上 下
40 / 93
成長する王女

義手作りと剣作り

しおりを挟む
 工房に着くと、マリーは、複数の義手の試作品を見比べていた。最初は、基本的に鉄で作っているため、重量が凄いことになっている。次は、鉄とアルミを使ったが、強度に若干不安が残った。そこで、鉄に『軽量化』を付けてみると、マリーの納得のいく結果を得た。
 そして、カーリーの論文によって、得た技術である多重構造を使えば、鉄に『軽量化』を付けつつ、さらに強度を高めることが出来る。

「よし! 作ろう!」

 まずは、パーツ毎に『軽量化』と『強度強化』を刻んでいく。その後に、次々と組み立てていく。そうして、義手の素体を作り出した。

「この状態で動くかの確認っと」

 マリーは、魔力線を通して腕が動くかどうかを確かめた。その結果、動きが悪くなっていた。

「ん? 何でだ……? いや、そうか。多重魔法陣になって、魔力の通りが変わったんだ……でも、このくらいの計算なら、すぐに出来る」

 マリーは、魔力線の設計図を練り直す。そして、最適な配置を見つけると、すぐに試作品に反映して、動作確認をする。すると、動きが滑らかになった。

「よし! 関節部分の組み合わせもバッチリ! 多重魔法陣になった事による干渉もなし。消費魔力の変化もなし。」

 この次にやるのは、この素体部分を魔力が潤沢に含まれた魔ゴムで覆うことだ。魔ゴムは、擬似神経などの保護をするために付ける。マリーは、義手の大きさと形に合うように、丁寧に加工した魔ゴムを、義手に被せていく。そうすると、魔ゴムで覆われた腕が出来上がった。その状態でも、動作の確認を行う。

「うん。関節部分に、ゴムが噛むこともなし。可動範囲の阻害もなし。大丈夫だね」

 最後は、その上から、保護用の装甲を付ける。装甲は、関節部分には付けられないので、そこだけは魔ゴムが見えている。出来上がったのは、細身の腕だ。

「全部に『強度強化』を施しているから、強度は大丈夫だと思う。後は、この状態での動作確認……」

 マリーは、義手の動作確認を念入りに行う。ここで不具合があれば、装着するマニカにも問題が生じる。やり過ぎくらいが丁度いいのだ。

「動きに心配は無い。よし! 次は強度実験だ!」

 そう言って、マリーは、義手の試作品をハンマーで叩きまくる。金属が打ち合う音が響く。マリーに、一切の加減はない。

「うん。取り敢えずは大丈夫そう」

 ハンマーで何度も叩いてから、動作確認をすると、さっきまでと同じように動いた。つまり、強度強化の成果が出ていると判断出来る。

「次は、接続用のゴムだね。でも、これは、マニカさんの魔力が必要だから、また今度か。取り敢えず、もう一度作り直すとして……後は、何かあるかな?」

 マリーが、今できることは終わった。今作ったのは、試作品なので、改めて義手を作る事になるが、完璧な設計図が出来上がっているので、問題はない。
 その他に何かあるか考えていると、マリーは、ある事を思い出した。

「そうだ。アルくんの剣も作ろう。それに、私の剣の強化もだね」

 そこまで、考えたところで、

「マリー! ご飯だよ!」

 コハクがマリーを呼ぶ声が聞こえた。

「はーい!」

 マリーは、すぐに食堂に向かう。

「本当に来た。また、来ないかと思ったよ」
「ふっふっふ、いつまでも同じ私ではないのだよ!」
「マリー、威張ってないで早く座りな」
「は~い」

 カーリーに言われて、マリーはすぐに座る。そして、夕食が始まる。

「マリー、義手は出来たのかい?」
「うん、一応ね。後は、もう一度作り直して、マニカさんと魔力置換をして、接続テストと動作テストを行うだけかな」
「じゃあ、再来週までは、お預けなんだ?」
「うん、だから、それまでは私の剣の強化とアルくんの剣を作ろうかなって」

 マリー達は、そんな風に話をしながら、夕食を食べていった。夕食とお風呂を終えたマリーは、自室のベッドの上にいた。

「義手作りも一段落したし、今日はちゃんと寝よう」

 さすがのマリーも、今日のところは就寝することにした。やるべきことが終わったため、ようやく安心して眠ることが出来るのだった。

 ────────────────────────

 次の日、マリーとコハクはいつも通り学院に向かった。

「アルくん。おはよう」
「おはよう、アルさん」

 やはり、いつも通り一番に来ていたアルと挨拶をする。

「おはよう、マリー、コハク」
「今日から、アルくんの剣を作ろうと思うんだけど」
「そうか。ありがとう。だが、あまり無理するなよ」
「うん、分かってる」

 その後、今日の授業を終えた。

「コハク、私はネルロさんの店に行ってくるけど」
「そうなの? 私はリンさんと模擬戦するからなぁ」
「なら、俺が一緒に行こう」

 アルが申し出て、マリーと一緒にネルロの店へと向かった。

「ネルロさん、この前頼んでおいたものを受け取りに来ました」
「あら、いらっしゃい。それにしても、あなた達、よく一緒にいるわね」

 ネルロのその言葉にマリーとアルは、互いに眼を合わせる。

「そう?」
「まぁ、付き添うことは多いな」
「……鈍いのかしら? まぁ、いいわ。マリーちゃんが頼んでいたものは、赤水晶レッドクリスタルでしょ? はい」

 マリーはお金を払って、赤水晶を受け取る。マリーは、ついでに自分の懐事情を把握する。

「さすがに、お金がなくなってきたなぁ」
「バイトする?」

 ネルロが、マリーに提案する。

「ここで、ですか?」
「そうよ。一人雇ってたんだけど、諸事情で来られなくなっちゃってね」
「そうなんですか? う~ん、どうしよう……」
「バイトの他だと、魔物を狩ってギルドで稼ぐしかないな」

 アルが、もう一つの選択肢を出す。

「う~ん……ネルロさん、バイトお願いしても良いですか?」
「ええ、大歓迎よ。一応、カーリーさんに相談はしてね」
「はい! 今日はありがとうございました」
「また来てね」

 マリーとアルは、ネルロの店を出て行く。

「てっきり、マリーは魔物の狩りで稼ぐと思ったんだがな」
「私を戦闘狂とでも思ってるの? ネルロさんの店なら触媒についてとか色々学べそうだし、都合が良いと思ったんだよ」
「なるほどな。まぁ、その通りかもな」

 アルは、マリーを家まで送った。家に帰ってきたマリーは、すぐに工房に向かう。

「さて、まずは、鉄と赤水晶を溶かして混ぜ合わせるっと」

 工房の炉に火を点けたマリーは、鉄と赤水晶を入れた坩堝を中に入れる。融解して混ざり合ったそれを、鋳型に入れて冷やす。
 出来上がったのは、赤いマーブル模様の鉄のインゴットだ。マリーは、それを複数作っていった。

「よし、これで剣を打ってみよう」

 マリーは、作り出したインゴットを使って、剣を打ち始める。無心で打ち続けて、出来上がったのは、インゴットの時と同じ、赤いマーブル模様の刀身の剣だ。

「意外とうまくいった。じゃあ、これに、魔法陣を刻んでおこうかな」

 剣舞で操った剣を器用に使って、剣を机に載せたマリーは、自分の剣と同じように、『強度強化』『軽量化』『鋭利化』『魔力効率上昇』を多重魔法陣で刻印してから、魔力の通り道を作り出す。そして、試しに自分の魔力を流してみる。

「うん。魔力の通りに滞りなし。アルくんには、時間が掛かるって言ったけど、案外早く出来ちゃった。これなら、もっと早く作ってあげればよかったかな」

 マリーは、剣の出来を見て、満足げに頷いていた。

「それにしても、剣を作るまでの過程では平気だったのに、剣として完成した途端、持ち上げられなくなっちゃった。これが、祝福の効果なんだ……はた迷惑な話だよ……」

 マリーは、目の前に置かれている剣を見ながら、ため息をつく。

「これ……どうしよう?」

 現在、家にコハクはいない。もちろんカーリーの姿も無い。金床と違って、机の上に乗せてしまえば、自分の剣で運ぶことも難しい。

「アルくんに残ってもらえばよかった……う~ん、これは、このまま置いておこう。それじゃあ、私の剣の調整をしよっと。多重構造ができるようになったしね」

 マリーは、ポーチから自分の剣を取り出して、魔法陣の調整を行う。多重魔法陣にしたおかげで、かなりの余白を作ることが出来た。

「それぞれに属性の付与と強化、伝導率の上昇……後は、剣唄ソードソングのための魔力の通り道を作り直さないと」

 マリーは、新しい付与と剣唄のための魔力の通り道を引いていく。

「よし、これで大丈夫っと」

 そこまでやったところで、マリーは、工房を出て行く。ちょうど、そのタイミングでコハクが帰ってきた。

「ただいま~」
「おかえり、ぼろぼろだね?」
「リンさんに手加減無しでやってって言ったら、本当に手加減無しなんだもん。こっちも真剣に戦って、ようやく戦えるかもって感じだった……」
「まぁ、リンくんは強いもんね。私も戦ってもらおうかな」
「マリーは、アルさんに相手になってもらうと良いよ」
「何でアルくん?」

 マリーは、本当にどういうことか分からず、首を傾げる。

「はぁ、アルさんも大変だね……それは、私も同じか……」
「?」

 コハクの言っていることを最後まで理解出来なかったマリーであった。

 ────────────────────────

 次の日、コハクに魔法鞄マジックバッグに剣を入れてもらったマリーは、アルに、それを渡す。この際も、コハクに取り出してもらっていた。

「不便な身体だよ……」

 マリーは、がっくりとしていた。そんなマリーを置いておいて、アルは、受け取った剣を真剣な眼差しで見ていた。

「強度は申し分ないな。斬れ味はどうだろうか?」
「試してみる?」

 マリーは、魔法鞄から大きめの石を取り出す。

「……なんで石なんて持ってるんだ? いや、どちらかと言えば岩に近いか」
「どんなものでも持っておくものだよ。こういうときに役に立つ!」
「その分の容量を別のものに使える筈なんだが?」
「……まぁ、それは置いておこう」
「逃げたね」

 マリーは図星を突かれて、目線を逸らした。

「じゃあ、試すか」

 アルは、目の前にある大きめの石を剣で斬る。すると、何の抵抗も無しに綺麗に石が斬れた。

「さすがは、マリーといったところか。凄い斬れ味だ」
「えっへん!!」
「ありがとう。いくらだ?」
「えっと、どうなんだろう?」

 マリーは、お代のことを考えていなかったので、少し悩んでいた。

「う~ん、いつものお礼って事で」
「それだと俺が貰いすぎになるだろ」
「そうかな?」
「そうだろ」
「取り敢えず、保留ってことにすれば?」

 コハクの意見にマリーが飛びつく。

「それだ! 取り敢えず、保留ね! 私が困ってたりしたときに助けてくれたら良いよ!」
「……はぁ、分かった」

 アルは、少し不満が残っていそうだったが、マリーの意見に同意した。そんな事をしているとリリー達もやって来て、いつも通りの会話になった。そして、今日の授業が終わると、ホームルームでカレナから知らせがあった。

「翌月の半ばに、学院内での魔武闘大会があります。これは、いつもの模擬戦のように生徒同士で戦って、頂点を争うものとなっています。詳しい説明は、後日プリントを配布する際に話しますので、そういうことがあると覚えておいてください。では、今日は、これで終わりです。気を付けて帰って下さいね」

 カレナがいなくなると、マリー達は教室で集まった。

「魔武闘大会だって。知ってる?」

 会話は、マリーのそんな言葉から始まった。

「魔法有り、武器有り、なんでも有りの大会だ」

 アルが自分の知っていることを話す。

「危険じゃないの?」

 コハクがもっともなことを言う。

「毎年、怪我人が絶えないといいますわ」
「何で模擬戦と同じ、精神にくる結界を使わないの?」

 セレナが、不安げにそう言った。模擬戦では、通常の攻撃が肉体ではなく精神へのダメージに切り替わる結界を張っている。

「最高位の治療師を呼んでいるから死ななければ、大丈夫と聞いているよ。実戦に近い形にしているんじゃないかな」

 リンの言葉に、セレナとアイリが震える。

「うぅ……今から怖くて仕方が無いよ」
「本当にね……ねぇ、これってマリーの暗殺にもってこいなんじゃ?」

 セレナが気付いて、そう言った。その言葉に、マリー以外の全員がハッとする。

「確かに、これに乗じて事故に見せかけて殺すことはあり得るな」

 アルは、顎に手を当てながら可能性を考える。

「刺客を転校させて、その人にマリーさんを暗殺させるとかですの?」
「それは、可能性が高いね。でも、この時期に転校なんていうのは、珍しいからあからさますぎる気もするけど」
「確かに、リンさんの言う通りかも。じゃあ、転校生が現れたらその人に警戒すれば良いの?」

 コハクが首を傾げる。

「そうだな。取り敢えず、転校生が現れたら警戒しよう。分かったか? マリー、お前の事だぞ?」
「う、うん。そうだね」
「大丈夫か?」

 皆が、マリーに違和感を持つ。こういうときでも、冷静に物事を考えるのがマリーなのに、この話が出てきてから、少しおかしい。

「大丈夫。少し驚いてるだけだよ。そんな事をする可能性があることに……」
「……安心しろ。何があっても、絶対に守ってやる。絶対にだ」

 アルが、安心させるようにマリーに言う。それを聞いて、マリーの調子が少し改善した。

「うん、ありがとう。アルくん」
「今日は、これで解散にしておくか。送っていくぞ」
「分かった。ありがとう」

 マリーは、コハクとアルと一緒に自宅に帰った。それから、一週間と少し経った後、マニカの義手装着の日がやって来た。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ざまぁ後に幽閉された男装王女は逃げ出す事に決めた。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:1,849

Blue day~生理男子~

BL / 完結 24h.ポイント:418pt お気に入り:1,733

冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

BL / 連載中 24h.ポイント:13,001pt お気に入り:2,353

明らかに不倫していますよね?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,684pt お気に入り:116

鬼上司と秘密の同居

BL / 連載中 24h.ポイント:3,515pt お気に入り:597

私は、御曹司の忘れ物お届け係でございます。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:85pt お気に入り:1,781

超短くても怖い話【ホラーショートショート集】

ホラー / 連載中 24h.ポイント:16,601pt お気に入り:65

ナイナイ尽くしの異世界転生◆翌日から始めるDIY生活◆

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:370pt お気に入り:139

神は可哀想なニンゲンが愛しい

BL / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:23

処理中です...