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父は逮捕された。
過去に病院でしていた不正が告発されたのだった。
父は医師法違反の容疑で取り調べを受けることになった。
嫌いな父ではあったが、実際にこうして警察に捕まってしまうと家族として心が傷んだ。
父は何をしたのか。
それを知り、私は人生が大きく変わることとなった。
これまでの人生も、そして、これからの人生も……
私の父は、私が生まれる前から綾香さんと不倫をしていた。
なんと、母と綾香さんは、同時期に妊娠をしていた。
綾香さんは父に堕ろすよう説得されていたが、シングルマザーとして育てるつもりでいたらしい。
そして、これもなんという運命の巡り合わせ。
前に綾香さんが言っていた通り、二人は同じ日に出産したのだった。
綾香さんは、自分の赤ちゃんは死んだと言っていた。
父の逮捕により、それは違っていたということが判明した。
死んだのは、私の母の子の方であった。
母は病弱で、出産にも失敗していたのだった。
父は医師会会長の娘と結婚し、子を成すことで出世しようとしていた。
しかし、子はすぐ死んでしまった。
一方、不倫相手である綾香さんの子はしっかり生まれてきてしまった。
父は、医師という立場を利用し、こっそり赤子を入れ替えたのだった。
私は、父と綾香さんとの間に生まれた子だった……
大好きだったお母さんと私は、血が繋がっていなかった。
憎くて憎くて仕方なかった綾香さんの方が、本当の母親だった……
赤子の入れ替えは一部のスタッフしか知らないことだった。
母も綾香さんも、まったく知らなかった。
母は、私を実の娘だと思って、まったく疑いもせずに育ててくれていたのだった。
綾香さんも、自分は死産をしたのだと思い込み、私が実の娘であるとは知らずに今日まで過ごしてきたのだった。
父は、医師会の会長に立候補していた。
激しい派閥争いがそこにあった。
対抗する派閥が、父の過去の不正を暴き立て、怪文書を流して父を失脚させたのだった。
警察の取り調べを受けたものの、17年前の事件ということで、父は起訴猶予処分となった。
しかし、医師の世界は狭く、噂はあっという間に広まってしまった。
医師会での出世の道は閉ざされた。
釈放され帰宅してきた父は、私と綾香さんの前で、再び土下座をした。
「すまなかった」
なんという安っぽい言葉だろう。
そんな言葉で許されるはずもない。
綾斗くんとは実の姉弟だったということは、嬉しく思えた。
けれど……
綾香さんのことは……
しばらく考えたけど、そして、考えはまとまらなかったけど……
私は、綾香さんを初めてこう呼んだ。
「お母さん」
綾香さん、いや、お母さんの目から涙が溢れた。
私も、いつの間にか涙をこぼしていた。
私は、これからどうすればいいのか分からなかった。
< 了 >
過去に病院でしていた不正が告発されたのだった。
父は医師法違反の容疑で取り調べを受けることになった。
嫌いな父ではあったが、実際にこうして警察に捕まってしまうと家族として心が傷んだ。
父は何をしたのか。
それを知り、私は人生が大きく変わることとなった。
これまでの人生も、そして、これからの人生も……
私の父は、私が生まれる前から綾香さんと不倫をしていた。
なんと、母と綾香さんは、同時期に妊娠をしていた。
綾香さんは父に堕ろすよう説得されていたが、シングルマザーとして育てるつもりでいたらしい。
そして、これもなんという運命の巡り合わせ。
前に綾香さんが言っていた通り、二人は同じ日に出産したのだった。
綾香さんは、自分の赤ちゃんは死んだと言っていた。
父の逮捕により、それは違っていたということが判明した。
死んだのは、私の母の子の方であった。
母は病弱で、出産にも失敗していたのだった。
父は医師会会長の娘と結婚し、子を成すことで出世しようとしていた。
しかし、子はすぐ死んでしまった。
一方、不倫相手である綾香さんの子はしっかり生まれてきてしまった。
父は、医師という立場を利用し、こっそり赤子を入れ替えたのだった。
私は、父と綾香さんとの間に生まれた子だった……
大好きだったお母さんと私は、血が繋がっていなかった。
憎くて憎くて仕方なかった綾香さんの方が、本当の母親だった……
赤子の入れ替えは一部のスタッフしか知らないことだった。
母も綾香さんも、まったく知らなかった。
母は、私を実の娘だと思って、まったく疑いもせずに育ててくれていたのだった。
綾香さんも、自分は死産をしたのだと思い込み、私が実の娘であるとは知らずに今日まで過ごしてきたのだった。
父は、医師会の会長に立候補していた。
激しい派閥争いがそこにあった。
対抗する派閥が、父の過去の不正を暴き立て、怪文書を流して父を失脚させたのだった。
警察の取り調べを受けたものの、17年前の事件ということで、父は起訴猶予処分となった。
しかし、医師の世界は狭く、噂はあっという間に広まってしまった。
医師会での出世の道は閉ざされた。
釈放され帰宅してきた父は、私と綾香さんの前で、再び土下座をした。
「すまなかった」
なんという安っぽい言葉だろう。
そんな言葉で許されるはずもない。
綾斗くんとは実の姉弟だったということは、嬉しく思えた。
けれど……
綾香さんのことは……
しばらく考えたけど、そして、考えはまとまらなかったけど……
私は、綾香さんを初めてこう呼んだ。
「お母さん」
綾香さん、いや、お母さんの目から涙が溢れた。
私も、いつの間にか涙をこぼしていた。
私は、これからどうすればいいのか分からなかった。
< 了 >
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