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聖山の調査(4)
しおりを挟む翌日も天気はよくて、するすると聖山に着いた。
調査期間中、寝泊まりは山のふもとですることになる。衛兵が昨晩使ったテントや、さらに簡単な施設も作って念入りに場所を整えている。
「え?遅れている?」
学院の代表は教師プリスラーだ。彼のもとに衛兵がやってきて、どうやら、教会の一団の到着が遅れているとのこと。
学院の生徒たち――ミズリィとメルクリニを含め全員が、教師のテントの前でそれを一緒に聞いた。
「何かあったのか、人員を派遣して道を引き返して確認してまいります。ですが、予定がおそらく延びそうなので……」
「それは仕方がありません。我らはのんびりと待っているだけで良いのですから、大丈夫です」
白髪交じりプリスラーは、言葉どおりの口調と表情で衛兵にそう言った。衛兵は了承の言葉を述べて、機敏に身を翻した。
「ということで、調査はおあずけのようです。せっかくの空いた時間です、この聖山と大精霊、そして大賢者の復習をするとしましょうか」
やはりゆったりとした口調で、プリスラーはその場で講義を始めた。
生徒たちもそのまま聞いているので、ミズリィとメルクリニも顔を見合わせてから耳をそばだてた。
――大賢者クリフトは、大精霊出現の報を聞いて、自分の魔法で封印を試みた。
異界の住人である大精霊がなぜこの世界に現れたのか?
未だに謎だけれど、おそらく年若い修道士が誤って召喚したのではないか、というのが今のところ有力な説だ。
「同時期に、教会がひとつ、原因不明で消滅しています。たしかな記録はないのですが……召喚魔法に熱心な司祭がいたということは知られていました」
大精霊は天候を操り、帝国に大きな災害をもたらした。嵐は幾度となく村々を壊し、吹雪で街を凍らせ、都に人を閉じ込めようと風が渦巻いた。
大賢者クリフトは、今でいう魔法と法術を合わせたような術を編み出し、討伐、あるいは封印を試みた。
結果、帝国の皇都の外れ、聖山アイフェアーズに大精霊を追い詰め、そこに封印した。
「……今回の調査は教会の法術使いの司祭がたと、聖山および封印の状態を調べることが目的です。主導されるのは司祭だということなので、我々はその指示通りに動きましょう。……ここまでで、何かご質問は」
……ミズリィは気になったことがある。
途中から気になりすぎて、ちゃんと話を聞いていたか不安だ。
「……何かあるのか?」
メルクリニがそっと横から聞いてきた。
ええと、と言葉に詰まっていると、見ていたらしいプリスラーが声をかけてきた。
「なんでもおっしゃってください」
「その……大賢者とおっしゃいましたが、クリフトは聖人ではないの……ですか?」
プリスラーの目が丸くなる。
やはり、ミズリィの浅はかな頭ではろくな質問にならなかったようだ。
「ご、ごめんなさい、気になさらないで……」
「よく勉強なさっていらっしゃるのですね」
けれど、プリスラーはうれしがっている。
「そうですね、意見が分かれる……といったところです。クリフトが何者かというのは、今も議論が交わされているところです」
「そう、なのですね」
「はい。公女様は教会の資料などをお読みで?」
「そ、そうですわ。そこには聖人と書かれていたので」
「教会ではクリフトを聖人だと言う方が多いのです。理由はおわかりですか?」
「たしか……今の法術の基礎を作ったのがクリフトだから、と」
「ええ。彼は大精霊が現れてから、魔法ではない術の研究にのめり込みました……そうして、今の法術の源流ともいえる術を体系化したのです。その功績により、特に修道士の方々は彼を聖人と呼びます。ですが……」
ここでプリスラーは全員の顔を見渡した。ちゃんと聞いているか確認したのだろうか。
「正式には、彼は司祭ではなかった。教会が定めた列聖には加わっていないのです。ですから、教会でも意見が分かれ、我々魔術師の間でも議論されたままです。ちなみに、」
にこり、と屈託なく笑う。
「学院長は私と違い、聖人と呼びます。ここで少しばかり不幸な行き違いがあったので……学院長の前では、クリフトを大賢者とは呼ばないほうがいいでしょう」
プリスラーのいう不幸な行き違いとはなにかはわからないが……
(そういえば、前の大精霊討伐の際に、学院長は聖人と言っていたわ)
教会の資料もたくさん読んで、だからミズリィは思い込んでいたようだ。
事情が分かっているらしい生徒の一人が、小さく苦笑している。
……どうやら、学院長の前では呼び方は間違ってはいけないようだ、とメルクリニが教えてくれた。
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