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しおりを挟むノゼッタお嬢様からの手紙の返事を初めて頂いてから2日が経った。その間、私たちは朝昼晩の食事の際に手紙を交わした。今日は領主さまとセバスさんが帰って来る予定なので、私とお嬢様の2人きりの生活は終わりだ。領主さまが家に帰って来たら、手紙のことを自慢してやろう。
2人のマウントを取る算段を企てつつ、朝食の食器と手紙を回収しにお嬢様の部屋へ向かうと、例によって返事の手紙が添えてあった。しかし、今回はそれだけでなく木製のブラシがトレーの上に置いてあった。手紙の返事は。
「朝起きたら、髪がボサボサになった。梳いて。」
と短く書かれていた。
私はこの短い文を見ると、私の心は躍り出した。ノリノリでブラシを手に取り、そっとドアを開けた。
これで私は、このマーティナ家に必要不可欠な存在だと領主さまも認めざるを得ないだろう。何故なら、母親の死に2年間も囚われた実の妹を救うという功績を築いたのだから。
自身の功績に喜びを感じながら部屋に入ると、腰まで伸びた髪を爆発させた女の子がベッドの上に座っていた。
私は恭しく、頭を下げながら挨拶をした。
「改めまして、つい先日から侍女をしています。シェルエッタ・テールミスといいます。顔を合わせるのは初めてですね、ノゼッタお嬢様?」
「そうね。声を聞くのもあの時以来よね。ねぇ、シェルエッタ?」
ぐういきなり痛いところを突かれてしまった。
「あまり、イジメないでくださいお嬢様。その節は大変ご無礼致しました。」
「フフッ。冗談よ。でも、変な感じね。初めて顔合わせるというのに初対面って感じがしないわ」
「初対面ではないですからね。」
「それもそうだわ。」
「フフフッ。」
「アハハッ。」
そんな他愛もない会話を続けていると、お嬢様はドレッサーの前に座り、髪を撫でる。どうやら、ブラッシングをご所望のようだ。すかさずお嬢様の背後に回り込んで、髪を梳く。
「たくっ、私の髪ったら毎日毎日よくそんなに絡んで入れられるわね。嫌になるわ。…それにしても貴方、うまいわね、気持ち良いわ。褒めてあげる。」
「お褒めに預かり光栄です!」
これでも、前世ではスタイリストを目指して美容系の専門学校を出ているので、髪の扱いには少々自信がある。
「…小さい頃は、よくこうやってお母様に髪を梳いてもらったわ。なんだか、あの頃を思い出してきちゃった。」
と言葉尻を震えさせて、お嬢様は話す。
「お母様が亡くなってから、お兄様は悲しみを乗り越えて家を守るために死にものぐるいで知識や人脈を増やしたわ、それなのに私は立ち止まったまま。私だけあの頃に取り残されて、進めないでいるの。格好悪いわよね。」
「…そんなことありません。」
涙を零しながら話す彼女を見て、先程まで自身の保身のために彼女を利用しようとしていた自分が恥ずかしくなった。思えば、私は私自身のことしか考えず、お嬢様の気持ちを一切考えないで行動してしまっていた。その結果、無礼な行動を招いてしまったのだ。
これからは誠実にお嬢様の気持ちに向き合って、正真正銘の侍女になろう。
その第一歩として、まずお嬢様の涙を止めるとする。
当たりを見渡すと、お目当ての物はドレッサーの上に一通りあった。前世の物に似ているので使い方はなんとなく分かった。
「お嬢様、しばらく目を閉じて頂いてもよろしいですか?」
「?いいけど…」
お嬢様が目を閉じると、私はすかさず涙を拭い、ドレッサーに置いてある″化粧品っぽい道具″を手に取り、ナチュラルメイクを手早く施す。
「目を開けていいですよ。」
「えぇ。…キレイ。」
「もちろん、元の顔立ちが良いので当然です。しかし、お嬢様が泣かれてはせっかく整えたメイクが台無しになってしまいます。なので、どうか笑って下さい。」
鏡の中の女の子は満開に咲いた花のように笑った。
落ち込んだ女の子を立ち直らせるのは、いつだって最高にカワイイ自分自身なのだ。
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