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先祖返りの真祖
セレーネ・クリムソン
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クローム王国王都カラーキャピタルにあるクリムソン侯爵家の屋敷にて、一つの事件が起こった。
クリムソン家次女セレーネ・クリムソンが二歳になった日。一緒に遊んでいた五歳年上の友人の首に噛み付いたのだ。ただの乳歯なら、そこまでの怪我にはならないはずだったが、その時のセレーネは犬歯が鋭くなっていた。
そして、友人の首から流れる血を飲み始めた。それは、まるで吸血鬼のようだったという。
────────────────────
『亜人の特徴──吸血鬼編──』
人族と異なる特徴を持った人の事を亜人と呼ぶ。その中で、血を吸う事により、魔力や栄養を補給出来る種族を吸血鬼族と言う。一般的な吸血鬼は、太陽光を直接肌に浴びる事によって火傷を負う。酷い場合では、そのまま灰へと変わっていく者もいる。
そんな中で、太陽光の下、平然と過ごせる吸血鬼もいる。真祖と呼ばれる者達だ。その数は、かなり少ない。
真祖の特徴として太陽光の克服の他に、永劫の時を生きるというものがある。ある年齢から誇張抜きの不老不死となるのだ。基本的には不死身であり、純銀で心臓を貫かれない限り死ぬ事はない。
元来身体が頑丈な吸血鬼族だが、体内を巡る魔力を消費して、自身の肉体を強化する事も出来る。そのため、超人的な身体能力を有する。力を制御出来ない者は、常に強化している状態となり、魔力消費し続ける事になる。
吸血鬼族は、体内の魔力が枯渇すると、その補給のために血を飲みたいという欲求が生まれる。それを吸血衝動と呼ぶ。吸血衝動は、本能に基づくものであり、抗うことの出来ない衝動とされている。
真祖が最初に吸血した相手は、眷属と呼ばれる吸血鬼になる。眷属は、真祖と同じく太陽光を克服しており、永劫の時を生きる。真祖と時を共にする存在という事で眷属と呼ばれている。眷属は、真祖の血を貰う事で、より繋がりを強固にしていく事が出来る。繋がりを強固にした眷属は、さらに力を上げる事が出来る。
吸血鬼族は、必ずしも血を吸わないと生きていけないわけではない。太陽光を浴びて得られる栄養と魔力は、月光より得られる。真祖に至っては、太陽光と月光のどちらからでも栄養を作る事が出来る。血液は、嗜好品と緊急時の栄養補給、魔力補給という側面が強い。
吸血鬼族から生まれる子供は、全てが吸血鬼族になる訳では無い。これは全ての亜人に共通する事である。原則として、人族との子供は人族となる。亜人同士の子供は、より環境に適した特性を持ち生まれる。そして、吸血鬼族の優先順位はかなり低い。暮らせる環境で言えば、人族と変わらないからだ。
一度吸血鬼族が交わった血縁には先祖返りとして、吸血鬼族が生まれる事がある。その確率はかなり低い。……………………
────────────────────
クローム王国の辺境にある街レッドグラス。クリムソン侯爵領にある中央に川が流れている大きな街だ。そこにある屋敷には、金色の綺麗な髪とルビーのように輝く赤い眼をした少女がいた。その少女の身体には、全体に広がるように赤い紋様が刻まれていた。
その少女は、五歳となったセレーネだった。顔の一部にまで紋様は刻まれており、その姿はただの子供とは思えないようなものだった。
そんなセレーネは、遮光カーテンを閉め切った自分の部屋の床で本を読んでいた。そのタイトルには、『亜人の特徴──吸血鬼編──』と書かれていた。そして、それを読んでいるセレーネの表情は暗い。
(これが私……初めての吸血で眷属に……)
セレーネには、忘れられない記憶がある。全く思い出せない事の方が多いが、この記憶だけは鮮明に残っている。それは、初めての吸血。一緒に遊んでいた……正確に言えば、一緒に遊んでくれていた友人に噛み付いてしまった。
(あの時……私に自分の意識はなかった……あれが本能……吸血衝動……)
セレーネは自分の力が恐ろしかった。恐ろしく感じ始めたのは、つい最近。五歳になった後の事だった。それまでの教育によって、自分の力がどういうものなのかを理解出来るようになってしまった。それが故に、自分がやってしまった罪も自覚してしまったのだ。
セレーネは、何度もこの本を読み返している。読み返しては、自己嫌悪に陥っていた。そんなセレーネに影が差す。照明遮られた事で、セレーネが顔を上げる。
そこには、縞模様のある赤茶色の髪に猫耳と猫尻尾を生やした猫人族のカノン・アガットがいた。カノンは、つい最近雇われたセレーネお付きのメイドだ。前までは、サマンサ・バーミリオンという生まれた時から面倒を見てくれたメイドがいたのだが、サマンサが侍従長の役職に就いたため、新しく雇ったのだ。現在十五歳。学園の高等部を卒業したばかりで、セレーネとも年齢が近いという事も雇用した理由の一つだった。
「お嬢様、読書ですか?」
「うん……」
カノンは、本のタイトルを確認する。
「吸血鬼族について調べていたのですね」
「うん……」
カノンは、セレーネの隣に座る。座高の違いから、目線を合わせる事は出来ないのだが、限りなく近づく事は出来る。
「何か分かりましたか?」
「私がやっちゃった事……」
「やっちゃった事……なるほど。お嬢様は後悔されているのですね」
「うん。何も知らなかったで、済むような事じゃないよね?」
上目遣いに訊くセレーネの頭をカノンは優しく撫でる。
「そうですね。お嬢様は真祖ですから、最初の吸血は、相手の未来にも影響する事になります。ですが、それで済む済まないは、お相手の気持ち次第でしょう」
「気持ち?」
「はい。お嬢様は、お相手に会いましたか?」
「……会ってないと思う。学園に行っちゃったし、私はこっちに引っ越してきたし……」
「では、お相手がお嬢様を恨んでいるかどうかも分からないという事です。違いますか?」
「そうだけど……」
そう言いながら、セレーネは顔を伏せる。自分が相手だったら、少しは恨みを抱くと考えてしまったからだ。
「お相手の気持ちも分からないのに、マイナスのイメージで考えてしまうのは、お相手に失礼ですし、ご自身にとっても良くない事ですよ」
「失礼……?」
「はい。失礼です。特にお相手が何も思っていなかった場合を考えてみてください。勝手に、お相手は自分を恨むような人だと決めつける事になります。お相手は、お嬢様を嫌うような方なのですか?」
「……っ! 違う! マリアは優しいもん……」
少し尻すぼみになりながら、セレーネが反論する。
「じゃあ、必要以上にご自身を責める事はやめましょう。もっと有意義な事を考えるべきです」
「ゆういぎ……?」
「簡単に言えば、意味のあることです。そうですね……お嬢様の興味のあること……眷属からの解放でしょうか」
「そんな事出来るの!?」
セレーネは、カノンに詰め寄る。ジッと目を見られるので、カノンは少し気圧されつつも両手を横に振る。
「わ、分かりません。そこまで吸血鬼族に詳しい訳ではありませんので、眷属に変化する原理も分かりませんし」
「そう……」
償いを出来るかもしれないと思ったセレーネだが、カノンの答えを聞いて落胆する。だが、そのセレーネを再び発奮させるのも、カノンの言葉だった。
「分からない事は調べるしかないですね。それか、自分で新しく見つけるという方法もあります。この世界には、まだまだ謎に包まれた事がいっぱいです。もしかしたら、色々と調べていくうちに、その答えを見つけ出せるかもしれませんよ」
「自分で……見つける……?」
その言葉は、セレーネにとって、一つのきっかけになった。研究というセレーネにとっての生き甲斐に出会うきっかけに……
クリムソン家次女セレーネ・クリムソンが二歳になった日。一緒に遊んでいた五歳年上の友人の首に噛み付いたのだ。ただの乳歯なら、そこまでの怪我にはならないはずだったが、その時のセレーネは犬歯が鋭くなっていた。
そして、友人の首から流れる血を飲み始めた。それは、まるで吸血鬼のようだったという。
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『亜人の特徴──吸血鬼編──』
人族と異なる特徴を持った人の事を亜人と呼ぶ。その中で、血を吸う事により、魔力や栄養を補給出来る種族を吸血鬼族と言う。一般的な吸血鬼は、太陽光を直接肌に浴びる事によって火傷を負う。酷い場合では、そのまま灰へと変わっていく者もいる。
そんな中で、太陽光の下、平然と過ごせる吸血鬼もいる。真祖と呼ばれる者達だ。その数は、かなり少ない。
真祖の特徴として太陽光の克服の他に、永劫の時を生きるというものがある。ある年齢から誇張抜きの不老不死となるのだ。基本的には不死身であり、純銀で心臓を貫かれない限り死ぬ事はない。
元来身体が頑丈な吸血鬼族だが、体内を巡る魔力を消費して、自身の肉体を強化する事も出来る。そのため、超人的な身体能力を有する。力を制御出来ない者は、常に強化している状態となり、魔力消費し続ける事になる。
吸血鬼族は、体内の魔力が枯渇すると、その補給のために血を飲みたいという欲求が生まれる。それを吸血衝動と呼ぶ。吸血衝動は、本能に基づくものであり、抗うことの出来ない衝動とされている。
真祖が最初に吸血した相手は、眷属と呼ばれる吸血鬼になる。眷属は、真祖と同じく太陽光を克服しており、永劫の時を生きる。真祖と時を共にする存在という事で眷属と呼ばれている。眷属は、真祖の血を貰う事で、より繋がりを強固にしていく事が出来る。繋がりを強固にした眷属は、さらに力を上げる事が出来る。
吸血鬼族は、必ずしも血を吸わないと生きていけないわけではない。太陽光を浴びて得られる栄養と魔力は、月光より得られる。真祖に至っては、太陽光と月光のどちらからでも栄養を作る事が出来る。血液は、嗜好品と緊急時の栄養補給、魔力補給という側面が強い。
吸血鬼族から生まれる子供は、全てが吸血鬼族になる訳では無い。これは全ての亜人に共通する事である。原則として、人族との子供は人族となる。亜人同士の子供は、より環境に適した特性を持ち生まれる。そして、吸血鬼族の優先順位はかなり低い。暮らせる環境で言えば、人族と変わらないからだ。
一度吸血鬼族が交わった血縁には先祖返りとして、吸血鬼族が生まれる事がある。その確率はかなり低い。……………………
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クローム王国の辺境にある街レッドグラス。クリムソン侯爵領にある中央に川が流れている大きな街だ。そこにある屋敷には、金色の綺麗な髪とルビーのように輝く赤い眼をした少女がいた。その少女の身体には、全体に広がるように赤い紋様が刻まれていた。
その少女は、五歳となったセレーネだった。顔の一部にまで紋様は刻まれており、その姿はただの子供とは思えないようなものだった。
そんなセレーネは、遮光カーテンを閉め切った自分の部屋の床で本を読んでいた。そのタイトルには、『亜人の特徴──吸血鬼編──』と書かれていた。そして、それを読んでいるセレーネの表情は暗い。
(これが私……初めての吸血で眷属に……)
セレーネには、忘れられない記憶がある。全く思い出せない事の方が多いが、この記憶だけは鮮明に残っている。それは、初めての吸血。一緒に遊んでいた……正確に言えば、一緒に遊んでくれていた友人に噛み付いてしまった。
(あの時……私に自分の意識はなかった……あれが本能……吸血衝動……)
セレーネは自分の力が恐ろしかった。恐ろしく感じ始めたのは、つい最近。五歳になった後の事だった。それまでの教育によって、自分の力がどういうものなのかを理解出来るようになってしまった。それが故に、自分がやってしまった罪も自覚してしまったのだ。
セレーネは、何度もこの本を読み返している。読み返しては、自己嫌悪に陥っていた。そんなセレーネに影が差す。照明遮られた事で、セレーネが顔を上げる。
そこには、縞模様のある赤茶色の髪に猫耳と猫尻尾を生やした猫人族のカノン・アガットがいた。カノンは、つい最近雇われたセレーネお付きのメイドだ。前までは、サマンサ・バーミリオンという生まれた時から面倒を見てくれたメイドがいたのだが、サマンサが侍従長の役職に就いたため、新しく雇ったのだ。現在十五歳。学園の高等部を卒業したばかりで、セレーネとも年齢が近いという事も雇用した理由の一つだった。
「お嬢様、読書ですか?」
「うん……」
カノンは、本のタイトルを確認する。
「吸血鬼族について調べていたのですね」
「うん……」
カノンは、セレーネの隣に座る。座高の違いから、目線を合わせる事は出来ないのだが、限りなく近づく事は出来る。
「何か分かりましたか?」
「私がやっちゃった事……」
「やっちゃった事……なるほど。お嬢様は後悔されているのですね」
「うん。何も知らなかったで、済むような事じゃないよね?」
上目遣いに訊くセレーネの頭をカノンは優しく撫でる。
「そうですね。お嬢様は真祖ですから、最初の吸血は、相手の未来にも影響する事になります。ですが、それで済む済まないは、お相手の気持ち次第でしょう」
「気持ち?」
「はい。お嬢様は、お相手に会いましたか?」
「……会ってないと思う。学園に行っちゃったし、私はこっちに引っ越してきたし……」
「では、お相手がお嬢様を恨んでいるかどうかも分からないという事です。違いますか?」
「そうだけど……」
そう言いながら、セレーネは顔を伏せる。自分が相手だったら、少しは恨みを抱くと考えてしまったからだ。
「お相手の気持ちも分からないのに、マイナスのイメージで考えてしまうのは、お相手に失礼ですし、ご自身にとっても良くない事ですよ」
「失礼……?」
「はい。失礼です。特にお相手が何も思っていなかった場合を考えてみてください。勝手に、お相手は自分を恨むような人だと決めつける事になります。お相手は、お嬢様を嫌うような方なのですか?」
「……っ! 違う! マリアは優しいもん……」
少し尻すぼみになりながら、セレーネが反論する。
「じゃあ、必要以上にご自身を責める事はやめましょう。もっと有意義な事を考えるべきです」
「ゆういぎ……?」
「簡単に言えば、意味のあることです。そうですね……お嬢様の興味のあること……眷属からの解放でしょうか」
「そんな事出来るの!?」
セレーネは、カノンに詰め寄る。ジッと目を見られるので、カノンは少し気圧されつつも両手を横に振る。
「わ、分かりません。そこまで吸血鬼族に詳しい訳ではありませんので、眷属に変化する原理も分かりませんし」
「そう……」
償いを出来るかもしれないと思ったセレーネだが、カノンの答えを聞いて落胆する。だが、そのセレーネを再び発奮させるのも、カノンの言葉だった。
「分からない事は調べるしかないですね。それか、自分で新しく見つけるという方法もあります。この世界には、まだまだ謎に包まれた事がいっぱいです。もしかしたら、色々と調べていくうちに、その答えを見つけ出せるかもしれませんよ」
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