先祖返りの吸血鬼は、気ままに研究がしたい

月輪林檎

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先祖返りの真祖

初めての夏祭り

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 それから、さらに一ヶ月が経った。季節は夏になり、暑い日射しが地面に降り注ぐようになっている。セレーネの部屋では、空気調節装置を使って室温を適温に調節している。
 ミーシャによる講義は、本当に不定期に行われた。リーシアの眷属として、色々と活動する必要があるので定期的に行う事は出来ないのだ。それでも、内容は濃く、セレーネの知識も潤ってきていた。
 カノンによる通常授業、レイアーによる魔術授業、キリルによる護身術も順調に進んでいた。
 魔術に関しては、操る【水球】の数が四つに増えて、大分魔力の操作が上手くなってきていた。セレーネも自分が成長している事を実感して嬉しくなっていた。
 そして、今日は、これまでに無かった事がある。それは、街で行われる祭りだ。夕方のセレーネの部屋において、セレーネはベッドに腰を掛けて脚を揺らしていた。

「カノン! 早く! 早く!」
「そんなに急いでもお祭りは始まっていませんよ。それよりも、しっかりと準備しないと」

 カノンは、自分の顔にセレーネの封印と同じような化粧をしながらそう言う。それを見て、セレーネは頬を膨らましていた。

「最近外出してないもん! 早く行きたい!」
「最近は魔術の方に夢中でしたからね。よし」

 化粧を終えて、今度はセレーネの服装チェックをし、最後に荷物のチェックをする。

(食事は屋台で済ませるとして、下着の替えを複数用意して、普通の着替えは一着で良いか。夏になるとはいえ、肌寒くなる可能性を考えて、ポンチョも用意した。虫除けは塗ってあるから大丈夫だとして……あっ、念のため、これも持っていこう。大体このくらいで良いかな)

 荷物の確認を済ませたカノンは、バッグを肩に掛ける。

「少し早いですが、行きましょうか」
「うん!」

 初めてのお祭りに大興奮のセレーネだった。カノンは、迷子にならないようにセレーネと手を繋ぐ。そうしながら、屋敷の歩いていると、正面からキリルが歩いてきた。

「お嬢。これからお出かけですかい?」
「うん。キリルは、お祭りに行かないの?」
「無理言わんでください。俺は、まだ仕事が残ってるんで」
「ふ~ん……カノンは仕事だから一緒に来れるの?」
「そういう事です。では、行ってきます」
「行ってきます」
「楽しんできてくだせぇな」

 セレーネは、キリルに手を振って屋敷を後にした。
 カノンと一緒に歩くセレーネは、周囲の様子が普段と違う事に気付く。

「これがお祭り?」
「はい。いつも以上に屋台があります。その代わり、当たり外れもありますから、買うものやお店はしっかりと見極めないといけません」
「へぇ~」
「ちゃんと考えて買い物をしないといけません。まぁ、まずは腹拵えからしていきましょう」
「うん!」

 セレーネとカノンが最初に買ったものは、ベビーカステラだった。小さなホットケーキのようなお菓子は、セレーネの口にも合っており、一口で気に入った。

「あまり食べ過ぎると、それだけでお腹一杯になってしまいますよ」
「んっ! じゃあ、止めとく」

 そう言いながらも、セレーネは紙袋の半分近くベビーカステラを食べていた。

(ここまで気に入ってくれるなら、料理長と相談して、おやつに作って貰おうかな)

 セレーネのおやつレパートリーが増えた瞬間だった。カノンは、ベビーカステラの袋を厳重に閉じて、鞄の中に仕舞う。後でセレーネがまた欲しくなる可能性を考えての事だ。残れば、自分の夜食にすれば良いという考えもある。

「それでは、次の屋台に向かいましょう。お嬢様。移動の際は絶対に手を離さないようにお願いします」
「うん!」

 それから日が沈むまで、様々な屋台を巡っていく。わたあめ。お好み焼き。フランクフルト。フライドポテトなどをカノンとシェアしながら食べていく。

(的確に持ち帰れないものを選ぶ……まぁ、美味しいから仕方ないか。フライドポテトは厳重に閉じて鞄に入れておこう)

 カノンは割と健啖家なので、このくらいではお腹一杯にはならない。だが、セレーネの方は違う。

「お腹一杯……」
「では、花火を観る場所に移動しますか?」
「うん!」

 祭りの最後の花火だけは、屋敷の部屋から観た事がある。なので、外で観られる事も楽しみしていたのだった。花火の時間までは、まだあるが、セレーネが満腹になった以上、このまま屋台の並ぶ道にいても仕方ない。
 既に日も沈み、街には街灯だけが照らす道をセレーネとカノンは歩いていく。

「全然人がいないね」
「まだ花火まで大分時間がありますからね。向こうに人が集中しているのです。もう少し経てば移動する人達が増えますよ。今日は新月ですから、移動する時間も早くなると思いますが」
「ふ~ん……あっ、カノン。魔動車だよ」

 セレーネが指さす方には、一台の魔動車が駐まっていた。

 魔動車とは、魔力を動力源にした車である。世界中に広まってはいるが、その所有者は商会や一部の貴族に限られる。その要因は、魔物の存在である。街の外壁から出れば、魔物に襲われる可能性が高くなる。そうなれば、ただでさえ高価な魔動車が魔物に襲われて破損すれば、その分損失は大きくなる。一般市民が買うのを躊躇う理由は、そこにあった。
 商会が所有するのは、商品の輸送を自由に進めるためだ。大規模輸送には向かないもののある程度の数であれば、魔動車による輸送が向いているとされている。
 貴族が所有する理由は、街間の移動を素早く行うためだ。多少の危険が付きまとうが、その危険を承知で利用しなければならない時があるのだ。

 魔動車自体は、街の車道にある分には珍しくない。だが、ヘッドライトが点灯したまま放置されているのは珍しかった。

「本当ですね。どこかの屋台の魔動車ですかね。基本的には、消灯しておくものなのですが」
「あそこに商品が入ってるの?」
「そうですね。屋台程度でしたら、あのくらいの魔動車でも十分に回せるのでしょう。通常の店舗になれば、魔動車ではなく魔動列車による輸送が基本になります」

 魔動列車とは、魔力を動力源にした列車である。貨物車と客車が繋がっており、街間における商品の輸送や人の輸送を担っている。こちらも魔物の襲撃などがあり、時間通りに運行しない事があるが、普通に歩いて移動するよりも遙かに速く安全に移動する事が可能となる。
 一般市民でも十分に乗車出来る値段設定になっており、利用客は多い。だが、先述の通り時間通りの運行が難しいという事もあり、急ぎの移動には魔動車の方が向いている。
 魔動列車の駅は、基本的に街の入口付近に建てられている。

「いや……でも、今日は祭りですから、魔動車に乗せられる量では足りない気も……いえ、これは考えても仕方ないでしょう」
「ふ~ん」

 そんな魔動車を尻目にセレーネ達は花火が見やすい場所へと移動していく。その中で、カノンの猫耳が細かく揺れている事にセレーネは気付かなかった。
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