最強令嬢の秘密結社

鹿音二号

文字の大きさ
6 / 60

5:友達3

しおりを挟む
「良かった良かった。じゃあ、今後の対策だね」

 さらっとイワンはそう言って、またベルを鳴らした。
 なんの感動もないその様子になんだかもやっとするが、スミレが笑っていたので何も言わなかった。

「目下、問題は今日の騒ぎの対処だよ。どうせエヴァーラがあることないこと言ってスミレをいじめようとするだろう。そうさせないために、どうしたらいいか」
「あら、わたくしがびしっと言ってやりますわ」
「びしっと」

 スミレが不思議そうに繰り返した。イワンはなんだか目を細めている。

「そうそう、なんか今日はおかしかったけど、どうやら調子戻ってきたみたいだな。でも却下」
「なぜですの」
「きっとエヴァーラは君の前では反省したとしおらしくするけど、裏でもっと陰湿なことをスミレにするね。あなたのせいでペトーキオに目をつけられた恥をかかされたってね」
「……そんな卑怯な」
「そんなもんだよ」

 あまりにも酷い話。ミズリィが開いた口が塞がらないでいると、スミレがそうですね、と頷く。

「我慢は覚悟していました……けれど、もう、そういう問題じゃなくなってきました」
「他の学生達にも悪影響がありそうだしね。しかし、どうしたものかな」

 ふむ、と考え込むイワンとスミレ。

「わたくしがスミレを絶対に守ってみせますわ!」
「そうなんだけどね、その方法だよ、ミズリィ。誰彼構わず攻撃するつもり?」
「そ、それは」
「……けど、それも手かもね」
「えっ攻撃することがですか!?」

 スミレが驚いて声を上げた。イワンは笑って首を振った。

「ははっ、違うよ。絶対に守るってとこ」

 簡単だよ、と彼は腕を組んで、

「とっても仲のいい友達だってアピールすればいいんだ、四六時中いつもべったりで、なにをするにしても一緒。ミズリィが離れなければ誰もスミレにちょっかいはかけないだろ」
「……ですが、それはあまりにもミズリィ様にご負担が大きいかと」
「負担?なんのことですの」

 スミレと一緒にいればいいのだろう。話もできるし、どこが悪いのか分からなかった。
 スミレはきょとんとこちらを見て、イワンは、ぶふ、と吹き出した。

「そうそう、スミレ。今のうちにミズリィに慣れておかないとあとが大変だ」
「……はい、分かりました」
「わたくし、なにかおかしなことを言ったのかしら」
「いいや、君は君のままでいてくれ」

 何気なく、イワンは言ったのだろう。
 けれど、ミズリィの胸にチクリと言葉が刺さった。

(わたくしは変わらなかったわ。けれど、変わってしまったもの)

 イワンも、オデットも、テリッツも。

「怒ったかい?まあ、そういう細かいことは僕たちに任せておけばいいんだ。で、悪い案じゃないと思うんだ」
「スミレとずっと一緒にいればいいんですのね?けれど、本当にそれで解決するのかしら」

 ミズリィにはいまいちその方法がどんなものかが分からなかった。
 首を傾げると、イワンは頷く。

「ある程度は。君がスミレとずっと一緒だと、とても強い友情に結ばれた……いわば君にとって大切な人だと周りに教えることになる。するとどうだい?公爵家令嬢が大切にしている人をどうにかしたら、確実に自分が悪いことになる。君に敵だと思われて学院でも社交界でも立場をなくす、くらいは考えるだろうね」
「そんなことはいたしませんわ」

 いくらミズリィが学院で強い立場にあっても、そんないじめるようなこと。

「けど、相手はそうは思わない。だって自分が『そう』だから」
「……納得できませんわ」

 そんな卑しい人間だと思われたくない。
 イワンは苦笑したらしい。

「ミズリィ、これは僕の考えがおかしいとかじゃないし、納得できなくても、そうだということを覚えておきなよ。今は特に、スミレのためなんだ」
「……そうね、分かったわ」

 そうだ、なにより、スミレのためなのだ。

 イワンは家業を継ぐつもりで、ビリビオ子爵の手伝いをしている。人のこころが肝心だと、よく分かっている友人だった。
 頭のないミズリィにいろいろ助言してくれる。不思議と上手く行くことが多いから、強い味方で、信頼できる。少なくとも、今は、だけれども。

 スミレを見ると、彼女は何やら目を輝かせてミズリィを見ている。

「どうなさったの?」
「いえ、ミズリィ様は……すてきですね」
「え?」
「ぶ、くく、また信者が増えたみたいだ」
「イワン?」

 信者、とはなんだろうか。
 よくわからないが、悪い意味ではなさそうだ。けれど、笑っているイワンになにかいらっとする。

「ごめんよ! ともかく、言ったように、最低でも学院では仲良く一緒にいれば、だいぶ解決すると思う」
「ええ、では、そのようにしますわ」
「ほんとうに、いいんですか?」

 スミレはなんだかぼんやりとそう言った。
 もちろん、と頷けば、彼女はふわりと頬を染めて、笑う。

「……ありがとうございます」
「うんうん、友情だね? 僕も仲間に入れてくれよ、今後のためにさ」
「しっかりしていらっしゃいますね、ビリビオ様は」
「僕もイワンって呼んでくれ。もちろん、僕はミズリィの友人だからね」
「ふふ、なんとなくわかります」

 いや、さっぱり分からない。
 と思いつつ、ミズリィは経験上黙っていた。またイワンにからかわれる。

 お茶を飲んでいると、大きなお皿が届いた。
 花柄の丸っぽいお菓子がいくつも載っている。色は白と、焼き色がきれいについた2種類だけだが、中身の甘い部分にいろんなナッツやドライフルーツが入っているらしい。

「不思議ですね、この黒い中身」

 珍しい東洋の菓子に興味津々のスミレはかじっては中身を調べている。

「ああ、それ、豆を甘く煮て潰したものらしいよ」

 イワンは何度かこの店に通っているせいか、詳しい。

「豆!?」
「デザートに向かない気がするけれど……美味しいわ」
「気に入ったならいくつか包んでもらうよ。ああ、あと馬車の手配を……」
「スミレ、もしよかったらわたくしの家の馬車でお家までお送りしますわ」
「え!?」

 スミレはびっくりして、手から菓子を落としそうになった。

「……とてもうれしいです。ですが恐れ多いです、今日は自分で帰ろうと思います」
「いや、そういうわけにも行かないよ。ちゃんと送り届けないと、招待した僕の名誉も危ないんだよ」

 そうおどけて、イワンは立ち上がった。

「馬車は呼んでおく、これはお近づきの印さ。受け取ってよ」

 さっさと部屋を出ていくイワンに、話しかけようとしていたスミレは、そのまま口を閉じた。

「……こんなにして頂いていいのでしょうか」
「お友達ですもの。これが当たり前ですわ」

 たぶん、貴族と平民だと、こんなところも違いそうだ。

「今度、オデットも誘ってまた来ましょう?もし別のティーサロンが良ければおっしゃって」
「オデット……ハリセール家の?」
「そうですわ。大丈夫ですわ、ハリセール家に悪い噂はあるのは知っていますけれど……オデットは良い方ですわ」

 友人のオデットのハリセール家は、帝国の国教を信仰しているのではなく、外国の神を崇める宗教家だった。この国での最高司祭の家だという。このホーリース帝国で力はないものの、世界を見れば大きな勢力の宗教。
 別の宗教の司祭ということで、ハリセール家はあまり良い印象は持たれていなかった。

 それをスミレも知っているはずで、ミズリィはオデットと友人だと言うことしかできない。
 悪い人間ではないことを、会えばきっとスミレは分かってくれるだろう。

「ミズリィ様がそうおっしゃるのなら、そうなんでしょうね」

 スミレはくすりと笑う。裏庭で会ったときより、ずっと柔らかい表情だ。

「夢みたいです……ついさっきまで、これからどうしようと、途方に暮れていたんです」
「お役に立ててよかったですわ」
「どうしましょう、私にはミズリィ様たちにお返しできるものがないんです……」

 少し寂しげにテーブルの上においた手に目を落として、スミレはポツリと言う。

「お返しだなんて、考えなくてもいいんですのよ。わたくしがしたくてしたことですし、ずいぶんあなたを困らせてしまったわ」
「でも……これではあまりにも……今は無理ですけれど、いつか必ずお返しします」
「分かりましたわ……いつか、ですわね」

 一瞬、前世のことがよぎった。
 友達になった今とは違い、スミレはほとんど関わりがなかった。
 もし――彼女が、この差を、知ったら。
 どう考えるだろうか。

 けれど、また困らせてはいけない。それに、自分の生き死にに協力しろと言うのは卑怯すぎる。

「ミズリィ様?」
「あ、ごめんなさい。少し考え事を……」
「そういえば、昨日はお休みしていらっしゃいました。病み上がりではお疲れでは?」

 心配そうなスミレに軽く首を振って笑った。

「そちらは大丈夫よ。ありがとう」
「どうしたの。やっぱり具合が悪い?」
「イワンまで……心配性ね」

 戻ってきたイワンまで気を使うので、ミズリィは声を上げて笑ってしまった。

「今日はゆっくり休みますわ」
「そうしたらいい」

 イワンが珍しく真剣な顔だ。
 彼が持っているものに気づいて、ミズリィとスミレはじっと見てしまった。

「ああ、スミレ。勝手なことだったかなと思ったんだけど」

 バツが悪そうなイワンがスミレに渡したのは、入店したときに従業員に渡した荷物……スミレの外套だった。

「汚れ落としと繕いを頼んだんだ。それ以外は誓って何もしていないから」
「そんな! そこまでしていただくなんて」
「この店のサービス。体験してもらおうと思ってさ」

 近くの服飾を扱う店がこの店と連携して、食べ物をこぼしたりしたシミの洗浄などを請け負っているらしい。

「……ありがとう、ございます」

 きれいになった外套を眺めて、スミレは目を潤ませていた。

「――先日亡くなった、叔母の形見なんです。自分の使っていたものを仕立て直して、私が学院に入学が決まったときにくださったんです」

 そんな大切なものを、引き裂かれたり踏みにじられたり。
 ミズリィはまた怒りが湧いてきた。
 犯人を探して、怒ってやろうかと、そんな考えがふとよぎる。

(……いけないわ、それでは卑怯者たちと一緒ね)

 さっき自分で否定したばかりだというのに。

「……やはり、わたくしから新しい外套を贈らせて頂戴」
「え?あの、」
「わたくしのわがままよ。わたくしのためだと思って」

「……ミズリィ、もう止めるつもりはないけど、せめてスミレがちゃんと使えるようなものにしなよ」
「ええ、街で売っているような物を探すわ。そうね、今度一緒に選びに行きませんこと?」
「ええ!?」

 スミレがぎょっと大声を上げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

落ちこぼれ公爵令息の真実

三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。 設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。 投稿している他の作品との関連はありません。 カクヨムにも公開しています。

美化係の聖女様

しずもり
ファンタジー
毒親の仕打ち、親友と恋人の裏切り、人生最悪のどん底でやけ酒を煽り何を思ったのか深夜に突然掃除を始めたら床がドンドンって大きく鳴った。 ゴメン、五月蝿かった? 掃除は止めにしよう、そう思った瞬間、床に現れた円のようなものが光りだした。 気づいたらゴミと掃除道具と一緒に何故か森の中。 地面には気を失う前に見た円が直径3メートルぐらいの大きさで光ってる。 何コレ、どうすればいい? 一方、魔王復活の兆しに聖女を召喚した王城では召喚された筈の聖女の姿が見当たらない。 召喚した手応えはあったものの目の前の床に描かれた魔法陣には誰も居ない。 もしかして召喚先を間違えた? 魔力の残滓で聖女が召喚された場所に辿り着いてみれば聖女はおらず。 それでも魔王復活は待ってはくれない。 それならば聖女を探しながら魔王討伐の旅へ見切り発車で旅する第二王子一行。 「もしかしたら聖女様はいきなり召喚された事にお怒りなのかも知れない、、、、。」 「いや、もしかしたら健気な聖女様は我らの足手まといにならぬ様に一人で浄化の旅をしているのかも知れません。」 「己の使命を理解し果敢に試練に立ち向かう聖女様を早く見つけださねばなりません。」 「もしかして聖女様、自分が聖女って気づいて無いんじゃない?」 「「「・・・・・・・・。」」」 何だかよく分からない状況下で主人公が聖女の自覚が無いまま『異世界に来てしまった理由』を探してフラリと旅をする。 ここ、結構汚れていません?ちょっと掃除しますから待ってて下さいね。掃除好きの聖女は無自覚浄化の旅になっている事にいつ気付くのか? そして聖女を追って旅する第二王子一行と果たして出会う事はあるのか!? 魔王はどこに? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 不定期更新になります。 主人公は自分が聖女だとは気づいていません。 恋愛要素薄めです。 なんちゃって異世界の独自設定になります。 誤字脱字は見つけ次第修正する予定です。 R指定は無しの予定です。

転生皇女はフライパンで生き延びる

渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。 使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。 ……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。 自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。 そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。 「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」 ※※※ 死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。 ※重複投稿作品※

クラス召喚されて助かりました、逃げます!

水野(仮)
ファンタジー
クラスでちょっとした騒動が起きていた時にその場に居た全員が異世界へ召喚されたみたいです。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

処理中です...