運び屋『兎』の配送履歴

花里 悠太

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配送履歴#6 配達物『兵隊』

第39話 敵か味方か白旗ゴブリン

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 野営をした次の日の朝。
隊長より伝えられた作業再開の指示を受けて、兵士たちが作業を始めて片っ端から木を掴んでは道の脇に寄せていく。

 ユウヒは狼の遠吠えの件もあり、あたりを警戒するように依頼されていた。
とは言ってもユウヒ自身は兵士たちが作業する様子をぼんやりと見守っているだけ。メインで警戒しているのはユウヒの肩に乗った梟である。
梟はくるくると頭を回しながらあたりの気配を窺っていた。

 一時間ほどだろうか、一行が進んでいる時に梟がユウヒに声をかける。

「ゴブリン、イッタイセッキン」
「隊長さん、ゴブリンくるみたい」
「了解した。作業やめ、戦闘準備」

 隊長の指示に従い、兵士たちが武器を構えて周囲を警戒する。
ユウヒは兵士達の後ろに下がり、引き続き様子を見守った。
ユウヒの肩の上にいる梟は、薙ぎ倒された木々から少しそれた森の中をじっと見つめており、隊長はその視線の向かう先に特に注意を払っている。

 ガサガサ、と音がして森の中から一体のゴブリンが兵士たちの目の前に現れた。
緑の小柄な体躯の典型的なゴブリンだが、簡易な革鎧を装着しているところが珍しい。
出現したゴブリンを見て、兵士の一人が困惑の声を上げる。

「なんだ?」

 しかし、兵士を困惑させたのは武装していることではなく、手に剣の代わりに白い旗を掲げていることだ。
ぐぎゃ、ぐぎゃ、と白い旗を振りながら恐る恐る兵士たちに近寄ってくるゴブリン。

「待て、止まれ!」

 兵士の一人が制止するが、ゴブリンは言葉を解さずに止まらない。
騙し討ちの危険も大いにあるため、制止した兵士は構えていた剣をゴブリンに突きつけた。
するとゴブリンは、ぐぎゃ、と慌てたように立ち止まりより大きく旗を振り出す。

「どうしましょう、隊長」
「普通に考えれば降伏なのだが、ゴブリンだしなあ」

 困った兵士達と、困った様子の旗ふりゴブリン。
どうしたもんかと悩んでいるところに、ユウヒがスッと前に出てゴブリンに話しかけた。

「こんにちは」

 ぐぎゃ、とゴブリンは答えて白旗を振る。
ユウヒはその様子を見てゴブリンに尋ねた。

「何か用?」

 聞くとゴブリンは鎧の中に持っていたと思われる紙をユウヒに差し出した。

「ありがと」

 ぐぎゃ、と答えるとゴブリンは踵を返し、旗を投げ捨てて森の中に逃げ出した。

「あ、こら待て」
「いや、でも白旗振ってたぞ?」

 追うかどうかで迷う兵士達をよそに、ユウヒは渡された紙を広げて目を通していた。
隊長はその様子を見て、ユウヒに声をかける。

「知人、というか知っているゴブリンだったのか?」
「ううん、知らない子。でもあんな変なことをしてるんだったら、お使いかな、って思って」
「紙はなんだ?」
「どうぞ、兵隊さん宛かな?」

 ユウヒは書いてある内容を隊長に見せるように手渡す。
隊長が内容を見ると、そこに書かれていたのは山小屋の周辺を簡易に表した地図だった。
目指す山小屋には十人という数字が書かれており、山小屋の横にある開けたスペースにドクロマークが書かれている。
他にも、山小屋から街道や両方の街に抜ける小道が書かれ、ユウヒが薙ぎ倒して通った道も描かれていた。

 簡易ではあるが、山賊討伐をする側からすれば有用な情報ばかりが書かれた一枚の紙。
隊長と兵士達はそれを見てひとしきり唸る。

「誰がこんなものを?」

 隊長が呟くが、兵士達は答えることができない。
この紙に関して彼らが知っている情報は、白旗振って出てきたゴブリンから渡されたという事実だけである。
隊長が念の為ユウヒに尋ねる。

「ゴブリンはこんな地図を書いたりできるのか?」
「ううん、ぐぎゃぐぎゃ言ってるだけ」
「ということは、山賊の中に内通者がいる?それとも罠か?」
「わかんない」

 言いながらユウヒは肩の上の梟に問いかけた。
梟は山小屋の方に向かって首をチョコチョコ動かしながら探知を続けている。

「デモン、ゴブリンさん達はどこいったかな?」
「ニンゲンノトコロ」
「あれ? 全員?」
「ウン。ニンゲンノ、マワリ、ゴブリン」

 白旗ゴブリン以外のゴブリンも山小屋の方に引き上げて行った様子であることをユウヒが隊長に伝える。
隊長が唸っているところに、領主が後方から兵を連れて前線まで上がってきた。
足元も悪い山道だが、動きやすく武装をしている領主は自然体で苦もなく山道を歩いてきている。

 隊長が前線に到着した領主に報告する。

「先ほど、妙なことが起こりました」
「妙なこと? 簡潔に報告せよ」
「白旗を振ったゴブリンが、討伐対象区域の地図を持ってきました」

 言われた通りにこれ以上なく簡潔に報告する隊長。
一瞬ポカンとした領主は、一瞬チラッとユウヒの方を見てため息をつくと、諦めたように隊長に再報告を求めた。

「ああ、すまん。わからんので詳細に報告してくれ」
「かしこまりました」
「え、なんでボク?」

 なぜ見られてため息をつかれたんだ、と一人憤慨するユウヒをよそに、隊長は先ほどまで起きたことを領主に報告した。
領主はすぐに決断して、方向性について隊長とすり合わせに入る。

「嘘か誠かはわからないが、もし真実ならとても有効な情報だ。この場に本隊を待機。分隊でこの地図の信憑性を確認しよう」
「了解しました。では三人ずつの分隊を作り、森の中を通って抜け道を確認するのはいかがでしょうか」
「うむ、それで良い」
「もし抜け道がある場合は、一人はここへの報告、残りは抜け道で待機させます」
「私と運び屋は本体で待機するということで良いな?」
「問題ございません」

 速やかに打ち合わせを終えて、隊長は数人の兵士をまとめて二つの分隊を作ると指示を出した。
指示を受けた兵士達は二手に分かれて、森の中に入っていく。
一方待機することになった本隊は、警戒しつつ休憩することになった。
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