみせ、溜め息を吐いた。

『名前で呼べ。知ってんだろ、次期ヘルザン国王──セリシール・ヘルザン?』

「名前など畏れ多くて口に出すことも躊躇われますよ、偉大なる僕のご先祖様」

 意趣返しでそう言えば、亡きはずの初代国王は呆れた風に

『お前、何でそう俺の嫌な部分だけ似たのかねー……血は繋がってねえはずだろ』

 衝撃すぎる事実に僕は目を見張る。

「え、繋がってない……?」

『あ? 知らなかったのか?』

 殊更興味が無いように、白銀の髪の彼は自身の髪を弄りながら答える。

「初耳です」

 文献にも、そんな記述は一切なかった。王宮の文書には一通り目を通しているし、見聞を広めるために大まかな内容は暗記している。見落としはないだろう。

『あー……まあ、大方あのクソジジイ共の仕業だろ。体裁を整えるために、どこかしらで書き加えたりとか揉み消したりでもしたんだろ』

 クソジジイとは、もしかして宰相たちのことだろうか。
 この人が初代国王で、本当によくこの国が成ったものだ。僕は皮肉交じりの感嘆を漏らした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

あなたのためなら

天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。 その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。 アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。 しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。 理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。 全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

ジェリー・ベケットは愛を信じられない

砂臥 環
恋愛
ベケット子爵家の娘ジェリーは、父が再婚してから離れに追いやられた。 母をとても愛し大切にしていた父の裏切りを知り、ジェリーは愛を信じられなくなっていた。 それを察し、まだ子供ながらに『君を守る』と誓い、『信じてほしい』と様々な努力してくれた婚約者モーガンも、学園に入ると段々とジェリーを避けらるようになっていく。 しかも、義妹マドリンが入学すると彼女と仲良くするようになってしまった。 だが、一番辛い時に支え、努力してくれる彼を信じようと決めたジェリーは、なにも言えず、なにも聞けずにいた。 学園でジェリーは優秀だったが『氷の姫君』というふたつ名を付けられる程、他人と一線を引いており、誰にも悩みは吐露できなかった。 そんな時、仕事上のパートナーを探す男子生徒、ウォーレンと親しくなる。 ※世界観はゆるゆる ※ざまぁはちょっぴり ※他サイトにも掲載

 《完結》 どうぞ、私のことはお気になさらず

ヴァンドール
恋愛
実家の伯爵家では、満足に食事も取らせてもらえず毎日、使用人以上に働かされた。  そして縁談が来たと思ったら火遊び好きな侯爵の隠れ蓑としての婚姻だった。

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

『紅茶の香りが消えた午後に』

柴田はつみ
恋愛
穏やかで控えめな公爵令嬢リディアの唯一の楽しみは、幼なじみの公爵アーヴィンと過ごす午後の茶会だった。 けれど、近隣に越してきた伯爵令嬢ミレーユが明るく距離を詰めてくるたび、二人の時間は少しずつ失われていく。 誤解と沈黙、そして抑えた想いの裏で、すれ違う恋の行方は——。

処理中です...