鎌倉黒猫カフェ クロスオーバー

櫻井千姫

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第四話 290円の贅沢チーズケーキ

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 鎌倉というとふつうの人は、何を思い浮かべるだろうが。

 長谷寺の紫陽花。円覚寺や建長寺の紅葉。大仏に小町通り、鶴岡八幡宮に由比ガ浜。土日になると江ノ電には観光客が鈴鳴りで、都心からもアクセスが良い、手軽な観光地、京都よりもずっとハードルが低くてかつ映える古都。そういうイメージを持つ人が多いと思う。


 でも、当たり前だけど鎌倉にも人が住んでいて、その人たちすべてが土日に観光できるほど、余裕があるわけじゃない。


 鎌倉でも山側、大船方面には電気機器メーカーの工場がたくさんあって、俺はそこの契約社員だ。

毎日毎日、頭がおかしくなりそうなほどの単調なライン作業。みんな死んだ目で作業している。ちょっとでもミスをすると社員さんからの激が飛び、いつ怒られるかとびくびくしながら一日を過ごさなきゃいけない。

 そんな仕事でも、失うとなればやはり堪える。


「細川(ほそかわ)清隆(きよたか)くん、だっけ。君はたしかによくがんばっていて、うちに必要な人材ではある、あるんだけど……このご時世だから、会社の業績が傾いちゃってね。ここの工場も人員削減しないといけなくて……わかるよね?」

「ええ、まあ」


 今年も残すところあと十日となった日、出勤してすぐ俺は工場長に呼ばれた。五十をひとつかふたつ過ぎたと思われるその人は、申し訳なさそうに俺を見る。本当は一ミリもそんなこと思ってないくせに。


「この前の決算で、本当にまずいことがわかって。細川くんみたいに若くて、すぐに次の仕事が見つかりそうな人には、どんどん辞めてもらおうってなったんだ。というわけで、今までお疲れ様でした。年内いっぱいでお別れです」


 頭まで下げられたら、こっちはもう何も言い返せない。お別れ、なんて感傷的な言葉でまとめようとするな。その禿げ上がった頭頂部を見せつけられると、苛立ちが増すからやめてくれ。

 なんてことはもちろん言えず、午前中の仕事を終え、食堂で具が何も入ってない手作りのおにぎりを食べていると、隣から声が聞こえてきた。


「現代の派遣切りかよ。まじダルい」
「今は人手不足だし売り手市場だから大丈夫だよ、とか言われたし。ここにいる奴ら、全員そんなの関係ねえってわかってるくせにさあ」


 どうやら、本当に俺だけでなく、あまたの若い派遣が同じ目に遭っているらしい。自分だけじゃない、というのはこの場合何の慰めにもならないが。


「……年、越せるのかなあ」

 百均の塩こしょうをふって、かろうじて味をつけただけの米を飲み込む。俺の人生に、甘味はない。

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