捨てられた王女は魔道具職人を目指す

月輪林檎

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捨てられた王女

試験終了

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 アルに勝利したマリーは、戦闘が終わったことでホッと息を吐く。同時に、アルを斬った剣を自分のポーチに仕舞った。

『うおおおぉぉぉぉぉ!!』
『カストルに勝ったぞ!』
『ラプラスってことは、大賢者様と関係があるのか!?︎』
『今年の新入生は、ヤバイ奴が多すぎだろ!?︎』

 マリーの勝利に、観客席が大騒ぎだ。マリーが戸惑っていると、試験官がマリーの元にやってきた。

「試験はこれで終わりです。今日の所は帰ってもいいですし、別室で試験を見る事も出来ます。こちらの通路を通って、案内板に従ってください」
「わかりました。ところで、アルくんは、大丈夫なんですか?」

 マリーは、気絶しているアルを心配する。

「ええ、大丈夫です。起きるまでは医務室のベッドにいてもらいます。そろそろ救護班がやって来ますので、ご心配なく」
「いや、それには及びません」

 マリーが声のする方を見ると、アルが起き上がっていた。少しふらつきながらも、手を借りずに立っている。

「流石ですね。異常はないですか?」
「はい、大丈夫です。では、試験の邪魔になってしまうので、俺達は、これで失礼します」
「失礼します」

 マリーとアルは、試験官に一礼をして通路を通る。

「アルくん、大丈夫?」
「ああ、平気だ。しかし、マリーは、面白い魔法を使うな。いや、あれは魔道具か?」

 アルは、マリーの使った剣を操る魔法について訊く。

「剣を動かしているのは、魔法だよ。使った剣は魔道具だけど、その力は使ってないからただの剣みたいなものだね」
「見た事も聞いた事もない魔法だな」
「私のオリジナルだもん。使っている人がいたら、私がびっくりだよ」

 魔法は、基本的に汎用性の高い魔法が普及している。ただ、マリーのように、誰も使った事のない魔法やその人しか使えない魔法などは、オリジナルと呼ぶ事が多い。また、血統で受け継ぐ魔法もオリジナルと呼ばれる。

「その歳で、既にオリジナルを持つとは驚きだな」
「まぁ、五歳から学んでるからね」
「なるほどな。五歳から大賢者様の指導を受けていたのか。なら、その強さも納得だ」

 マリーとアルは、模擬戦の事などを話しながら通路を進んで行く。すると、分かれ道に辿り着いた。そこには、案内板が張り出されている。片方は出口方面で、もう片方は観戦部屋がある方だ。

「どちらに行くんだ?」
「多分、友達が観戦部屋にいると思うから、こっちに行く」
「なら、俺もそうしよう」
「帰らないの?」
「マリーの友人にも興味があってな」

 マリーの友人は、マリーと同じように強い人物だと思い、アルは興味を抱いていた。そうして、二人で観戦部屋に向かっている中、マリーはふとある事を思い出した。

「そういえば、アルくん。さっきの模擬戦で手抜いたでしょ。手加減しないって言ってたのに」
「バレたか。しかし、剣術においては、本気でやったぞ。手を抜いたのは、魔剣術を使わなかっただけだ」

 マリーは、アルと戦っていて、妙な違和感を抱いていた。アル自身の強さは、認識出来ていたのだが、少し歪な感じを受けたのだ。それは、模擬戦の前に話していた魔剣術をアルが使っていなかったからだった。

「そういえば、それも話の途中だったね。結局、魔剣術って何なの?」

 マリーは、結局聞けなかった魔剣術について訊く。

「魔剣術は、俺達カストルの人間だけが受け継いでいるオリジナルだ。簡単に言えば、魔法を剣に乗せて斬るって事だな」
「へぇ~、何で使わなかったの?」
「あれは、一応、魔物討伐用の技だからな。人相手に使う事は滅多にないんだ。威力が高すぎる」
「そうなんだ」

 そんな事を話していると、観戦部屋に辿り着いた。闘技場からは、十分程の距離にあった。部屋のドアを開けると、待機室にあったのと同じ幕に映った映像を少人数が見ていた。ほとんどの人は、既に帰った後のようだ。

「マリー!」

 マリーに気づいたコハクが、マリーに抱きついた。

「コハク、どうしたの?」

 マリーは、コハクの頭を撫でながら訊くと、

「心配したんだよ。危ういところもあって、ハラハラしたんだから」
「あはは、ごめんごめん」

 映像で見ていて、マリーが、アルに斬られそうになるところなどを見て焦ったらしい。少しすると、コハクがマリーから離れる。そして、隣にいるアルに目線がいき、それがマリーの対戦相手だった事に気付くと、驚いて身構えた。

「えっ? マリーの対戦相手の人? 何でここにいるの?」
「気絶してたけど、すぐに目を覚ましたんだ。コハクとも話したいらしいよ」
「はじめまして。俺は、アルゲート・ディラ・カストル。アルと呼んでくれ」
「あっ、はじめまして、コハク・シュモクと申します。コハクとお呼び下さい」

 コハクは、アルに対して敬語で返す。アルが、侯爵家の人間である事を知っているのだろう。マリーと違い、両親から聞かされていたのだろう。

「敬語はいらないぞ」
「ですが……」
「堅苦しいのは、嫌いなんだ。マリーなんて、侯爵だと知っても敬語を使わないぞ」

 そう言われているマリーは、スッと目を逸らす。正直なところ、侯爵だと言われてもピンと来ていなかった。その前に、カーリーから王族の血を引いていると言われていたせいなのかもしれない。

「う~ん……わかった。よろしくね、アルさん」
「ああ、よろしく頼む」

 最初こそ遠慮気味だったコハクだが、アルと話していると、段々打ち解けていった。

「では、あの動きは素の身体能力というわけか」

 二人の話は、コハクの試合の話になっていた。アルも待機室で、コハクの試合を観戦していたのだ。

「そうだよ。でも、あのくらいの動きだったら、マリーにも出来るよね」
「うん。剣とかは振れないけど、走るのは得意だよ。決して、運動出来ないってわけじゃないから」
「だが、模擬戦では、ほとんど動かなかったな」
「疲れるからね。相手との体力差を考えて行動しなさいってお母さんの教えだよ。アルくんは、近接攻撃を主体とするだろうから、体力はあるだろうし、いざという時のために温存しときたかったんだよ」

 そんな風に他愛のない事を話していると、今日の試験が全て終わったようだった。観戦室も閉まってしまうので、マリー達は、話しながら校門まで歩いていく。
 すると、校門には、何故か大きな人だかりが出来ていた。ものすごく騒がしい。

「なんだろう?」

 コハクが首を傾げている。しかし、マリーは、あの人だかりが何で出来ているかがわかってしまった。

「多分、お母さんだね」
「十中八九そうだろうな」

 マリー達が校門に近づくと、やはり、カーリーが校門の前に立っていた。カーリーは、うんざりとした顔をしていたが、マリー達を見つけると顔を綻ばせながら近寄った。

「マリー、コハク、試験はどうだった?」
「ちゃんと勝ったよ、お母さん」
「私もです。師匠」
「ははははは! 良かったじゃないか」

 カーリーは、自分の愛娘と弟子が勝った事が嬉しいようで、大笑いしている。

「そうだ、お母さん。こっちは、私の対戦相手だった。アルくんだよ」
「お初にお目に掛かります、カーリー殿。私は、アルゲート・ディラ・カストルと申します」
「はじめまして、カーリー・ラプラスだ。よろしく、カストルの坊ちゃん。そこまで丁寧に話さなくても良いよ。私は、貴族じゃないからね」

 アルは、カーリーを目の前にして少し緊張しているようだ。貴族なので、アルの方が位は高いのだが、大賢者としての実績の高さから、目上の人と感じているのだ。

「マリーは、強かったかい?」
「ええ、予想以上に強かったです。それに、まだ奥の手を残している感じもしました」
「ふむ、あれは使わなかったのかい?」
「使ったよ。二重奏までだけど」
「なるほど、確かに奥の手は使ってないね」

 カーリーが、アルの感じた事を肯定する。マリーには、今回使った『剣舞《ソードダンス》・二重奏《デュオ》』よりも強力な技があった。しかし、今回の模擬戦で使用する事はなかった。

「マリー、コハク、結果はいつ出るんだい?」
「三日後だよ」
「それじゃあ、王都にある別荘に行くさね。カストルの坊ちゃんもどうだい?」
「いえ、俺はここで失礼させて頂きます」
「そうかい。さぁ、二人とも行くさね」
「わかった。アルくんまたね」
「アルさん、また三日後に」
「ああ、またな」

 マリー達は、アルと別れ、カーリーの別荘に向かう。カーリーの別荘は、グランハーバーにある魔道具屋よりも大きい屋敷だった。

「大きい……」
「これが、お母さんの別荘?」
「そうさね、さぁ中に入るよ。これから、学院を卒業するまでの六年間は、ここで暮らす事になるんだ。嫌でも慣れるさね」

 学院にいる間、カーリーの屋敷がマリー達の家となる。マリー達は、それぞれ自分の部屋を決めて、馬車に載っている荷物を運んだ。

「お母さんもここに住むの?」
「そうさね」
「やった!」

 カーリーも一緒に住む事に、マリーは喜ぶ。まだまだカーリーに甘えたい年頃なのだ。荷解きを終えて、食堂で夕食を摂る。

「明日、明後日は、観光でもするといいさね」
「観光? 街を周るって事?」
「そうさね、私は用事があって案内できないけど、マリーが居れば、ここまで戻ってくる事は出来るだろう?」
「うん、この魔道具だね。きちんと、記録してから行くよ」

 マリーが取り出したのは、一枚の板だった。それは、記録した場所を指し示す魔道具である。カーリーの指導の元、マリーが作った代物だ。

「じゃあ、明日は観光だね! 素材屋とかあるかな」
「うん! 楽しみ!」

 マリーとコハクは、楽しみで仕方がないという様子だった。その光景をカーリーは、微笑ましく見ていた。
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