君と交わした約束

第4話

　翌日から、勇人は放課後の時間を使って、デザインのスケッチを始めた。机に向かい、紙と鉛筆を手に取ると、久しぶりに心の中にイメージが広がるのを感じた。ホラーハウスのテーマに合うように、不気味な森や暗い通路、ねじれた木々の影など、彼独自の幻想的なタッチが次々と紙に描いていく。
　絵を描きながら、昔の記憶が蘇ってきた。小さな頃、転校生だった自分は友達ができず、一人で過ごすことが多かった。
　昔を思い出していると、ふと少女のシルエットが頭に浮かんだ。一体誰だろうか？ひょっとしたら、紗奈かもしれない。しかし、それ以上は何も思いだすことはなかった。
　ホラーハウスのデザインが進む中、勇人は徐々に周囲のメンバーとも打ち解け始めていた。彼のデザインを基にして、杏奈や大輝が装飾を手伝ってくれることで、次第に形が見えてくる。体育館の入り口には、勇人が描いた不気味な森の絵が掲げられ、内部の壁にも彼のスケッチが反映されていった。

「すごい！ 相川君、本当に上手だね！ このデザインなら、ホラーハウス絶対成功するよ！」

　杏奈は嬉しそうに声を上げ、勇人のデザインを眺めていた。彼女の無邪気な称賛に、勇人は少し照れくさそうに笑った。

「……ありがとう。でも、みんなが手伝ってくれたおかげだよ」

　勇人は謙遜しながらも、少しずつ自分自身を認められるような感じがしてきていた。自分が描いたものが他人に認められ、文化祭の一部として形になる――それは、彼にとって初めてでとても満足のいく感覚だった。

　和真も冷静にスケッチを眺め、満足そうに頷いていた。

「この調子なら、ホラーハウスは間違いなく成功だ。相川。お前に頼んでよかったよ」

　和真の言葉に、勇人は小さく笑って「ありがとう」と返事をした。

　ホラーハウスのデザインが順調に進んでいたある日、放課後の生徒会室で勇人が作業を終えていると、紗奈がそっと近づいてきた。

「相川君、もう一つお願いがあるんだけど……」

　紗奈は笑顔を浮かべながら、勇人に一枚の紙を手渡した。それは、文化祭で行われる「アート展」のポスターだった。

「アート展の看板、相川君にデザインしてもらえないかな？ 君の絵、すごくいいから、絶対に素敵な看板ができると思うんだ」

紗奈の言葉には確かな信頼が込められていた。彼女が自分を信じている――それが、勇人をさらに奮い立たせた。

「……俺でいいのか？」

「もちろんだよ。相川君のセンスなら、みんなを驚かせるようなデザインができると思う」

　紗奈の言葉を受け、勇人は期待に応えたいと思った。
　こうして、勇人はアート展の看板デザインを引き受けることになった。
　数日後、勇人の手によってデザインされたアート展の看板が完成した。鮮やかな色彩と彼独自のタッチで描かれた看板は、アート展のテーマにぴったりの仕上がりとなっていた。

「すごい！ 相川君、やっぱり上手だね！」

　紗奈は微笑みながら、勇人に感謝の言葉を伝えた。その笑顔に、勇人は充実感と達成感を感じていた。

「ありがとう。君のおかげで、また絵を描く楽しさを思い出せたよ」

　勇人は心から感謝した。
　文化祭の準備を通じて、勇人は少しずつクラスメイトや他の生徒たちとも自然に話すようになっていった。彼がこれまで避けていた「関わり」が、徐々に日常の中に溶け込んでいく。
　それは決して劇的な変化ではなかったが、確実に彼の中で何かが変わりつつあった。以前のように孤独を感じることが少なくなり、周囲との交流が少しだけ楽しいものに感じられるようになっていた。

　だが、それと同時に、勇人は紗奈の言葉が頭の中で何度も反響していた。「昔会ったことがあるよね？」という言葉――勇人には、どうしてもその記憶がよみがえらない。それどころか、紗奈が自分に対して抱いている「懐かしさ」の理由が、ますますわからなくなっていた。