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成長する王女
義手作りと剣作り
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工房に着くと、マリーは、複数の義手の試作品を見比べていた。最初は、基本的に鉄で作っているため、重量が凄いことになっている。次は、鉄とアルミを使ったが、強度に若干不安が残った。そこで、鉄に『軽量化』を付けてみると、マリーの納得のいく結果を得た。
そして、カーリーの論文によって、得た技術である多重構造を使えば、鉄に『軽量化』を付けつつ、さらに強度を高めることが出来る。
「よし! 作ろう!」
まずは、パーツ毎に『軽量化』と『強度強化』を刻んでいく。その後に、次々と組み立てていく。そうして、義手の素体を作り出した。
「この状態で動くかの確認っと」
マリーは、魔力線を通して腕が動くかどうかを確かめた。その結果、動きが悪くなっていた。
「ん? 何でだ……? いや、そうか。多重魔法陣になって、魔力の通りが変わったんだ……でも、このくらいの計算なら、すぐに出来る」
マリーは、魔力線の設計図を練り直す。そして、最適な配置を見つけると、すぐに試作品に反映して、動作確認をする。すると、動きが滑らかになった。
「よし! 関節部分の組み合わせもバッチリ! 多重魔法陣になった事による干渉もなし。消費魔力の変化もなし。」
この次にやるのは、この素体部分を魔力が潤沢に含まれた魔ゴムで覆うことだ。魔ゴムは、擬似神経などの保護をするために付ける。マリーは、義手の大きさと形に合うように、丁寧に加工した魔ゴムを、義手に被せていく。そうすると、魔ゴムで覆われた腕が出来上がった。その状態でも、動作の確認を行う。
「うん。関節部分に、ゴムが噛むこともなし。可動範囲の阻害もなし。大丈夫だね」
最後は、その上から、保護用の装甲を付ける。装甲は、関節部分には付けられないので、そこだけは魔ゴムが見えている。出来上がったのは、細身の腕だ。
「全部に『強度強化』を施しているから、強度は大丈夫だと思う。後は、この状態での動作確認……」
マリーは、義手の動作確認を念入りに行う。ここで不具合があれば、装着するマニカにも問題が生じる。やり過ぎくらいが丁度いいのだ。
「動きに心配は無い。よし! 次は強度実験だ!」
そう言って、マリーは、義手の試作品をハンマーで叩きまくる。金属が打ち合う音が響く。マリーに、一切の加減はない。
「うん。取り敢えずは大丈夫そう」
ハンマーで何度も叩いてから、動作確認をすると、さっきまでと同じように動いた。つまり、強度強化の成果が出ていると判断出来る。
「次は、接続用のゴムだね。でも、これは、マニカさんの魔力が必要だから、また今度か。取り敢えず、もう一度作り直すとして……後は、何かあるかな?」
マリーが、今できることは終わった。今作ったのは、試作品なので、改めて義手を作る事になるが、完璧な設計図が出来上がっているので、問題はない。
その他に何かあるか考えていると、マリーは、ある事を思い出した。
「そうだ。アルくんの剣も作ろう。それに、私の剣の強化もだね」
そこまで、考えたところで、
「マリー! ご飯だよ!」
コハクがマリーを呼ぶ声が聞こえた。
「はーい!」
マリーは、すぐに食堂に向かう。
「本当に来た。また、来ないかと思ったよ」
「ふっふっふ、いつまでも同じ私ではないのだよ!」
「マリー、威張ってないで早く座りな」
「は~い」
カーリーに言われて、マリーはすぐに座る。そして、夕食が始まる。
「マリー、義手は出来たのかい?」
「うん、一応ね。後は、もう一度作り直して、マニカさんと魔力置換をして、接続テストと動作テストを行うだけかな」
「じゃあ、再来週までは、お預けなんだ?」
「うん、だから、それまでは私の剣の強化とアルくんの剣を作ろうかなって」
マリー達は、そんな風に話をしながら、夕食を食べていった。夕食とお風呂を終えたマリーは、自室のベッドの上にいた。
「義手作りも一段落したし、今日はちゃんと寝よう」
さすがのマリーも、今日のところは就寝することにした。やるべきことが終わったため、ようやく安心して眠ることが出来るのだった。
────────────────────────
次の日、マリーとコハクはいつも通り学院に向かった。
「アルくん。おはよう」
「おはよう、アルさん」
やはり、いつも通り一番に来ていたアルと挨拶をする。
「おはよう、マリー、コハク」
「今日から、アルくんの剣を作ろうと思うんだけど」
「そうか。ありがとう。だが、あまり無理するなよ」
「うん、分かってる」
その後、今日の授業を終えた。
「コハク、私はネルロさんの店に行ってくるけど」
「そうなの? 私はリンさんと模擬戦するからなぁ」
「なら、俺が一緒に行こう」
アルが申し出て、マリーと一緒にネルロの店へと向かった。
「ネルロさん、この前頼んでおいたものを受け取りに来ました」
「あら、いらっしゃい。それにしても、あなた達、よく一緒にいるわね」
ネルロのその言葉にマリーとアルは、互いに眼を合わせる。
「そう?」
「まぁ、付き添うことは多いな」
「……鈍いのかしら? まぁ、いいわ。マリーちゃんが頼んでいたものは、赤水晶でしょ? はい」
マリーはお金を払って、赤水晶を受け取る。マリーは、ついでに自分の懐事情を把握する。
「さすがに、お金がなくなってきたなぁ」
「バイトする?」
ネルロが、マリーに提案する。
「ここで、ですか?」
「そうよ。一人雇ってたんだけど、諸事情で来られなくなっちゃってね」
「そうなんですか? う~ん、どうしよう……」
「バイトの他だと、魔物を狩ってギルドで稼ぐしかないな」
アルが、もう一つの選択肢を出す。
「う~ん……ネルロさん、バイトお願いしても良いですか?」
「ええ、大歓迎よ。一応、カーリーさんに相談はしてね」
「はい! 今日はありがとうございました」
「また来てね」
マリーとアルは、ネルロの店を出て行く。
「てっきり、マリーは魔物の狩りで稼ぐと思ったんだがな」
「私を戦闘狂とでも思ってるの? ネルロさんの店なら触媒についてとか色々学べそうだし、都合が良いと思ったんだよ」
「なるほどな。まぁ、その通りかもな」
アルは、マリーを家まで送った。家に帰ってきたマリーは、すぐに工房に向かう。
「さて、まずは、鉄と赤水晶を溶かして混ぜ合わせるっと」
工房の炉に火を点けたマリーは、鉄と赤水晶を入れた坩堝を中に入れる。融解して混ざり合ったそれを、鋳型に入れて冷やす。
出来上がったのは、赤いマーブル模様の鉄のインゴットだ。マリーは、それを複数作っていった。
「よし、これで剣を打ってみよう」
マリーは、作り出したインゴットを使って、剣を打ち始める。無心で打ち続けて、出来上がったのは、インゴットの時と同じ、赤いマーブル模様の刀身の剣だ。
「意外とうまくいった。じゃあ、これに、魔法陣を刻んでおこうかな」
剣舞で操った剣を器用に使って、剣を机に載せたマリーは、自分の剣と同じように、『強度強化』『軽量化』『鋭利化』『魔力効率上昇』を多重魔法陣で刻印してから、魔力の通り道を作り出す。そして、試しに自分の魔力を流してみる。
「うん。魔力の通りに滞りなし。アルくんには、時間が掛かるって言ったけど、案外早く出来ちゃった。これなら、もっと早く作ってあげればよかったかな」
マリーは、剣の出来を見て、満足げに頷いていた。
「それにしても、剣を作るまでの過程では平気だったのに、剣として完成した途端、持ち上げられなくなっちゃった。これが、祝福の効果なんだ……はた迷惑な話だよ……」
マリーは、目の前に置かれている剣を見ながら、ため息をつく。
「これ……どうしよう?」
現在、家にコハクはいない。もちろんカーリーの姿も無い。金床と違って、机の上に乗せてしまえば、自分の剣で運ぶことも難しい。
「アルくんに残ってもらえばよかった……う~ん、これは、このまま置いておこう。それじゃあ、私の剣の調整をしよっと。多重構造ができるようになったしね」
マリーは、ポーチから自分の剣を取り出して、魔法陣の調整を行う。多重魔法陣にしたおかげで、かなりの余白を作ることが出来た。
「それぞれに属性の付与と強化、伝導率の上昇……後は、剣唄のための魔力の通り道を作り直さないと」
マリーは、新しい付与と剣唄のための魔力の通り道を引いていく。
「よし、これで大丈夫っと」
そこまでやったところで、マリーは、工房を出て行く。ちょうど、そのタイミングでコハクが帰ってきた。
「ただいま~」
「おかえり、ぼろぼろだね?」
「リンさんに手加減無しでやってって言ったら、本当に手加減無しなんだもん。こっちも真剣に戦って、ようやく戦えるかもって感じだった……」
「まぁ、リンくんは強いもんね。私も戦ってもらおうかな」
「マリーは、アルさんに相手になってもらうと良いよ」
「何でアルくん?」
マリーは、本当にどういうことか分からず、首を傾げる。
「はぁ、アルさんも大変だね……それは、私も同じか……」
「?」
コハクの言っていることを最後まで理解出来なかったマリーであった。
────────────────────────
次の日、コハクに魔法鞄に剣を入れてもらったマリーは、アルに、それを渡す。この際も、コハクに取り出してもらっていた。
「不便な身体だよ……」
マリーは、がっくりとしていた。そんなマリーを置いておいて、アルは、受け取った剣を真剣な眼差しで見ていた。
「強度は申し分ないな。斬れ味はどうだろうか?」
「試してみる?」
マリーは、魔法鞄から大きめの石を取り出す。
「……なんで石なんて持ってるんだ? いや、どちらかと言えば岩に近いか」
「どんなものでも持っておくものだよ。こういうときに役に立つ!」
「その分の容量を別のものに使える筈なんだが?」
「……まぁ、それは置いておこう」
「逃げたね」
マリーは図星を突かれて、目線を逸らした。
「じゃあ、試すか」
アルは、目の前にある大きめの石を剣で斬る。すると、何の抵抗も無しに綺麗に石が斬れた。
「さすがは、マリーといったところか。凄い斬れ味だ」
「えっへん!!」
「ありがとう。いくらだ?」
「えっと、どうなんだろう?」
マリーは、お代のことを考えていなかったので、少し悩んでいた。
「う~ん、いつものお礼って事で」
「それだと俺が貰いすぎになるだろ」
「そうかな?」
「そうだろ」
「取り敢えず、保留ってことにすれば?」
コハクの意見にマリーが飛びつく。
「それだ! 取り敢えず、保留ね! 私が困ってたりしたときに助けてくれたら良いよ!」
「……はぁ、分かった」
アルは、少し不満が残っていそうだったが、マリーの意見に同意した。そんな事をしているとリリー達もやって来て、いつも通りの会話になった。そして、今日の授業が終わると、ホームルームでカレナから知らせがあった。
「翌月の半ばに、学院内での魔武闘大会があります。これは、いつもの模擬戦のように生徒同士で戦って、頂点を争うものとなっています。詳しい説明は、後日プリントを配布する際に話しますので、そういうことがあると覚えておいてください。では、今日は、これで終わりです。気を付けて帰って下さいね」
カレナがいなくなると、マリー達は教室で集まった。
「魔武闘大会だって。知ってる?」
会話は、マリーのそんな言葉から始まった。
「魔法有り、武器有り、なんでも有りの大会だ」
アルが自分の知っていることを話す。
「危険じゃないの?」
コハクがもっともなことを言う。
「毎年、怪我人が絶えないといいますわ」
「何で模擬戦と同じ、精神にくる結界を使わないの?」
セレナが、不安げにそう言った。模擬戦では、通常の攻撃が肉体ではなく精神へのダメージに切り替わる結界を張っている。
「最高位の治療師を呼んでいるから死ななければ、大丈夫と聞いているよ。実戦に近い形にしているんじゃないかな」
リンの言葉に、セレナとアイリが震える。
「うぅ……今から怖くて仕方が無いよ」
「本当にね……ねぇ、これってマリーの暗殺にもってこいなんじゃ?」
セレナが気付いて、そう言った。その言葉に、マリー以外の全員がハッとする。
「確かに、これに乗じて事故に見せかけて殺すことはあり得るな」
アルは、顎に手を当てながら可能性を考える。
「刺客を転校させて、その人にマリーさんを暗殺させるとかですの?」
「それは、可能性が高いね。でも、この時期に転校なんていうのは、珍しいからあからさますぎる気もするけど」
「確かに、リンさんの言う通りかも。じゃあ、転校生が現れたらその人に警戒すれば良いの?」
コハクが首を傾げる。
「そうだな。取り敢えず、転校生が現れたら警戒しよう。分かったか? マリー、お前の事だぞ?」
「う、うん。そうだね」
「大丈夫か?」
皆が、マリーに違和感を持つ。こういうときでも、冷静に物事を考えるのがマリーなのに、この話が出てきてから、少しおかしい。
「大丈夫。少し驚いてるだけだよ。そんな事をする可能性があることに……」
「……安心しろ。何があっても、絶対に守ってやる。絶対にだ」
アルが、安心させるようにマリーに言う。それを聞いて、マリーの調子が少し改善した。
「うん、ありがとう。アルくん」
「今日は、これで解散にしておくか。送っていくぞ」
「分かった。ありがとう」
マリーは、コハクとアルと一緒に自宅に帰った。それから、一週間と少し経った後、マニカの義手装着の日がやって来た。
そして、カーリーの論文によって、得た技術である多重構造を使えば、鉄に『軽量化』を付けつつ、さらに強度を高めることが出来る。
「よし! 作ろう!」
まずは、パーツ毎に『軽量化』と『強度強化』を刻んでいく。その後に、次々と組み立てていく。そうして、義手の素体を作り出した。
「この状態で動くかの確認っと」
マリーは、魔力線を通して腕が動くかどうかを確かめた。その結果、動きが悪くなっていた。
「ん? 何でだ……? いや、そうか。多重魔法陣になって、魔力の通りが変わったんだ……でも、このくらいの計算なら、すぐに出来る」
マリーは、魔力線の設計図を練り直す。そして、最適な配置を見つけると、すぐに試作品に反映して、動作確認をする。すると、動きが滑らかになった。
「よし! 関節部分の組み合わせもバッチリ! 多重魔法陣になった事による干渉もなし。消費魔力の変化もなし。」
この次にやるのは、この素体部分を魔力が潤沢に含まれた魔ゴムで覆うことだ。魔ゴムは、擬似神経などの保護をするために付ける。マリーは、義手の大きさと形に合うように、丁寧に加工した魔ゴムを、義手に被せていく。そうすると、魔ゴムで覆われた腕が出来上がった。その状態でも、動作の確認を行う。
「うん。関節部分に、ゴムが噛むこともなし。可動範囲の阻害もなし。大丈夫だね」
最後は、その上から、保護用の装甲を付ける。装甲は、関節部分には付けられないので、そこだけは魔ゴムが見えている。出来上がったのは、細身の腕だ。
「全部に『強度強化』を施しているから、強度は大丈夫だと思う。後は、この状態での動作確認……」
マリーは、義手の動作確認を念入りに行う。ここで不具合があれば、装着するマニカにも問題が生じる。やり過ぎくらいが丁度いいのだ。
「動きに心配は無い。よし! 次は強度実験だ!」
そう言って、マリーは、義手の試作品をハンマーで叩きまくる。金属が打ち合う音が響く。マリーに、一切の加減はない。
「うん。取り敢えずは大丈夫そう」
ハンマーで何度も叩いてから、動作確認をすると、さっきまでと同じように動いた。つまり、強度強化の成果が出ていると判断出来る。
「次は、接続用のゴムだね。でも、これは、マニカさんの魔力が必要だから、また今度か。取り敢えず、もう一度作り直すとして……後は、何かあるかな?」
マリーが、今できることは終わった。今作ったのは、試作品なので、改めて義手を作る事になるが、完璧な設計図が出来上がっているので、問題はない。
その他に何かあるか考えていると、マリーは、ある事を思い出した。
「そうだ。アルくんの剣も作ろう。それに、私の剣の強化もだね」
そこまで、考えたところで、
「マリー! ご飯だよ!」
コハクがマリーを呼ぶ声が聞こえた。
「はーい!」
マリーは、すぐに食堂に向かう。
「本当に来た。また、来ないかと思ったよ」
「ふっふっふ、いつまでも同じ私ではないのだよ!」
「マリー、威張ってないで早く座りな」
「は~い」
カーリーに言われて、マリーはすぐに座る。そして、夕食が始まる。
「マリー、義手は出来たのかい?」
「うん、一応ね。後は、もう一度作り直して、マニカさんと魔力置換をして、接続テストと動作テストを行うだけかな」
「じゃあ、再来週までは、お預けなんだ?」
「うん、だから、それまでは私の剣の強化とアルくんの剣を作ろうかなって」
マリー達は、そんな風に話をしながら、夕食を食べていった。夕食とお風呂を終えたマリーは、自室のベッドの上にいた。
「義手作りも一段落したし、今日はちゃんと寝よう」
さすがのマリーも、今日のところは就寝することにした。やるべきことが終わったため、ようやく安心して眠ることが出来るのだった。
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次の日、マリーとコハクはいつも通り学院に向かった。
「アルくん。おはよう」
「おはよう、アルさん」
やはり、いつも通り一番に来ていたアルと挨拶をする。
「おはよう、マリー、コハク」
「今日から、アルくんの剣を作ろうと思うんだけど」
「そうか。ありがとう。だが、あまり無理するなよ」
「うん、分かってる」
その後、今日の授業を終えた。
「コハク、私はネルロさんの店に行ってくるけど」
「そうなの? 私はリンさんと模擬戦するからなぁ」
「なら、俺が一緒に行こう」
アルが申し出て、マリーと一緒にネルロの店へと向かった。
「ネルロさん、この前頼んでおいたものを受け取りに来ました」
「あら、いらっしゃい。それにしても、あなた達、よく一緒にいるわね」
ネルロのその言葉にマリーとアルは、互いに眼を合わせる。
「そう?」
「まぁ、付き添うことは多いな」
「……鈍いのかしら? まぁ、いいわ。マリーちゃんが頼んでいたものは、赤水晶でしょ? はい」
マリーはお金を払って、赤水晶を受け取る。マリーは、ついでに自分の懐事情を把握する。
「さすがに、お金がなくなってきたなぁ」
「バイトする?」
ネルロが、マリーに提案する。
「ここで、ですか?」
「そうよ。一人雇ってたんだけど、諸事情で来られなくなっちゃってね」
「そうなんですか? う~ん、どうしよう……」
「バイトの他だと、魔物を狩ってギルドで稼ぐしかないな」
アルが、もう一つの選択肢を出す。
「う~ん……ネルロさん、バイトお願いしても良いですか?」
「ええ、大歓迎よ。一応、カーリーさんに相談はしてね」
「はい! 今日はありがとうございました」
「また来てね」
マリーとアルは、ネルロの店を出て行く。
「てっきり、マリーは魔物の狩りで稼ぐと思ったんだがな」
「私を戦闘狂とでも思ってるの? ネルロさんの店なら触媒についてとか色々学べそうだし、都合が良いと思ったんだよ」
「なるほどな。まぁ、その通りかもな」
アルは、マリーを家まで送った。家に帰ってきたマリーは、すぐに工房に向かう。
「さて、まずは、鉄と赤水晶を溶かして混ぜ合わせるっと」
工房の炉に火を点けたマリーは、鉄と赤水晶を入れた坩堝を中に入れる。融解して混ざり合ったそれを、鋳型に入れて冷やす。
出来上がったのは、赤いマーブル模様の鉄のインゴットだ。マリーは、それを複数作っていった。
「よし、これで剣を打ってみよう」
マリーは、作り出したインゴットを使って、剣を打ち始める。無心で打ち続けて、出来上がったのは、インゴットの時と同じ、赤いマーブル模様の刀身の剣だ。
「意外とうまくいった。じゃあ、これに、魔法陣を刻んでおこうかな」
剣舞で操った剣を器用に使って、剣を机に載せたマリーは、自分の剣と同じように、『強度強化』『軽量化』『鋭利化』『魔力効率上昇』を多重魔法陣で刻印してから、魔力の通り道を作り出す。そして、試しに自分の魔力を流してみる。
「うん。魔力の通りに滞りなし。アルくんには、時間が掛かるって言ったけど、案外早く出来ちゃった。これなら、もっと早く作ってあげればよかったかな」
マリーは、剣の出来を見て、満足げに頷いていた。
「それにしても、剣を作るまでの過程では平気だったのに、剣として完成した途端、持ち上げられなくなっちゃった。これが、祝福の効果なんだ……はた迷惑な話だよ……」
マリーは、目の前に置かれている剣を見ながら、ため息をつく。
「これ……どうしよう?」
現在、家にコハクはいない。もちろんカーリーの姿も無い。金床と違って、机の上に乗せてしまえば、自分の剣で運ぶことも難しい。
「アルくんに残ってもらえばよかった……う~ん、これは、このまま置いておこう。それじゃあ、私の剣の調整をしよっと。多重構造ができるようになったしね」
マリーは、ポーチから自分の剣を取り出して、魔法陣の調整を行う。多重魔法陣にしたおかげで、かなりの余白を作ることが出来た。
「それぞれに属性の付与と強化、伝導率の上昇……後は、剣唄のための魔力の通り道を作り直さないと」
マリーは、新しい付与と剣唄のための魔力の通り道を引いていく。
「よし、これで大丈夫っと」
そこまでやったところで、マリーは、工房を出て行く。ちょうど、そのタイミングでコハクが帰ってきた。
「ただいま~」
「おかえり、ぼろぼろだね?」
「リンさんに手加減無しでやってって言ったら、本当に手加減無しなんだもん。こっちも真剣に戦って、ようやく戦えるかもって感じだった……」
「まぁ、リンくんは強いもんね。私も戦ってもらおうかな」
「マリーは、アルさんに相手になってもらうと良いよ」
「何でアルくん?」
マリーは、本当にどういうことか分からず、首を傾げる。
「はぁ、アルさんも大変だね……それは、私も同じか……」
「?」
コハクの言っていることを最後まで理解出来なかったマリーであった。
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次の日、コハクに魔法鞄に剣を入れてもらったマリーは、アルに、それを渡す。この際も、コハクに取り出してもらっていた。
「不便な身体だよ……」
マリーは、がっくりとしていた。そんなマリーを置いておいて、アルは、受け取った剣を真剣な眼差しで見ていた。
「強度は申し分ないな。斬れ味はどうだろうか?」
「試してみる?」
マリーは、魔法鞄から大きめの石を取り出す。
「……なんで石なんて持ってるんだ? いや、どちらかと言えば岩に近いか」
「どんなものでも持っておくものだよ。こういうときに役に立つ!」
「その分の容量を別のものに使える筈なんだが?」
「……まぁ、それは置いておこう」
「逃げたね」
マリーは図星を突かれて、目線を逸らした。
「じゃあ、試すか」
アルは、目の前にある大きめの石を剣で斬る。すると、何の抵抗も無しに綺麗に石が斬れた。
「さすがは、マリーといったところか。凄い斬れ味だ」
「えっへん!!」
「ありがとう。いくらだ?」
「えっと、どうなんだろう?」
マリーは、お代のことを考えていなかったので、少し悩んでいた。
「う~ん、いつものお礼って事で」
「それだと俺が貰いすぎになるだろ」
「そうかな?」
「そうだろ」
「取り敢えず、保留ってことにすれば?」
コハクの意見にマリーが飛びつく。
「それだ! 取り敢えず、保留ね! 私が困ってたりしたときに助けてくれたら良いよ!」
「……はぁ、分かった」
アルは、少し不満が残っていそうだったが、マリーの意見に同意した。そんな事をしているとリリー達もやって来て、いつも通りの会話になった。そして、今日の授業が終わると、ホームルームでカレナから知らせがあった。
「翌月の半ばに、学院内での魔武闘大会があります。これは、いつもの模擬戦のように生徒同士で戦って、頂点を争うものとなっています。詳しい説明は、後日プリントを配布する際に話しますので、そういうことがあると覚えておいてください。では、今日は、これで終わりです。気を付けて帰って下さいね」
カレナがいなくなると、マリー達は教室で集まった。
「魔武闘大会だって。知ってる?」
会話は、マリーのそんな言葉から始まった。
「魔法有り、武器有り、なんでも有りの大会だ」
アルが自分の知っていることを話す。
「危険じゃないの?」
コハクがもっともなことを言う。
「毎年、怪我人が絶えないといいますわ」
「何で模擬戦と同じ、精神にくる結界を使わないの?」
セレナが、不安げにそう言った。模擬戦では、通常の攻撃が肉体ではなく精神へのダメージに切り替わる結界を張っている。
「最高位の治療師を呼んでいるから死ななければ、大丈夫と聞いているよ。実戦に近い形にしているんじゃないかな」
リンの言葉に、セレナとアイリが震える。
「うぅ……今から怖くて仕方が無いよ」
「本当にね……ねぇ、これってマリーの暗殺にもってこいなんじゃ?」
セレナが気付いて、そう言った。その言葉に、マリー以外の全員がハッとする。
「確かに、これに乗じて事故に見せかけて殺すことはあり得るな」
アルは、顎に手を当てながら可能性を考える。
「刺客を転校させて、その人にマリーさんを暗殺させるとかですの?」
「それは、可能性が高いね。でも、この時期に転校なんていうのは、珍しいからあからさますぎる気もするけど」
「確かに、リンさんの言う通りかも。じゃあ、転校生が現れたらその人に警戒すれば良いの?」
コハクが首を傾げる。
「そうだな。取り敢えず、転校生が現れたら警戒しよう。分かったか? マリー、お前の事だぞ?」
「う、うん。そうだね」
「大丈夫か?」
皆が、マリーに違和感を持つ。こういうときでも、冷静に物事を考えるのがマリーなのに、この話が出てきてから、少しおかしい。
「大丈夫。少し驚いてるだけだよ。そんな事をする可能性があることに……」
「……安心しろ。何があっても、絶対に守ってやる。絶対にだ」
アルが、安心させるようにマリーに言う。それを聞いて、マリーの調子が少し改善した。
「うん、ありがとう。アルくん」
「今日は、これで解散にしておくか。送っていくぞ」
「分かった。ありがとう」
マリーは、コハクとアルと一緒に自宅に帰った。それから、一週間と少し経った後、マニカの義手装着の日がやって来た。
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