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しおりを挟む情緒不安定で、なりふり構わず泣き喚いたのは、レイリーにもしっかり聞かれてたらしい。
最初はまたあの時の再現かとぎょっとしたが、どうやらふたりの秘密の会話だろうと、部屋の外から聞き耳は立てたが邪魔だけはしなかったとか。
「絆されなくてもいいんですよ、あんなケダモノ」
数日後に復帰したデイルに心配そうに一言言ったけれど、それ以上は触れてこなかった。どこぞの王太子よりはるかに気遣いができるすばらしいお人だ。
だけれども、これはちょっと、困った。
「デイルどいて、そいつ殺せない」
目をらんらんと輝かせて、まるで獲物を前にした猫のようなダーニャと、
「おやめなさい、気持ちはわかりますが」
その彼女を羽交い締めにするレイリーと、
「……あの、いいんだよ、もう過ぎたことだし……」
彼女の前に立って、いちおう進路妨害は成功したデイルと、
「……すまない……」
悔恨に秀麗な顔を歪めて、傍目には憐憫を誘うグレオルは、デイルの後ろに庇われていた。
レイリーの執務室になっている部屋で、周囲には衛兵とベイディ、王太子の従者がいて中には剣を抜きかけているが、王太子は手を振って抑えるように指示。
……ダーニャに事の起こりを知られたらしい。
レイリーとともに、デイルの喚き散らした声を聞いたダーニャがレイリーを詰問。めずらしく押し切られてしまった彼の語った経緯に、ダーニャはブチッといってしまったらしい。
実は、ダーニャは護身術を飛び越えて武術は騎士クラスだ。非力なデイルと違って、そういうふうに訓練された。並の兵士に負けることはなく、今だってちゃんと騎士叙勲されているレイリーを振りほどきかねないほどの暴れっぷり。
「大丈夫だって、ほら、うまいこといったわけだし」
「デイルの大丈夫は大丈夫じゃない」
ギッ!と、デイルから頭一つ出た王太子を睨むダーニャに、王太子は呻いて、レイリーは頷いた。
「それは同意です。本当に、あれが王太子でなければこの手を離せたのですが……」
「レイリー様、絶対離さないでください」
デイルは慌てた。
ここで王太子に何かあったら、また戦争もありうるのを彼だって知っているはずなのに。
「ダーニャ、うれしいけど、もういいんだって」
振り回される彼女の手をそっと握る。
「あんまり納得したくないけど、あれがなかったらたぶん僕ら再会できなかったよ」
「なんでよ」
「んー……たぶん、さっさと自決してたかな、僕」
ひそっと、耳打ちすると、ダーニャの力が抜けた。じわりと彼女の緑青の目が潤む。
「……そんなこと言わないでよ、ばかデイル」
「うん、ごめんな」
カッシュがあの時言ったように、レイリーが打ち明けた時点でデイルたちはすでに詰んでいた。
敵国を信じるなんて、絶対しなかった。
そう思うと、事態をかき乱してくれた王太子を唯一許せそうなところだった。
まだ怒ってるけど。
「毒見のことも、あたし怒ってるから」
「それは職務に忠実って言ってほしいな」
「……もー」
力が完全に抜けたダーニャを、レイリーは解放した。ダーニャが腕を回してくるので、デイルも小柄な身体を抱き締めた。
「……妬けるな」
ぼそっと聞こえた声に、またダーニャが臨戦態勢になる前に、レイリーの怒声が響く。
「懲りないなお前は!」
「っだ!」
ごっ!と重い音。
どうなっているのか分からず、デイルは振り向こうとしたら、ダーニャがぐっと腕に力を入れた。
「あんなのほっといて、もっとかわいい子が目の前にいるでしょ」
「なんだよそれ」
吹き出すと、少し怒ったような鼻息と一緒に、頬にちゅっと柔らかいものが触れた。
X◆X◆X◆X◆X◆X
ここまでお読みくださり感謝です
2話の連載開始まで、しばらくお待ちくださいませ
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