最強令嬢の秘密結社

鹿音二号

文字の大きさ
55 / 60

51:思いは口にして5

しおりを挟む
テリッツに手紙を書くと、すぐに返信が来た。

言い過ぎたことを悔やんで、また、ちゃんと話せる機会をくれたことに感謝するという文が添えてあった。
手紙は、気遣いに溢れている。

(信じてもいいのかしら……)

こうやって、気を使ってくれるほどには、ミズリィは嫌われていないと。

1週間後の学院が休みの日に、また皇家の馬車に乗って輪舞曲へと向かう。
緊張して、ろくに馬車の中では話せなかった。テリッツも無理に話そうとせず、まるで見守ってくれているような気がする。

エスコートされ店に入ると、イワンたちと初めて店に来た時よりお客の姿を見かける。
どうやら、噂を上書きする方法がうまく行ったようだ。

「誠にありがたいことに、例の代理人たちは来なくなりました」

輪舞曲を皇子が利用したという噂が社交界に広まった。
ただ利用しただけではすぐには噂が広まることはないけれど、協力者が夜会などで囁くと早さが変わるそうだ。数日であっという間に輪舞曲というティーサロンは皇子のお気に入りという話はあちこちで聞かれるようになり、敏感な貴族は輪舞曲を利用するようになった。

今回はさらにアピールして、噂を定着させる。

「よかったです。では、今度の皇宮の茶会の菓子をそちらのパティシエがご用意してくださいませんか?」
「な、なんと」
「本当に気に入りましてね。茶葉もどこのものかお聞きしたいですね」
「なんとも光栄なことです……!ありがとうございます!」

テリッツの笑みはいつもの通りで、何を思っているかはやはり分からなかった。けれど、騙したりする人ではないから、次の皇宮の茶会は輪舞曲のパティシエのお菓子が並ぶだろう……とても楽しみだ。

やはりオーナーの茶は香り高くて美味しい。
深々と礼をして、オーナーは退室した。

「前回は、君を不安にさせてしまってすみません」

しばらくお茶を楽しんだあと、ぽつりとテリッツが呟いた。
めずらしく、いつもより沈んだ表情のような。

「言葉を尽くしたつもりが、かえって誤解を招いたような気がするのです」
「……いえ、テリッツ様のお言葉を理解できなかったわたくしのせいですわ。帰ったあと、一生懸命考えたのですけれど……」

お茶会でのことだし、スミレたちは自分たちが相談を受けたことは伏せたほうがいいと言った。
はたして、『あくまでミズリィが一生懸命考えた結論』という嘘は通じるのか分からないけれど。

「もし、わたくしが、殿下の友人でしたら、ずっと仲良くしてくださいましたか?」
「……ええ、もちろん」
「テリッツ様は、わたくしとこの先ずっとパートナーとしていてくださるのですか?」
「それは――」

言い淀んだテリッツに、また臆病なミズリィはどきりとした。
けれど、すぐに、テリッツは話した。

「そのつもりです。そして以前よりも、君のことは好ましく思っています。よりはっきりと、未来の帝国と、君とのことを想像できるほどには」
「未来の帝国……」

それは、嫌な言葉だった。
ミズリィはその未来にたどり着けなかったし、スミレたちの予想では帝国は悪い方向へと向かわせられている。

けれど、テリッツは、未来を信じている。

彼は、少しの間ミズリィを見つめて、

「君は、どうしたいのですか?」
「え?」
「ずいぶん前から、私を避けていましたよね」
「あ……」
「最初は嫌われたのだと思いました。君は、私を恋愛対象としていたことは知っていましたし、それを黙って何もしない私に熱が冷めたのかと思いましたが……どうも違う」
「えっと……」

かなりドキドキし始めたミズリィ。
前世では貴方に裏切られました、とは言えるわけもない。

(スミレ助けて)

……どうしても友人のことを頼りたくなる。
これでは、いけない。また前と一緒になってしまう。

何か言わなければ、と口を開く。

「……わたくしは、テリッツ様が何を考えているかわからないのです」
「はい」
「それで……怖くなってしまって……」
「……君にとって、本当の私は異質な人間だったようですね」

テリッツが苦笑した。

「私は、皇帝となるように育てられた皇子です。何よりも先に帝国のことを優先します。以前の君にはそんな事を言っても無駄だと、最初から口にしはしていませんでした。もちろん、私の気持ちも」
「ええ、……だから、婚約者として大事にされていると思っていたのに、そうではなかったので……」
「君をないがしろにしていた……ということですね。それは謝らなければなりません。申し訳ありませんでした」

頭を下げられ、ミズリィ驚いてしまった。

「テリッツ様!?お顔を上げて」
「いえ、これだけは謝らせてほしい」

数十秒クリーム色の頭を見て、ミズリィは途方に暮れた。さっきとまた違うドキドキに息が詰まりそうになりながら。

「そのうえで、ミズリィ、君はどうしたいのでしょう」

顔を上げたテリッツは真剣な水色の瞳だ。

「この婚約は皇家とペトーキオの約束事です。おいそれと変更はできません。ですが、君がどうしてもというのなら……解消という手段もあるのです」
「……それは、考えたことは、実はあるのですわ」

そして考えても、自分がどうしたいかは分からなかった。

「自分でも、よくわからないのです……」

それはたぶん、自分がテリッツの婚約者をやめた姿が思いつかないからだ。ずっと、彼の隣にいたから。
やっぱり悲しくて、苦しい。
どうして前世の最期は、あんな冷たい目で見られなければならなかったのか。

頭の中がぐるぐるして、答えが出ない。
言葉をなくしたミズリィを見て、テリッツは優しく微笑んだ。

「……分かりました。今は保留ですね」
「え……?」

顔を上げると、テリッツはカップを持ち上げたところだった。

「正式な婚姻はミズリィが学院を卒業したあとです。それまでに、心を決めてくだされば良いかと」
「そう……なのですか?」
「焦っても良いことはないと思います。一国の未来を担うということは、それは大変なことですから、悩まれるのも当然です」
「テリッツ様も……悩まれたのですか」
「今もずっと悩んでいます」

そうなのか。
ミズリィが恋して眺めた彼は、いつも、皇子だった。
それは、悩んでいる姿を見たことがないからだ。

(きっと、努力されていたのね……)

やはり、テリッツは皇子だった。
ようやく、彼の本当の姿が見えてきた。

「……お言葉に甘えて、考えさせていただきます」
「私も、あなたに決めてもらえるよう、精進します」

そう言ってもらえるだけで、ミズリィの心は温かくなる。

やっと見てもらえた。
そう、思えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

落ちこぼれ公爵令息の真実

三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。 設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。 投稿している他の作品との関連はありません。 カクヨムにも公開しています。

美化係の聖女様

しずもり
ファンタジー
毒親の仕打ち、親友と恋人の裏切り、人生最悪のどん底でやけ酒を煽り何を思ったのか深夜に突然掃除を始めたら床がドンドンって大きく鳴った。 ゴメン、五月蝿かった? 掃除は止めにしよう、そう思った瞬間、床に現れた円のようなものが光りだした。 気づいたらゴミと掃除道具と一緒に何故か森の中。 地面には気を失う前に見た円が直径3メートルぐらいの大きさで光ってる。 何コレ、どうすればいい? 一方、魔王復活の兆しに聖女を召喚した王城では召喚された筈の聖女の姿が見当たらない。 召喚した手応えはあったものの目の前の床に描かれた魔法陣には誰も居ない。 もしかして召喚先を間違えた? 魔力の残滓で聖女が召喚された場所に辿り着いてみれば聖女はおらず。 それでも魔王復活は待ってはくれない。 それならば聖女を探しながら魔王討伐の旅へ見切り発車で旅する第二王子一行。 「もしかしたら聖女様はいきなり召喚された事にお怒りなのかも知れない、、、、。」 「いや、もしかしたら健気な聖女様は我らの足手まといにならぬ様に一人で浄化の旅をしているのかも知れません。」 「己の使命を理解し果敢に試練に立ち向かう聖女様を早く見つけださねばなりません。」 「もしかして聖女様、自分が聖女って気づいて無いんじゃない?」 「「「・・・・・・・・。」」」 何だかよく分からない状況下で主人公が聖女の自覚が無いまま『異世界に来てしまった理由』を探してフラリと旅をする。 ここ、結構汚れていません?ちょっと掃除しますから待ってて下さいね。掃除好きの聖女は無自覚浄化の旅になっている事にいつ気付くのか? そして聖女を追って旅する第二王子一行と果たして出会う事はあるのか!? 魔王はどこに? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 不定期更新になります。 主人公は自分が聖女だとは気づいていません。 恋愛要素薄めです。 なんちゃって異世界の独自設定になります。 誤字脱字は見つけ次第修正する予定です。 R指定は無しの予定です。

転生皇女はフライパンで生き延びる

渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。 使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。 ……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。 自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。 そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。 「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」 ※※※ 死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。 ※重複投稿作品※

クラス召喚されて助かりました、逃げます!

水野(仮)
ファンタジー
クラスでちょっとした騒動が起きていた時にその場に居た全員が異世界へ召喚されたみたいです。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

処理中です...