捨てられた王女は魔道具職人を目指す

月輪林檎

文字の大きさ
39 / 93
成長する王女

調べ物

しおりを挟む
 授業が終わった後、アルは、一人帰路についた。そして、リリーから聞いた、不老不死の法について考えていた。

(国王が、不老不死の法を探しているか……確か、黄騎士クリンウッドの連中が探していると噂で聞いたな。あの時は、根も葉もないものだと思っていたが、リリーの話を聞くに本当のようだな)

 黄騎士クリンウッドの家系は、研究機関を運営している騎士団だ。研究内容は、薬や魔法、鍛造、戦法など多岐にわたる。その中で、禁忌の魔法や薬を研究する機関が存在するという噂がある。

(何故、国王は、王位に執着しているんだ? 今まで、同じような国王はいなかった。いや、記録にないだけで、全ての王が執着していたのかもしれないな)

 考え事をしている内に、アルは自宅の屋敷へと着いた。

「ただいま」
『お帰りなさいませ! アルゲート様!』
「ああ、父上はいらっしゃるか?」
「はい。執務室でお仕事なさっています」

 出迎えたメイド、執事の中で一番若いメイドが返事をする。そのメイドは、アルの専属メイドで、名前をマーガレットと言う。

「わかった。ありがとう、マーガレット」
「いえ、このまま行かれますか?」
「ああ、少し話があってな。その後も書庫に行くから、しばらくは自由にしてくれ」
「かしこまりました」

 マーガレットは恭しくお辞儀をする。アルはそれを見てから、父のいる執務室に向かう。そして、執務室の扉をノックする。

「父上! アルゲートです!」
「入れ」

 アルは、扉を開けて執務室に入る。そこには、アルの父であるグラスフリート・ディラ・カストルの姿があった。黒髪黒眼で深いしわが刻まれた、その顔はとても厳格な人物であろう事が窺える。


「父上にお願いがあり来ました」
「どうした?」
「クリンウッドの研究資料の閲覧を許可して頂きたいです」
「何の資料だ?」

 クリンウッドの研究資料のほとんどは、各騎士団に渡されている。先代の国王が決めたもので、各騎士団の差を減らそうとしていたのだ。実際には、あまり効果は無かったのだが。

「不老不死の法について」
「ん? あの研究は、かなり前に終わっているものだぞ?」
「ええ、確認しておきたいことがございまして」
「ふむ」

 グラスフリートは、顎に手を当てて考え込む。アルの真意を見抜こうとしているのだ。だが、少しすると、顔の力を抜き優しそうな顔になる。

「お前の真意は、私でも見抜けないな。誰か大切な人でも出来たか?」

 これがグラスフリートの父としての本当の顔だ。さっきの厳格そうな顔は、仕事モードの時だった。そのため、グラスフリートは、周りの人から親馬鹿と言われることも、しばしばある。ただ、親馬鹿だからといって、全ての息子に同じように接するわけではなかった。

「大切な人ですか……確かに、そうなのかもしれませんね。あいつは、放っておく事は出来ませんから」
「……」

 グラスフリートは、面食らった顔をする。アルが、こんなことを言うとは思っていなかったからだ。

「どうしましたか、父上?」
「いや、何でも無い。お前がこんなに成長しているとはな。よし、閲覧を許可しよう。ただし、悪事を行うことは許さんぞ」
「はい、分かっています。では、失礼します」

 アルは、執務室を離れる。

「アルに、大切な人が出来たか。あの様子では、好意という意味で言ったんでは無いんだろうな。無自覚か……余計なお世話はしないように気を付けねば」

 グラスフリートは、執務室で一つの誓いを立てたのだった。

 ────────────────────────

 アルは、グラスフリートからの許可を得たため、書庫へと赴いていた。その道のりの途中、アルは一人の男と会った。

「アルゲート、勉強か?」
「いえ、兄上。少し調べ事です」
「そうか、精進しろよ」

 本当に短い会話だったが、これが二人の基本的な会話だ。その男の名は、クリスハート・ディラ・カストル、カストル家の長男だ。黒髪黒眼で、メガネを掛けた知的な男だ。現在は、グラスフリートの補佐をやっている。
 クリスハートとすれ違い、書庫に着いた。かなり広い書庫だったが、迷い無く歩いていく。

「これか……」

 アルは、本棚から一つのファイルを取り出して読む。そのファイルには、『不老不死について』と書かれている。

「やはり、不老不死の法は存在しないと締めくくられているな。だが、この方法についての研究も行われているな」

 アルが探していた記述、それは……

「人の身体を乗っ取って生き続ける。だが、そもそも、その方法が見付からずに研究の打ち切りか。他の方法は、薬系だが……これも有効的な効能を見つけられずに打ち切り。だが、これらが今も続いている可能性か……」

 アルは、この中の人の身体を乗っ取る方法について、黄騎士達が研究している可能性を疑っている。

「他の研究はどうなんだ?」

 アルは不老不死以外の研究も調べ始める。その他の研究は、実用段階までこぎ着けたものがほとんどだった。

「だめか。そもそも、身体を乗っ取るとはどういうことなんだ? 精神の入れ替え、いや、魂の入れ替えと考える方が正しいか?」

 アルは、そこからものすごい勢いで、調べ物を進めていく。自分の知りたい情報に関する本を片っ端から読んでいった。そして、アル結論を得る。

「不老不死の法は……あるのか。だが方法が確立していない。だから、クリンウッドに命令して探っている最中ということか。特に、この乗っ取りだな。霊魂系の魔物が持っているこの能力を利用か……国王が、マリーを敵視する理由は、その見た目か? マリーの姿で王になったところで、何かしらの批判が来る可能性が高いからな。王族の特徴である金髪碧眼は、必須という所か……マリーを捨てた時から、王位に執着していたと考えれば、納得はいくな」

 アルが、読んでいた本などを仕舞っていると、マーガレットが書庫に入ってきた。

「アルゲート様。そろそろ夕食の時間です」
「ああ、分かった。片付けたら、向かおう」
「お手伝い致します」

 アルは、マーガレットと二人で読んでいた本を片付けていく。マーガレットに手伝ってもらっても、三十分程掛かる量だった。

「沢山お読みになりましたね……幽霊にご興味が?」

 マーガレットが片付けていた本の題名を見てそう質問する。

「まぁ、そうだな。霊の特徴を調べていたんだが、最終的に霊の種類なども調べることになった」
「アルゲート様は、本当によく分からないですね」
「……どういう意味だ?」

 アルは、マーガレットに言われたことを理解出来ずに聞き返した。

「アルゲート様のお考えが分からないという意味です」
「父上にも言われたな。そんなか?」
「そんなです」

 アルは、少し不服そうな顔をするが、それ以上何も言わない。一見無礼にも思えるマーガレットの言動だが、他ならぬアルが、そうしろと命令したので誰も咎めることはない。
 アルは、変に畏まれるよりも普通に接してくれた方が、アル自身も楽だからそう命令した。

「さて、じゃあ、食堂に向かうか」
「そうですね」

 アルは、マーガレットを連れて、食堂に向かった。アルの顔には、学院にいた頃よりも表情は和らいでいた。

 ────────────────────────

 マリーは、自宅に帰ると、すぐに工房に向かった。そこで、義手の設計を見直している。

「この構造は、強度に問題がありそう」

 義手の強度は、かなり重要になってくる。特にマニカは、学院に在籍するので、戦闘を行うことも多くなる。なので、簡単に壊れてしまうのは、問題となる。

「全部の部品に、強度強化は掛けるけど、そもそもの構造から頑丈な方が絶対いいよね。配線も考え直そう」

 マリーは、設計図を全て書き直していく。時折、カーリーの書斎に向かって、設計の仕方や構造的に欠陥がないように、いろんな設計図を見ていく。

「ここ、使えそう。ここも、使えるかな。うん、この材料なら、軽くも出来るかも」

 そして、色々な本を読んでいる内に、ある紙の束を見つける。

「『多重構造魔法陣の形成の仕方』って、これ、お母さんの論文!?」

 マリーは、その中身を必死に読む。

「これは……暗号化されてるじゃん!!」

 最初の文章から支離滅裂なことが書かれており、マリーは頭を抱える。

「解読からやらなきゃ、時間は掛かるけど、それが一番だよね。これが出来ると出来ないじゃ、義手の完成度に関わってくるし……」

 マリーは、カーリーの論文の解読に挑む。カーリーの書斎には、暗号についての本も存在した。それを、読んで解読しようとするが、そのどれもカーリーの暗号に当てはまらない。

「必要なのは暗号解読の本じゃなくて、お母さんの他の論文か!」

 カーリーの暗号は、独自に作ったものだというのが、マリーの考えだった。マリーは、書斎にあるカーリーの論文を探し出して、暗号の解読を進める。

「こことここの符号は同じ、こっちも同じ。でも、こっちは似ているだけで、全く別の符号。こっちは、こっちで違う。う~ん、複雑すぎる。解読には、かなりの時間が必要かな」

 マリーは、虫食いに暗号を解読したが、概要すら分からない。

「……リー、……マリー、……マリー!」

 遠くで呼ぶ声が聞こえたかと思えば、段々と近づいてきた。マリーは、読んでいた論文などを仕舞って書斎から出る。

「マリー! いた! もう、何回も呼んでるのにいないから、焦ったよ」
「ごめん、ごめん。それで何?」
「ご・は・ん!」
「ああ、ごめん」

 マリーは、コハクと食堂に向かう。今日は、カーリーが学院に泊まりなので、二人きりの食事だ。

「それで、義手の製作はどうなの?」
「まだかな。試作品で動かせることは分かったけど、強度とかそういった問題がね」
「解決しそう?」
「解決できるかもしれないんだけど、お母さんの論文が暗号化されていてね」

 今日の話題は、マリーの魔道具作りだった。

 ────────────────────────

 それから、二週間後……

「ようやく解けた!!」

 マリーは、書庫で立ち上がって興奮した。ようやく、カーリーの論文の暗号が解けたのだ。

「それにしても、こんな法則なんて……お母さんの頭はどうなってるんだろう?」
「私の頭がなんだって?」
「うきゃぁ!」

 マリーは、いきなり後ろから声がして驚いた。

「お母さん、脅かさないでよ……」
「脅かしたつもりはないんだけどね。それで、何を読んでいたんだい?」

 カーリーは、マリーの後ろからマリーが読んでいたものを覗く。

「ん? これは、私の論文だね。それも、多重構造のものかい。読めるのかい?」
「うん! 今、読めるようになった!」
「それで、大声を上げてたのさね。使えそうかい?」
「多分ね。色々試してみてからだけど」
「そうするといいさね。それと、マニカの退院日が決まったさね」

 カーリーの口から出た言葉に、マリーが驚いてカーリーに詰め寄る。

「いつ!?」
「再来週の初めさね。それまでは、いくつかの検査を何日にも分けて行うからね。面会もあまり出来ないさね」
「うん、わかった!」

 あれから、マリーは、何回かマニカの病室に行って、魔力置換の練習を何回か行っていた。
 その結果、置換を成功させることは出来た。本番でも問題はないだろう。

「後は、私が義手を完成させるだけだね……」

 マリーは、もう一度気合いを入れるために、頬を張る。

「お母さん、ごめん! 私、工房に行くね!」
「ご飯の時は、ちゃんと来るんだよ」
「分かった!」
「本当に分かったのかね……?」

 マリーは、書斎を片付けて、工房へと向かった。義手を完成させるために。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

〈完結〉前世と今世、合わせて2度目の白い結婚ですもの。場馴れしておりますわ。

ごろごろみかん。
ファンタジー
「これは白い結婚だ」 夫となったばかりの彼がそう言った瞬間、私は前世の記憶を取り戻した──。 元華族の令嬢、高階花恋は前世で白い結婚を言い渡され、失意のうちに死んでしまった。それを、思い出したのだ。前世の記憶を持つ今のカレンは、強かだ。 "カーター家の出戻り娘カレンは、貴族でありながら離婚歴がある。よっぽど性格に難がある、厄介な女に違いない" 「……なーんて言われているのは知っているけど、もういいわ!だって、私のこれからの人生には関係ないもの」 白魔術師カレンとして、お仕事頑張って、愛猫とハッピーライフを楽しみます! ☆恋愛→ファンタジーに変更しました

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

処理中です...