捨てられた王女は魔道具職人を目指す

月輪林檎

文字の大きさ
6 / 93
捨てられた王女

結果発表

しおりを挟む
 試験の結果が発表される日。マリーとコハクは、一緒に学院に向かった。

「試験結果でクラス分けが行われるんだったっけ?」
「うん。マリーと同じが良いな。クラスに馴染めるか不安だし」
「引っ込み思案だもんね」
「もう! それは治ったってば!」

 二人がそんなことを話していると、少し前の方に、アルが歩いているのが見えた。二人は、すぐにアルの名を呼ぶ。

「アルく~ん!」
「アルさ~ん!」
「ん?」

 呼ばれたアルが、マリー達の方を振り返る。二人の姿を見つけると、少し表情が柔らかくなる。

「マリーとコハクか。おはよう」
「「おはよう」」

 三人は、挨拶を交わして、一緒に学院へと向かって行く。

「アルくんも、一緒のクラスになるといいね」
「そうだな。だが、俺は、マリーに負けたからな。どうなるか分からん」
「勝ち負けも関係するのかな?」

 コハクが首をかしげる。この結果がクラス分けに影響するとは言っていたが、勝ち負けが関係するとは言っていない。そのことを、コハクは思い出したのだ。

「確かに、そう言ってはいなかったな。希望は、まだあるということか」
「アルくんがいたら楽しくなるもんね」

 三人並んで歩いていると、学院まであっという間だった。結果は、個人個人で受け取る形式らしく、行列が出来ている。三人が列に並んで待っていると、周りから視線を感じる。

「何で、皆こっちを見てるんだろう?」

 コハクは鬱陶しいという風にそう言った。

「私の髪の毛が白いからかな?」
「白髪は珍しいが、ここまで注目するほどではないだろう」

 三人は全く分かっていなかったが、この三人は入学試験で異例の戦闘力を見せている。そのため、周りから注目を浴びているのだ。三人が他愛のない話をしながら待っていると、順番が回ってきた。

「入学おめでとう。これが、クラス分けです。後、こちらが生徒証になります。卒業後も使えるのでなくすことのないようにしてください。最後にこれが制服となります。明日からは、こちらを着て登校してください」
「はい、ありがとうございます」

 マリーは、資料などをもらって、列から抜ける。空いているベンチがあったのでそこに向かった。アルとコハクも、マリーの座るベンチに来た。

「三人とも同じクラスだったな」
「えっ、嘘っ! まだ見てなかった!」

 アルから同じクラスになったと言われたが、マリー自身の目でも確認しておきたいと思い、貰った紙を確認する。すると、Sクラスと書かれた欄に、マリー、コハク、アルの名前を見つけた。

「やった!」

 マリーは、ガッツポーズをとった。友人と同じクラスになれた事が嬉しいようだ。

「そういえば、この身分証って、真っ白だけど良いの?」

 マリーは、小さなカードを手に持つ。そこには、何も書かれていない。身分証などを知らないマリーは、カードの裏表を何度も見ながら、首を傾げていた。

「ああ、魔力を通せば、個人の名前などの情報が出て来る。ただの市民には、身分証以上の価値はないが、ギルドに行けば、他の使い道がある。こっちに関しては、俺達には関係しないかもしれないがな。それと、一度通した魔力で登録されるから、他の誰かが魔力を通したとしても、情報は出てこない。そこは安心して良い」
「ふ~ん……魔力に反応するって事は、魔道具の一種かな」

 マリーは、身分証に魔力を通して、魔法陣を浮かび上がらせる。すると、複雑な魔法陣がいくつも重なって出てきた。

「これ……カードに刻印するには、複雑過ぎる。そもそもの基礎から違う。こんなの、私もお母さんから習ってない。所々読めるところはあるけど、いろんな魔法陣が混ざり過ぎて、全てを読めないし、どこに掛けている付加なのかも分からない。複数の魔法陣を掛け合わせる技術はあるけど、それはあくまで、同じ魔道具に複数の魔法陣を刻印するってだけで、こんな重なり合ったかのようにはならないはず。複数の魔法陣を一つの魔法陣にしているって事? でも、それだと、効果が発揮出来ないで、破綻する可能性が高いはず。ここのは、強度強化のはずだけど……魔法式の一部が書き換えてあるから別のもの? これだけじゃない。どこの魔法式も普段の魔法式とは違う形式になってる。これが、一つの法則になっているって事かな……」
「マリー!」

 マリーが集中していると、耳元でコハクが呼びかけた。マリーは、ビクッとしてからコハクを見る。

「マリー。そうやって、夢中になって考え込んで、周囲が見えなくなるのは、悪い癖だよ」
「ごめん。見た事のないものが多かったから、何なんだろうって思って」

 コハクに叱られたマリーは、肩を落としながらそう言う。マリーは好奇心の塊なので、知らない魔法陣などを見ると、それがどんな効果を持っているのかなどが、気になってしまうのだ。

「早速、魔力を通してみたらどうだ?」
「あ、うん」

 アルに言われて、マリーは自分の身分証に魔力を通す。すると、何も書かれていなかったカードに、マリーの名前が現れた。しっかりと、マリー・ラプラスの方の名前で書かれていた。

「魔力だけで、個人認識って、どうなってるんだろう?」
「確か、鑑定の魔法陣が組み込まれていると言われていたな」
「鑑定か……私もまだ使えないんだよね。どの魔法陣だろう」
「マリー」
「あ、う……分かってるよ」

 また、マリーの悪癖が出そうになったが、コハクが前もって注意することによって踏み留まった。

「よっぽど、魔道具が好きなんだな」
「まぁね。将来は魔道具職人になるんだから」

 マリーは、胸を張って答える。

「カーリー殿に教わっているマリーなら、なんとかなるだろう。頑張れ」
「うん!」

 今日の予定は全て終ったので、マリーとコハクは、学院の前でアルと別れ帰宅した。

「ただいま!」
「おかえり。どうだったさね?」

 カーリーが出迎えてくれた。

「二人ともSクラスだったよ!」
「そうかい。それは良かったさね」

 二人が一緒のクラスと聞いて、カーリーも喜んでいた。

「そういえば、身分証ももらったよ!」
「ほう? 魔法陣の解読はできたかい?」
「無理だった。ほとんどが知らない式で出来た魔法陣だったから。でもね、知っているのもあったんだけど、いつもの魔法式と細部が違ったの。繋げるための処理なのか、いつものとは違う効果なのかって考えたけど結局答えはでなかったよ」

 学院で見た魔法陣からわかった事をカーリーに話すと、カーリーはにやりと笑った。

「いい分析だ。確かに、これに使った技術は教えてないからね。ちなみに、式が違う部分はマリーの言う通り、繋げるための処理さね。いつも作るのに使っているものは、一つの魔法陣を別々の場所に刻む方法だからね。これは、同じ場所に刻むのに必要な処理さ」

 マリーの疑問を、カーリーが解説してくれた。マリーは感心していたが、一部気になる事が混ざっていた。

「へぇ~……ん? お母さん今、これに使ったって言った? ってことは、これって、お母さんが作ったの!?」
「そうさね。というより私しか作ってないよ。他の職人は、すぐに諦めたからね」

 マリーは、驚きと関心が半分半分になった反応をする。

「へぇ~、さすがはお母さん。こんなものも作れるなんて」
「マリーもこの領域に足を踏み入れることになるよ。いや、もしかしたら私を超えるかもしれないね」

 カーリーが、しみじみと言う。

「マリーが師匠を超えられるのですか?」

 コハクは、少し気になったので訊いてみた。

「ああ、私が魔道具を作り始めたのは、大体三十歳ぐらいだったからね。マリーは、もうすでに、一般の魔道具職人と同じくらいの技術を持っている。それらを加味すれば、超えるのも時間の問題さね」

 マリー達は、むしろ三十歳からやって魔道具職人界の頂点に立っているカーリーに驚いていた。

「師匠は、本当に規格外ですよね」
「私もそう思う」
「何を言ってるんだい。あの学院でSクラスと言えば、他の生徒とは比べものに出来ない程の優秀な者しか入れないクラスだよ。ただ、最近では金にものを言わせて入る輩もいるらしいがね。まぁ、マリー達のクラスにはいないだろうさ」

 学院のクラスは、C~Sに振り分けられる。一般的に、Cは普通、Bはそこそこ、Aは優秀、Sは規格外と言われている。こういった事から、年度によっては、Sクラスがない時もある。また、一年ごとにクラス分けをやり直すため、常に同じクラスにいない人も現れる。つまり、Sクラスへの昇級も極希に起こるという事だ。

「ふーん、あっ、そういえば、明日が入学式なんだ! お母さんも来てくれるよね!?」
「ああ、愛娘と弟子の晴れ姿を見させてもらうよ」
「やった!」

 マリーは、笑顔でガッツポーズをとる。コハクも小さく手を握る。その後、皆で夕飯を食べお風呂に入ってから就寝した。

────────────────────────

 その夜、カーリーは食堂で一人晩酌をしていた。

「ふぅ、明日は、あの子にとって苦痛となるかもしれないね。しかし、これから先のことを考えれば、乗り越えないといけない壁だからね。もしもの時は、私がどうにかすればいいさね。はぁ……あの子のためとはいえ、ここまで苦しいとは思わなかった。それだけ、あの子を本当に娘と思えている証拠さね。そう考えれば、いくらかマシに思える」

 カーリーは、とあることで悩んでいた。それは、明日の入学式で起こるかもしれない……いや、ほぼ確実に起こるであろう事だった……
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

〈完結〉前世と今世、合わせて2度目の白い結婚ですもの。場馴れしておりますわ。

ごろごろみかん。
ファンタジー
「これは白い結婚だ」 夫となったばかりの彼がそう言った瞬間、私は前世の記憶を取り戻した──。 元華族の令嬢、高階花恋は前世で白い結婚を言い渡され、失意のうちに死んでしまった。それを、思い出したのだ。前世の記憶を持つ今のカレンは、強かだ。 "カーター家の出戻り娘カレンは、貴族でありながら離婚歴がある。よっぽど性格に難がある、厄介な女に違いない" 「……なーんて言われているのは知っているけど、もういいわ!だって、私のこれからの人生には関係ないもの」 白魔術師カレンとして、お仕事頑張って、愛猫とハッピーライフを楽しみます! ☆恋愛→ファンタジーに変更しました

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

処理中です...